近年の中国の環境汚染についてレポートした本。
中国政府は今、国家キャンペーンの一環として「美しい中国」というキャッチフレーズを掲げているそうです(18ページ)。外に敵を作って対立を煽るのが好きな政治家のセンスは似ているなと笑えますが、中国はそれにあわせて環境改善を模索中だが実際には「醜い中国」へと姿を変えつつあるというのがこの本の指摘です。大気汚染について、イエール大学とコロンビア大学の共同調査による「環境パフォーマンス指数2012」世界ランキングを見ると中国は132カ国中128位でワースト5というのですが、「ちなみに日本の順位はスイス、ノルウェーなどと並び1位だ」(18ページ)と言われると、調査の信用性に疑問を感じます。大気汚染の環境基準を長らく達成できず、今回調べてみたところでは近年は窒素酸化物等は環境基準が達成されているそうですが、浮遊粒子状物質と光化学オキシダントについては環境基準達成に至らない日本がどうして1位になれるんでしょう。2013年10月23日付の朝日新聞夕刊で紹介された研究によると日本国内のPM2.5の年平均濃度のうち越境汚染が占める割合は大阪・兵庫圏で50%、首都圏では30%にとどまる、中国でPM2.5の問題が深刻化するのは冬から春にかけてであり7月と8月の濃度は通常低い、一方日本ではこの時期にPM2.5の濃度が上昇する現象が見られている(95~96ページ)ということで、何でも中国のせいにしがちな風潮の下で国内の汚染源が見逃されて放置されていることになります。
ただそれにしても中国の大気汚染の現状は凄まじく、在北京アメリカ大使館の調べによれば2013年1月10日頃から北京市のPM2.5濃度が急速に上昇し一時は濃度が高すぎてアメリカ大使館の測定装置が計測不能になるほどだった(26ページ)、「ランセット」誌上で2012年に発表された「世界の疾病負担研究2010」によれば「2010年にPM2.5が要因で死亡した人は、中国本土で120万人にのぼる」とされ、中華医学会会長の鐘南山医師はPM2.5は新型肺炎SARSよりも遥かに恐ろしい存在であると警鐘を鳴らしている、ここ10年間で北京市の肺癌患者は60%増えていると紹介されています(29ページ)。
この本では「水質汚濁」として紹介されていますが、黄河の上流域の蘭州市には過去数十年間で1万体以上の遺体が漂着している、遺体の所持品から身元がわかれば家族に連絡して引き取ってもらうが連絡先がわからないことがほとんどだし、わかっても引き上げ費用が払えない貧しい家庭では引き取りを拒否することもある、遺体引き上げを委託されている業者も身元のわからない遺体を引き上げると引き上げ費用を回収できないので船上で調べて連絡先がわからない遺体は再び川に戻すとされています(123ページ)。経済発展が言われる中国ですが、企業が儲けてもその陰であくどいことが行われ貧しいままに留め置かれる民が多数いることは、いずこも同じということなのでしょうね。

沈才彬 角川SSC新書 2014年3月25日発行
中国政府は今、国家キャンペーンの一環として「美しい中国」というキャッチフレーズを掲げているそうです(18ページ)。外に敵を作って対立を煽るのが好きな政治家のセンスは似ているなと笑えますが、中国はそれにあわせて環境改善を模索中だが実際には「醜い中国」へと姿を変えつつあるというのがこの本の指摘です。大気汚染について、イエール大学とコロンビア大学の共同調査による「環境パフォーマンス指数2012」世界ランキングを見ると中国は132カ国中128位でワースト5というのですが、「ちなみに日本の順位はスイス、ノルウェーなどと並び1位だ」(18ページ)と言われると、調査の信用性に疑問を感じます。大気汚染の環境基準を長らく達成できず、今回調べてみたところでは近年は窒素酸化物等は環境基準が達成されているそうですが、浮遊粒子状物質と光化学オキシダントについては環境基準達成に至らない日本がどうして1位になれるんでしょう。2013年10月23日付の朝日新聞夕刊で紹介された研究によると日本国内のPM2.5の年平均濃度のうち越境汚染が占める割合は大阪・兵庫圏で50%、首都圏では30%にとどまる、中国でPM2.5の問題が深刻化するのは冬から春にかけてであり7月と8月の濃度は通常低い、一方日本ではこの時期にPM2.5の濃度が上昇する現象が見られている(95~96ページ)ということで、何でも中国のせいにしがちな風潮の下で国内の汚染源が見逃されて放置されていることになります。
ただそれにしても中国の大気汚染の現状は凄まじく、在北京アメリカ大使館の調べによれば2013年1月10日頃から北京市のPM2.5濃度が急速に上昇し一時は濃度が高すぎてアメリカ大使館の測定装置が計測不能になるほどだった(26ページ)、「ランセット」誌上で2012年に発表された「世界の疾病負担研究2010」によれば「2010年にPM2.5が要因で死亡した人は、中国本土で120万人にのぼる」とされ、中華医学会会長の鐘南山医師はPM2.5は新型肺炎SARSよりも遥かに恐ろしい存在であると警鐘を鳴らしている、ここ10年間で北京市の肺癌患者は60%増えていると紹介されています(29ページ)。
この本では「水質汚濁」として紹介されていますが、黄河の上流域の蘭州市には過去数十年間で1万体以上の遺体が漂着している、遺体の所持品から身元がわかれば家族に連絡して引き取ってもらうが連絡先がわからないことがほとんどだし、わかっても引き上げ費用が払えない貧しい家庭では引き取りを拒否することもある、遺体引き上げを委託されている業者も身元のわからない遺体を引き上げると引き上げ費用を回収できないので船上で調べて連絡先がわからない遺体は再び川に戻すとされています(123ページ)。経済発展が言われる中国ですが、企業が儲けてもその陰であくどいことが行われ貧しいままに留め置かれる民が多数いることは、いずこも同じということなのでしょうね。

沈才彬 角川SSC新書 2014年3月25日発行