限りなき知の探訪

45年間、『知の探訪』を続けてきた。いま座っている『人類四千年の特等席』からの見晴らしをつづる。

沂風詠録:(第117回目)『日本人学生の英語のプレゼンテーションに関して』

2010-12-24 10:49:47 | 日記
私が現在京都大学で行っている授業の一つにKUINEPという英語の授業がある。講義タイトルは
『Craftsmanship in Japanese Society』(邦題:日本の工芸技術と社会)
で日本の工芸技術と社会の関連を講義している。工芸技術とは、書道、彫刻、陶磁器、彫金、絵画、料理、落語、など普通考えられている工芸の範疇を超えて多岐にわたる日本の伝統技術を解説している。

このクラスでは、留学生のほか、京都大学の日本人学生も受講している。今期は、日本人学生と外国人学生が大体20人弱づつで釣り合っていた。通常の授業では、私の説明で学生達は聞く一方であるが、国際的な環境にあるこの機会を利用して、日本人学生と外国人学生同士が直接話しあえるように、グループプロジェクトを課した。それは、下記の講義のテーマから好きなテーマで日本と外国人学生の母国の文化を比較し、それを15分間で発表するというものである。

 Chapter1: Ink brush, Inkstick, Inkstone, Paper and Calligraphy
 Chapter2: Sculpture, Furniture, Folk Craft, Netsuke and Za (Artisan Guilds)
 Chapter3: Porcelain, Lacquerware, Makie and Korean Craftsmanship
 Chapter4: Mining, Metallurgy, Sword, Armor and Samurai
 Chapter5: Painting, Ukiyo-e, and Modern Visual Arts (Manga, Animation)
 Chapter6: Engineering (Architecture, Civil Engineering, Robot) and Modern Industry
 Chapter7: Cooking, Liquor, Textile and Festival

ここでの目的の一つが以前『日本人に欠けている対話スピリッツの涵養法』で書いたように
『。。。この共同作業を通して彼らなりに対話スピリッツ の必要性を感じてもらえたら、と期待している。』
ということである。

この発表は当然のことながら英語で発表するのであるが、その際のプレゼンテーション(delivery)では、スクリーンだけみて聴衆を見ていない、聴衆に話しかけるのではなく文を読み上げるなど、いろいろと問題点を指摘しておいた。



プレゼンテーションの仕方ではなく、英語の発音についてここでは指摘したい。
気にかかったのが次の3点である。
【1】子音の発音が間違っているし、弱い。
【2】R の音が、全ての単語に付く。
【3】prosody が正しくない。

【1】子音の発音が間違っているし、弱い

これは、例えば Sky という単語を『スカイ』と発音しているようなケースが多かったことをいう。 Sky とは S-k-アイ と発音できないといけない。つまり、子音は子音として独立に発音できないと英語(そしてヨーロッパ言語一般)にならない。S の代わりに『ス』という音で発音しようとすると、S の音が短く、唇の形も『ウ』を発音する時のようにすぼまってくる。しかし S の音はいつまでたっても『スーーー』という単に歯の間から空気が漏れる音でなければいけない。これと同様なことが他の子音にも言える。また、英語での子音は我々が考えている以上に強く発音されている。私はあるとき、雑音の中で数メートル離れたところで数人のアメリカ人が話しているのを聞いていたところ、子音しか聞こえなかった経験がある。これは、子音と母音の周波数の差というより、音の強度の差であると感じた。

子音など簡単だ、と考えていることが日本人の話す英語が英語らしく聞こえない原因ではないかと私は考えている。

【2】R の音が、全ての単語に付く。

これは、日本人にかなり共通に見られる悪癖であるように感じる。我々の耳には、英語の発音、特にアメリカ人の発音のうち R が頻発して聞こえるようだ。それで、R の音を入れると英語らしく聞こえるに違いないと錯覚して、全ての単語に R の(それも間違った発音の R を!)付加している。こういった発音は(多分)ネイティブの人たちの耳には煩わしいと聞こえているように私は感じる。当たり前の話であるが、英単語に R が付かない音の方が遥かに多い。もっと素直に発音すべきであろう。

【3】prosody が正しくない。

この点については以前のブログ『聞いてもらえる英語を話そう(その2)』に書いたとおりであるので、ここでは、どうすれば直せるかについて述べたい。これは一つには呼吸法にあると私は考える。学術的にはどのように言われているのか知らないが、私の経験上から言うと、子音というのは発音するのにかなり空気を必要とする。つまり、肺に取り入れた空気を浪費している。従って普通の日本語の呼吸法ではすぐに肺の空気が使い尽くされてしまう。つまり、英語で話をすると息継ぎを頻繁にしないといけない破目に陥る。それで、話している途中で(結果的に)prosody を無視してでも息継ぎをしなければいけない。

英語の文というのは、一種のリズムであるから、あくびを途中で止めれないように、一呼吸分で話すべき長さの文があるのだ。こういった本当の意味での『英語の話し方』を会得しない限り英語は話せても聴いてもらえないケースもあるだろう。

この点を直すには、英語を話す時は、意識して腹式呼吸をしないといけない。私はこの事をドイツ語を学んでいた時に学んだ。というのは、ドイツ語は英語以上に子音を強く発音するので、すぐに息切れになる。困ってドイツ人教師に聞いたところ、腹式呼吸のことを教わった。確かにその後ドイツで暮らしてみると、子供ですら、長い文章を一息で話している。この腹式呼吸は話すだけでなく、歌唱の訓練でも指摘されていることは言うまでもない。

以上のように、日本人学生の発音には、一部の例外を除いてこのような問題点が多く見られた。ところが外国人学生、とくに西欧系の学生にはこのような欠点がほとんど感じ取られなかった。また中国系の学生もかなり上手に発音していた。当然のことながら、サンプル数が少ないので、この現象を一般化できるとは思っていない。

いろいろと日本人学生の欠点をあげつらったが、どうしたら改善できるか、私の結論を述べたい。上記【1】と【2】の発音に関連する欠点については、自覚できない欠点は直そうとしても難しいのではないか、と感じる。つまり誰か正しい発音のできる人に矯正してもらわないと直らないと私は思っている。【3】に関しては、いろいろと方法はあると思うが、結局は一年以上外国で暮らし、大量に話すことで、自然と身に着ける方法がベストであるように私には思える。

コメント
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