限りなき知の探訪

45年間、『知の探訪』を続けてきた。いま座っている『人類四千年の特等席』からの見晴らしをつづる。

【2010年授業】『ベンチャー魂の系譜(11)-- Part1』

2010-12-17 21:16:40 | 日記
【ベンチャー魂の系譜 10・昭和のベンチャー(小林一三、和田一夫、盛田昭夫)】

モデレーター:セネカ3世(SA)
パネリスト:
はせじゅん(経・4)
A:聴衆

【輝かしい昭和のベンチャー】

日本のビジネス界というのは、江戸時代にもまた明治以降も大物がいたのは確かだが、昭和
の時代ほど活き活きとした時代は無かったのではあるまいか。それは、第一次世界大戦によっ
て日本が未曾有の戦争特需を享受し、また太平洋戦争の敗戦で英才を失い、また全く無一文に
なったにも拘わらず、ベンチャー魂の塊のような人が澎湃として表れて、それぞれの持分を
十二分に発揮した時代であった。私の想像だが、後世(紀元5000年頃)日本は多分世界の第30位
ぐらいの中級国家(人口4000万人程度)になっているだろう。その時、あたかも現在のポルト
ガルが大航海時代(15,16世紀)の栄光を懐かしむが如く、日本が世界第二位の栄光の過去を懐
かしむ時には常に、この昭和のベンチャーの隆盛時代を思い返すであろうと私は想像する。

現在のベンチャーとこの輝かしき昭和のベンチャーの立役者達をくらべると、なんといっても
社会性が違う。昭和のベンチャー達に、自己の利益や栄達より、社会への寄与・貢献の意識を
強烈に感じる。良くも悪くも、日本の伝統的な村社会意識が感じられる。このお世話になった
社会へ出来るだけ還元したいという公的な意識だ。ついで、アイデアがそれこそ『湧くがごとく』
に出てくる人が多い。小林一三しかり、松下幸之助しかり、本田宗一郎しかり。堅苦しい言葉を
もちだせば融通無碍と言えよう。彼らにとっては、逆に学問・学歴が邪魔に思えるほど、前例
に囚われないアイデアを思いつき、実践し、失敗あるいは成功している。このチャレンジ精神
こそが、私がこの授業で言うところの『ベンチャー魂』である。

    *****************************

今回のテーマでは、以下の人達が対象となる:
小林一三
鳥井伸治郎
竹鶴政孝
石橋正二郎
野村信之助
山岡孫吉
本田宗一郎
藤沢武夫
井深大
盛田昭夫
市村清
和田一夫
安藤百福

ただ、色々な制約のもと、今回はヤオハンの創業者、和田一夫氏に絞った話になってしまった。
機会があれば、上に挙げた色々な創業者についても議論してみたいと思っている。



【図書の紹介】

市村茂人「起業の神様・市村清の実像」(中経出版)

(SA):本を買う価値。もし心に残るフレーズがひとつでもあれば、その本は買うべきだ。
私はいつも本の後ろに紙を付け足して、メモしている。そうすると、記憶に残る。実業
界の人の実践の成功例から、初めてその人の言う言葉が重みを持ってくる。その人の体
験から、絞り出された言葉には、価値がある。
この本には、気になるフレーズが3つあった。一つ目は、「執念を持たなければ、成就し
ない」。二つ目、「儲かる」ということが大切。「儲ける」ではダメと言っている。この
2つの違いは何か?

A:自発的かどうか。「儲ける」は自発的で、「儲ける」は結果として付いてくる。
(SA):そうだ。市村さんは、「儲かる」事業をやりなさいと言っている。こういう人達も、
初めからきちっとしたコンセプトを持って起業したわけではない。市村さんも、初めは
「儲けよう」という邪念を少なからず持って、事業をしたが、上手くいかず、「儲かる」
ビジネスをやっていくうちに、その大切さに気付いた。最終的に、名を残した起業家とい
うのは初めから上手くいっているように思えるが、決してそういうわけではない。出だしは、
皆さんと一緒だ。成功した人として見ないで、その人の成長の段階を追って、見ていくと、
どのように成長したかがわかる。「儲ける」事業と同様なのが、金を目当てに事業を起こ
してはいけない、という事。今は8割くらいの人が、金儲けのためにベンチャー企業を起こ
している。渋谷のビットバレーという若い経営者の集まりがあったが、いろいろ話を聞くと
大体8割の人が金儲けや、名を馳せる為、つまり邪心を持って事業を興している。

堺屋太一「日本は造った12人」(PHP新書)

