伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

ラブかストーリー

2007-10-07 11:49:25 | 小説
 超美少年だが中身はネクラでオタクの小説家志望で独り言癖のあるうぶな高校生が通学電車で一緒になる超美少女に憧れる青春恋愛小説。
 うぶな少年と周囲の性的に開けっぴろげな大人たちのコメディ風の会話と、主人公の内心あるいは妄想からこぼれる独り言で場面を展開して間を持たせていくパターンです。
 コメディ風の部分は軽く読めるけど、独り言部分はその気持ち悪さを茶化してはいますがそれがまたすべっていてしらけ気味。間に、最後に種明かしされますが、明らかにトーンの違う幻想/妄想的な気取った作文がはさまれていて、これがまた疲れる。どうせならコメディで統一すればいいのに。
 しかし、それにしてもこの小説、一体どういう世代をターゲットにしているのでしょうか。この種の小説を読みそうな中高生・ヤングアダルトを狙ったにしては中途半端な文体。それに何と言っても出てくる漫画(「タッチ」「まいっちんぐマチ子先生」「日出処の天子」「あさきゆめみし」「カリオストロの城」「なぜか笑介」「バナナフィッシュ」)や映画(「ベルリン・天使の詩」「昨日・今日・明日」「男はつらいよ」スターウォーズシリーズ「奥様は魔女」「気狂いピエロ」「勝手にしやがれ」「アルフィー(2004年のジュード・ロウ主演の方ではなくて1966年のマイケル・ケイン主演の方!)」「戦艦ポチョムキン」「アンタッチャブル」)、歌(「マイレボリューション」「恋しさとせつなさと心強さと」「迷い道」フリオ・イグレシアス「ビギン・ザ・ビギン」「グッドバイからはじめよう」「すみれSeptemberLove」「オリビアを聴きながら」「サムライ(沢田研二)」「I SAY A LITTE PRAYER」)がすべて80年代前半かそれ以前(バナナフィッシュが85年連載開始なので辛うじてそれ以後とも・・・あとたぶん唯一の例外が「クレヨンしんちゃん」)。80年代前半を舞台にしているならわかるけど設定は明らかに現在。作者のサブカルチャー体験は80年代前半でストップしているんでしょうか。さすがに恥ずかしいのか、寿司屋の主人に20歳の時に読んだ本は今でもあらすじはいえるが30歳の時に読んだ本は作者の名前すら忘れたりする、大人になってから受け取ったものはもはや自分の中に収容場所がない、大人になって急に興味を持ったことについての蘊蓄は底が浅い(241頁)なんてことを言わせていますけど。主人公はおじさんたちを自分とは別世界の「昭和の」(70頁)と位置づけていますが、この主人公の頭の中もサブカルチャーは完全に昭和世代(団塊ジュニアかそれより前)。坂道をオレンジが転がって来るという主人公の小説のシーンとスーパーボールが散乱するラストシーンだけはSony+YoutubeのCMを流用してて広告だけは最新のものも頭に入っているようですけどね・・・


松久淳+田中渉 小学館 2007年9月3日発行
(「きらら」2006年8月号~2007年7月号連載)
コメント
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