昨晩の夜の空は全体的に靄がかかったように視界は悪かった。また薄雲が空全体を覆い、木星と更待月だけをかろうじて見ることが出来た。木星の隣りの土星も、月の傍の火星も、夏の大三角も見えなかった。
夕方から階段室に迷い込んでぶつかりながら飛び回っていたアブラゼミが、玄関扉のすぐ前で仰向けに転がっていた。死んでしまったのかと思い、土に戻してあげようと手を触れると、まだ生きていることを主張して翅を強く震わせ、鋭く鳴いて勢いよくぐるぐる回転した。
その勢いと大きな鳴き声に思わず手を引っ込めて、そのままにした。
朝、アブラゼミはそのままの仰向けの姿勢で相変らず玄関扉のすぐ下にいた。手を触れると昨晩のように鳴く。しかし昨晩のような勢いと大きな音ではなかった。階段室を行き来する人に踏まれてしまったり、歩く人を驚かしては本意ではなかろうと、妻が塵取りで掬うと弱々しく動いた。
妻は、コンクリートの床では悲しい、少しでも静かに最後のときが迎えられるようにと思ったようだ。かといってそのまま土の上に置くのもまた可哀そうだ、ということで、そっとツツジの葉の上に寝かせるように置いた。バランスよく葉と小枝の上に留まっているが、少しでも動くと土の上に落ちていまうかもしれない。しばらく妻はその姿を見つめてから戻ってきた。
そんなアブラゼミの最後のときのお膳立てをした本日は、長崎の原爆の日。広島の原爆の日は夏、昨日の7日が立秋。原爆の日は夏と秋にまたがる。
★首上げて水光天に長崎忌 五島高資