伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

ギフテッド

2022-10-16 19:42:48 | 小説
 中二の時に母親に煙草とライターで二の腕から肩・背中にかけてやけどを負わされ、その後17歳で家を出て18歳の時にやけどの跡を隠すように二の腕から背中にかけて大ぶりの百合2輪と蛇の入れ墨を入れ、それをテープで隠したりしながら水商売をしている「私」と、8年ぶりに病院から「私」の部屋に越してきたいと言ってやってきたが9日後には呼吸困難になって病院に戻った母との間の微妙な関係を描いた小説。
 母親に二の腕を焼かれたことに繰り返し言及しながら、それが右腕か左腕かに触れることを避け続けていることが気になりましたが、85ページ(全体の7割くらい)に至り、「右手で左腕を触り、外から裏側の方に指を回して微妙な凹凸を吹くの上から撫でる」という間接的な言い回しでそれが左腕であることが明らかにされます。気にして読んでいたものが、あっさり語られるのであれば、そこまで注意深く隠し続けた意図はどこにあったのかと訝しく思えます。「私」がこだわる、母親が「私」の腕を焼いた動機・心情も結局よくわかりませんし。まぁ、そこは、現実世界の親子でもそういうものかなという気はしますけど。
 「お酒を飲むと、酔っている間は酔う前のことは思い出せない。酔いが醒めると酔っていた間のことが思い出せない」(19ページ)というのが、いいフレーズだなと思いました。
 過去の母親の行為のために傷つき複雑な思いを持つ子が死にゆく母親を目の当たりにして後悔の念を持つという点で、先日読んだ「百花」と共通点を持っています。「百花」が比較的優等生で多数の読者の共感を得るであろうのに対して、この作品は劣等生の立場から見たもっとざらざらしたものを感じさせます。


鈴木涼美 文藝春秋 2022年7月15日発行
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