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伊東良徳の超乱読読書日記

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検証 財界 中西経団連は日本型システムを変えられるか

2020-08-08 22:43:34 | ノンフィクション
 経団連や商工会議所等の経済団体、財閥の組織と現状等を紹介する読売新聞の連載(「解剖 財界」2018年10月~2020年1月)を単行本化した本。
 サブタイトルと「改革を加速する中西経団連」と題するプロローグに象徴されるように経団連の現執行部を「改革派」と位置づけて賛美し持ち上げています。その「改革」の中身は何かと言えば、就職活動の指針の廃止と官製春闘の拒否です。前者は採用等の時期の縛りをなくして企業に自由な、好き放題の採用活動をさせようということ、後者は政府からの賃上げ要請を批判し賃上げについても自由にさせろ(実質的には賃上げを抑え込みたい。日本の大企業は業績がよくても賃上げを抑え込み続けて巨額の内部留保を積み上げてきている)ということです。いずれも企業、特に強者である大企業が自分の都合だけを最優先して好きなようにやりたいというむき出しの欲望(わがままと言ってもよい)を示しているもので、労働者に対する保護(のための規制やこれまでの慣行)を撤廃してさらに労働者をいじめろということを意味しているのですが、読売新聞はそういう点には目を向けずに、大企業のやりたい放題を推進することを賛美しています。その方向性が明確な(露骨な)前半に比べて、後半では経済団体の活動が行き詰まってきている現状に特段の解決策も示さず(示せず)に閉塞感を持つ記述が続いていますが。
 大企業や権力者が自己を縛る「規制」をきらい、好き放題にやりたいから規制を緩和しろ(権力者の場合は憲法を改正しろとか)ということはありがちですが、その規制の多くは弱者を保護するため、あるいは社会を守るためでもあるわけです。それを無視して、大企業や権力者の希望(欲望)を無批判に支持し、反対者を批判することは、規制により守られていた弱者を切り捨てていいという判断を意味しています。この本では、大企業と利害が対立する労働者(従業員)や消費者(お客様)側の視点はまったくと言ってよいほど欠落しています。
 そして、取材対象の経済団体、大企業=財界を、批判的な目で検討していない記事を「解剖」(新聞連載時)とか「検証」と題して出版する神経には驚きます。


読売新聞経済部 中央公論新社 2020年4月25日発行
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