伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

祖母の手帖

2017-10-15 18:14:27 | 小説
 熱烈に思いを寄せた相手とは続かず、娘の奔放さを不安に思いさらには一族の恥と呪う母親から戦災で疎開してきた男と結婚するよう無理強いされ、愛のない結婚生活を続ける主人公が、流産の末その原因が腎臓結石と診断されて医師のすすめで温泉療法を行い、その逗留先でやはり結石を持つ片足が義足の妻子ある帰還兵と知り合い、惹かれてゆくという官能恋愛小説。
 主人公と夫の夫婦関係が、スタート時点で主人公が「わたしはあなたを愛していないし、ほんとうの妻には決してなれないだろう」と言い、夫も「心配はいらない」と答えた、彼の方も彼女を愛してはいなかったのだ(10ページ)と描かれ、新婚1年目に主人公がマラリアにかかり夫が献身的に看病をした(11~12ページ)が、二人は同じベッドで離れて寝て触れあうこともなかった(13~14ページ)ところ、ある夜主人公が夫に売春宿に通うのはやめるように言い自分が売春宿の女と同じサービスをすると言い出し(22~23ページ)それからは肉体関係を結びながら、「祖母は、愛というのはなんておかしなものなんだろう、といつも思った。愛は、ベッドをともにしても、優しくしたりよい行いをしたりしても、生まれないときには決して生まれない。一番大切なものなのに、どんなことをしても呼び寄せることができないなんて、ほんとうにおかしなものだと思った。」(25~26ページ)と設定され描かれています。そのサービスのリストには女体盛りとか犬のまねとかノーパン喫茶のメイドのような屈辱的なものがあり(それでも主人公は帰還兵にそれを「誇らしげに」挙げたというのですが:60ページ)、夫に「もう売春宿に行く必要がなくなったわけですが、わたしのことを愛していますか」と聞いたが夫は主人公の方を見ずに一人で微笑みらしきものを浮かべ、彼女のお尻を平手で軽くたたいただけで質問にはまったく答える素振りも見せなかった(63~64ページ)という状態で、その夫婦関係に満足できない主人公の焦燥感、愛への渇望感が、ポイントになっています。
 語り手は、主人公の息子の娘という設定で、当然知らないはずの主人公の若かりし頃の話を、伝聞形ではなく直接見たように語り、読んでいてわかりにくいというか違和感があります。回想の形もなく時期は行きつ戻りつし、しかも後半ではときどき語り手がいつの間にか主人公の妹になっていたりする(同じ章の連続するパラグラフで、主人公を「祖母」と呼んでいたのがその次のパラグラフでは何の断りもなく主人公を「姉」と呼んでいたりします)のも混乱を招きます。


原題:Mal di pietre
ミレーナ・アグス 訳:中嶋浩郞
新潮社(クレストブックス) 2012年11月30日発行 (原書は2006年)
コメント
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