Fsの独り言・つぶやき

1951年生。2012年3月定年、仕事を退く。俳句、写真、美術館巡り、クラシック音楽等自由気儘に綴る。労組退職者会役員。

「田淵安一展-知られざる世界-」(その1)

2014年07月25日 12時16分34秒 | 芸術作品鑑賞・博物館・講座・音楽会等
   

 神奈川県立近代美術館鎌倉で開催されている「田淵安一展を見てきた。田淵安一(1921~2009)という画家、初めて目にする画家である。チラシを見なければ見過ごしていたと思う。チラシの表の「無題」(1953)を見て是非見に行きたいと感じていた。
 チラシを見てすぐに私の好きなパウル・クレーの絵を思い出した。明らかにクレーの絵を下敷きにしている。しかし色合いがさらに私の好みである。



 会場に最初にその絵が掲げられ、次の絵が「母子像」(1952)である。これはピカソの初期キュビズムの時代のような造形と青の時代のような色調が特徴に思われた。この2点をはじめ、1950年代の落ち着いた色彩感覚に魅入られた。
 画家は、1945年の敗戦時には米子の海軍航空基地で迎え、東京帝国大学の美術史科に入り西洋美術史を学び、絵は猪熊弦一郎に学んだという。新制作派協会展に出品したりしたのち、1951年にフランスにわたっている。私が生まれた年である。当時フランスに留学するというのはとても困難があった時代だと思うが、どのようにしたのだろうか。それはさておき、画家は自身の技法の確立のための模索時代であったろうが、同時にひたすら「西欧」を見て回った時期でもあるらしい。1953年にはデンマーク出身の妻を迎えている。
 具象的な絵画を離れてヨーロッパの抽象絵画への傾斜を深めていったようだ。といってもこの1950年代は具象と抽象の間を行きつ戻りつしていたと思える。

   

 この「神の手」(1954)はクレーのような記号論的な解釈も必要な作品に見える。同時に「女の原型」(1955)や「沼に雨が降る」(1958)などの作品もある。「女の原型」には赤子を顔のあたりまで高く掲げたような手と赤子と女の顔、女の乳房の片方がかろうじてわかる。一方で両脇の灰緑色の枠が女性の生殖器の象徴のようにも思える絵である。具象と抽象の融合のように作品に思えたが、私の勘違いかもしれない。



 1950年代末から1960年にかけて抽象表現に大きく軸足を移す。今回の展示では「激流」(1961)と題された作品がそれにあたる。梵字のような黒い造形が、素早い筆遣いを思わせる渦の背景に浮かんでくる。
 同時期の「三元素 風、水、火」(1961)で黒は風を象徴している。風というよりも大気の運動そのものであるようだ。「マンダラ」(1956)などの作品などから画家は西洋という風土に身を置きながら、アジア、あるいは日本ということを意識し始めている。しかしそれは生の形のアジアや日本ではない。画家独特のイメージの産物であり、具体的なものとしては存在しない架空の自然である。これは後半に記すが、とても重要なことのようだ。
 今回の展示、この「三元素 風、水、火」(1961)や「夜すぎるⅠ、Ⅱ」(1960)などの作品が無かったのは残念だったが、2006年にやはりここの美術館で開催された回顧展の図録には掲載されている。
 この時期が画家の技法と表現意識の確立期のようだ。

 さて前回、神奈川県立近代美術館葉山で見た宮崎進(1922~)も1951年に実質的な画家としての第一歩を踏み出している。ほぼ二人は同時代の画家である。
 宮崎進は敗戦後シベリア抑留という極限の体験をし、日本にようやく1949年に戻って故郷喪失者のように北国を放浪し、墨東の旅芸人の中に身をゆだねて、自己回復・自己の存在の探求に向かった。
 同じ年代で田淵安一は軍隊経験まではおなじ体験をしたが、フランスへ渡りそこで宮崎と同じように故郷喪失者として、ヨーロッパという風土の中でふるまう。そして自己の存在の根拠を探ろうとしている。
 終戦という大きな激動を経ることで、原点の喪失-自己回復という過程は同じかもしれないが、その方法と与えられた条件がこんなにも違うというのも考えさせられる。
 宮崎進の方法と持たされた条件は、放浪する人々、底辺の人々への「下降」意識といってもいいものである。宮崎進の1951年以降の諸作品や「旅芸人の手帖」に登場する作品とその表現意識には強烈な生活臭が伴われている。
 一方、田淵安一はそのような具体的な生活意識に根ざした指向は薄い。ひたすら自己の表現スタイルを西洋の技法の水準の中で確立しようとしている。知的な雰囲気も強い。
 鑑賞者にとってどちらが正しいとか、優れているとかという議論はなじまない。あくまでも好みの問題である。同時に両者のあり様を肯定することだってできる。
 両者を心のどこかで対比をしながら、作品を楽しむのもいいと思う。ひょっとしたらそれは日本の戦後の歴史の断面を見つめることになるかもしれない。



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