(SA):堺屋太一は、もともと大阪の万博を誘致した人。堺屋太一は、いろんな企業の在り
方や、社会構造などを自分の目で判断している。堺屋氏の見解では、高校の歴史で教えら
れていることとは正反対のことが多い。
ところで、この本の中には、起業家と財界人の差が述べられているが、財界人とはどのよ
うな人か?
はせじゅん:取締役以上の人。お金を支援した人。
(SA):財界人とは、東証一部上場企業、または上場していなくてもサントリーのような大
きな企業の社長達のような人。日本経団連、経済同友会、日本商工会議所などに所属して
いるトップの人たちの総称。彼らは、自分で大きなビジネスを興したわけではない。また、
彼らは、自分で給料などを決められない。株主総会で、給料が決めらている。創業者という
のは、自社株などを大量に持っているので、基本的に自分の給料は、自分で決められる。
収入の桁が違う。堺屋は、この本の中で、残念ながら、財界人は社会還元が少ないと言って
いる。それに対して、創業起業者は、自分のお金で様々の社会貢献をしている。この差は
大きい。

小島直記「エンジン一代―山岡孫吉伝」(集英社文庫)
城山三郎「雄気堂々」(新潮文庫)
(SA):この類の本は経済小説と呼ばれる。小説というのは、人情ものが多いが、経済小説
というのは事実をベースにして書かれている。それも具体的に、企業がどのように成長して
いったか、何を企業理念としていたか、などが書かれている。社会人・企業人になったら、
このような本を読むことを勧める。その理由は日本の企業を動かしている基本理念や常識を
知ることができるし、日本の資本主義社会が大きくなって過程が分かるからである。

安藤百福「魔法のラーメン発明物語―私の履歴書」(日経ビジネス人文庫)
(SA):このような人は、自分のやろうとしたことを徹底的にやる。安藤は、チキンラーメ
ンを作るために、自分の財産を無くしている。実は、ベンチャーといのは、そこまでして
までやる意思があるかというのが大事。しかし、金儲けの為に、ベンチャーを立ち上げて
いる人は、お金が減ることを怖がるので、こういったことはできない。ところが、安藤百
福は違う。自分がやりたいことになって、金を無くしてもいいと思っている。あと、
安藤百福が成功した理由に、もともとは、安藤はラーメンや食料のプロではなかったこと
がある。プロの発想というのは、固定化してしまっているが、安藤はゼロから考えて、こ
れまでの考えはおかしいと思った。プロのやり方でやっても、大抵は成功しない。プロと
いうものは、結局はエンジニア。エンジニアは、現代の技術を知っているが、一新すると
いう発想はない。一番有名な話は、ソニーのハンディカムで、どのような製品か知ってか?
A:めちゃめちゃ小型で、手に入る大きさのカメラ。
(SA):当時のVTRは、肩に担いでいた。しかし、ソニーの井深さんは、パスポートと同じ
大きさのカメラを作るよう指示し、作らせた。まず、大きさから指定したのだ。このような
とてつもない発想がベンチャーには必要だと考える。

【和田一夫とは?】
はせじゅん:この人は八百屋をやっていたのだが、お客様との信頼が一番だと書いてあっ
た。印象に残った順に書いてあり、物事が整理されて書かれてなかったので、非常に読み
づらかった。
(SA):物事が整理されているので読みやすいというのは、教科書のように、整った知識を
与えるということを目的としている本だ。私の本の読み方は違う。著者が何を訴えたいの
かが強烈に、前面に出ている本がよいと考える。知識が整頓されているかどうかは2の次。
そもそも文章を整理だてて、書くと面白くない。ほとんど均一化された文章となってしま
って、インパクトがどこにあるかわからないような文章になり、面白くない。もし和田一夫
さんのことを知りたかったら、一冊の本を読んだ後で他の本を読めばいい。得た情報であた
かもジグソーパズルを少ずつ埋めていくやり方で情報を蓄積していくのが本筋の本の読み方
であると考える。学生の場合、習う範囲が決められている、つまりジグソーパズルの大き
さが決まっているが、社会人の場合、大きさはあらかじめ決められているわけではない。
その上立体的でもある。つまり、限界が定められた範囲の受験勉強と社会人になってからの
ようにどこに正解があるかまったく分からないのとでは、やり方が違う。

【なぜこのテーマを選んだのか】
はせじゅん:余っていたから。また、前回選んだテーマとは、違う時代の人を選びたかっ
たから。
(SA):私のブログに『歴史の壮大な三角測量』という記事がある。物事
に対して、違う場所の価値観だけで判断するのではなく、違う場所の違う時間軸の価値観
で判断することが大事。9.11も、違う場所や、ちがう時代によって、価値判断が異な
る。
例えば、復讐のことだと、いまの日本では認められているか?
A:司法によって行われることは認められているが、自分自身で行うことは、認められてい
ない。
(SA):法の中で行われるので、結果的に自分のやりたい復讐とは違う。それを日本人は是
としている。しかし過去の日本では、そのように誰かに復讐をやってもらうことは、卑怯
であるというのが常識。イスラムだったらどうなのか、過去のイスラムではどうだったの
かなどという想定問答を考えることが大切。時間軸を持って、幅広く世の中を見て欲しい。


続く。。。
コメント
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