伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

破戒

2022-10-17 22:23:26 | 小説
 長野県内の被差別部落に生まれ、父が故郷から離れた地で牧場を営み、その父から被差別部落の生まれであることを「隠せ」と戒められて、師範学校を出て今は飯山の町で小学校教師となった瀬川丑松が、部落出身者であることを公言して虐げられた民の側からの主張を著し続ける思想家猪子蓮太郎に憧れ、猪子蓮太郎が推す代議士候補の弁護士市村の政敵高柳や、丑松を煙たく思う校長に忖度する同僚教師の勝野文平によって丑松の素性に関する噂を流される中で、懊悩する小説。
 丑松の迷い、戸惑い、恐れが、情景描写や、種牛に突かれて死んだ父を弔うための帰郷の比較的長いエピソードに、巧みに描き込まれ、思ったよりも長編でしたが久しぶりに近代小説らしい作品を読んだなぁという感慨を持ちました。
 2022年の映画作品のわかりやすさは好感できましたが、原作小説の長さがより丑松の思い、逡巡、苦悩を感じさせて味わい深いと思いました。
 現在の感覚からすれば、去るのでは解決にならない、居残って戦うべきだということになるかもしれません(もっとも、1980年代ニューアカブームでは逃げるが勝ち、近年はいじめに対して、学校に行かなくていい、まずは身を守れと言われますから、そうでもないかもしれません)が、書かれた時代(1906年出版)を考えれば致し方なく、問題提起だけでも十分というべきでしょう。
 私は(近視が著しいけれども)老眼がまだ来ないので苦にはなりませんが、久しぶりに見る1行43字19行の組は、ずいぶんと小さな字に見えました。文庫の標準的な39字18行に比べて16%程度字が多いだけなのですが。


島崎藤村 岩波文庫 1957年1月7日発行
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