伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

労働CSR入門

2007-10-19 22:37:52 | 人文・社会科学系
 企業の社会的責任の一環として公正な労働条件(主として労働者の団結権、奴隷的労働・児童労働の禁止)を守っていることを要求し、それを取引・商品購入の前提とし、そのために民間の認証機関の認証を求める動きについて論じた本。
 著者はこの動きに対して、民間認証機関がアメリカの団体でありアメリカ政府が支援していることから、途上国に対してのみ厳しくなる基本的人権に名を借りた保護主義のツールではないかと警戒するよう指摘しています。労働条件に関する規制については、アメリカもホワイトカラーイグザンプション(残業時間無制限)とか社会保険とかかなりひどいと思いますが、企業に要求する基準はILO条約の基本権部分に限定して「先進国」は困らないようにしているそうです。そういう面、著者の主張にも頷ける点があります。
 しかし、途上国での多国籍企業や昨今の日本のように使用者側がやりたい放題で政府の規制が効いていないとき、欧米の企業の経済戦略によってでも、労働者の労働条件を改善できるのであれば、それほど敵視する必要もないのではないかとも思います。
 著者が元ILO職員であるためでしょうけど、ILOの条約が、妥協の産物である部分も含めて最善で、ILO条約の実質的な内容や解釈はILOしかできないという姿勢には疑問を感じますし、ILOの組織防衛を優先している感じがします。ましてやアジアの(人権の)独自性を言い、アメリカの企業にイニシァティブを取られる前に日本版の民間認証機関を作り(そこには自分のような学者を参加させ)アジアの企業を防衛しようというような提言に至っては、労働者の権利の擁護水準の低さを守り経営側の利益を守ろうと言っているようでとても嫌な感じがします。


吾郷眞一 講談社現代新書 2007年8月20日発行
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破壊事故 失敗知識の活用

2007-10-19 00:45:03 | 自然科学・工学系
 工場や発電所、航空機・船舶等での破壊事故例を検討して分析した本。
 具体例に則して書かれているのと、「後日談」「よもやま話」など少しさばけた記述があるので、専門書としてはわりと読みやすいといえます。それでも内容は素人向けに噛み砕いてはいないので、素人にはそこそこの工学の知識とかなりの興味がないとハードルが高い。あと全く同じ文章が切り貼りされて2回出てくるところが目につくのが辟易します。
 読み通せれば、用語解説とか「知識化」とかコラムが勉強になります。亀裂が入ったときには引っ張り強さの高い材料の方が破壊強度が低くなるのが普通(35頁)とか、近年製鋼技術が向上した結果耐食成分が材料規格の下限ギリギリに制御されたステンレス鋼が市販材のほとんどを占めており昔の材料より耐食性が低くなっている(155~156頁)とか、大変参考になりました。
 しかし、編著者自身が原子力発電所関係の審議会とかに入っているせいか、原子力発電所関係のところでは構えたというか安全を強調する記載に終始する傾向があるのは残念。特に最後の統計のところで1996年から2000年の5年間の事故報告を取りあげて平均発生率は極めて小さいといえる(273頁)などというのはかなりアンフェア。この本自体が前半で取りあげているようにその時期に大半の原発で炉心シュラウドや再循環系配管といった原子炉の枢要部に極めて多数の割れが発見されながら報告せずに隠していたことが2002年に発覚しています。それを紹介せずに隠さずに報告された氷山の一角の件数を示して発生率が極めて小さいって、ほとんど詐欺。こういうことをすると、少なくとも原発関係の記述は客観的な技術屋の視点ではなく政治的なバイアスがかかっていると読まざるを得なくなります。
 事故調査の解析と結論が「わが国では、例外なく主原因は複数となり、材料は必ず主原因の1つにあげられる。これは、破壊事故の社会的責任をあいまいにし、機器のユーザー、メーカーと材料メーカーに責任を分散するという、わが国独自の風土に基づいている。」(145頁)とか、「原子力発電所における応力腐食割れとの戦いは、相手の材料を変えて永遠に続くのである。」(153頁)とか、原子力にまさに当てはまるなかなか興味深い指摘もあるのですが。


小林英男編著 共立出版 2007年8月10日発行
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