伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

ヴァイタル・サイン

2024-08-15 21:30:02 | 小説
 看護師となって10年31歳の堤素野子が、癌で自宅で抗癌剤治療を受けている元看護師の母、整形外科医の交際相手、教育担当中の新人2人を抱え、悩み壊れそうになりながら勤務をこなしていく様を描いた小説。
 日勤・準夜勤・深夜勤のローテーションの負担、日常業務だけでも時間の余裕がないところに次々と訪れる患者の異変やナースコールの嵐、患者や家族からの苦情など、看護師の過酷な労働が描かれています。作者は看護師ではなく医師ということを考えると、看護師の目からは実はさらに厳しい実態があるのかも知れません。
 入院患者の娘(霞が関官僚)がネットの記載を見て「しっかり口腔ケアをしていたら誤嚥性肺炎は防げる」と書かれている、父が誤嚥性肺炎を起こしたのは看護師がきちんと口腔ケアをしていなかったせいではないかと責め立てるシーン(245ページ)。私の経験上も、依頼者や相談者がネットにはこう書いてあると言うことは始終経験しますが、この記事からこう読めるかと驚くことが多く、また少なくともこの人のケースでそれは当てはまらない(あり得ない)というのが通例です。記事を書く側は、専門家であってもあらゆることを想定しては書けませんので典型的なケースについて書くのがふつうですが、読む側の素人はその記事の前提というか想定を知らない/わからないのがふつうです。そして、読む側ではたいていの人は自分に都合よく解釈します。素人の相談者等からネットの記事等を言われる際には、そういうことがすぐにわかりますが、自分がその素人の当事者の側のとき、自分もまたそういう過ちを犯していないか、気をつけなければと思いました。


南杏子 小学館文庫 2023年10月11日発行(単行本は2021年8月)

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