Dr.keiの研究室2-Contemplation of the B.L.U.E-

養護と赤ちゃんポスト

みなさんは、赤ちゃんポストに賛成ですか?反対ですか?

この問いにきちんと答えるためにも、赤ちゃんポストと養護(社会的養護)の関連について、少し論じてみます。(僕自身は「よく分からない」というのが答えです。知れば知るほどに分からなくなるんです。ホントに)

***

http://blog.goo.ne.jp/sehensucht/e/3c3bc8a12d9eafae942e02590a6472ae
(この続きです)

本来、養護は、それが子どもであれ、生徒であれ、高齢者であれ、その対象となる人を、親や子(介護の場合は娘が圧倒的)に代わって、お世話をすること、ケアすること、である。養護という言葉が使われる場合、このことが前提となる。

子どもの養護という場合、親(とりわけ母親)に代わって、親業(Elternarbeit)を担うことが求められる。子どもが物質的に産まれた後、母親が何らかの理由で我が子を育てられない場合、児童相談所を経由して、乳児院、児童養護施設に措置されることになる。また、その母親が今後我が子を養育することが不可能な場合、我が子を養子縁組(とりわけ特別養子縁組)に出すこともあり得る。

この場合、前提となるのは、
①母親が無事に出産することができるということ、
②母親がなんらかの正当な理由があるということ(精神疾患や非嫡出子や貧困やその他の理由)、
③母親が実名で公的機関に相談できるということ
である。

日本の養護(社会的養護)の場合、①がすべての前提となっている。実名で無事に出産できる女性だけが公的な社会的養護の支援を受けることができる(できない場合もある)。

だが、多くの人が知っている通り、「無事に実名で出産することができる」という前提は、すべての妊婦に保障されているわけではない。児童遺棄、乳児殺害は、今の時代でも頻繁とは言わないまでも、かなりの頻度で起こっている。児童遺棄や乳児殺害(嬰児殺し)を行なうのは、何の支援も受けることなく、ケースによっては病院の外で一人で出産した母親である。児童遺棄や乳児殺害を犯す女性たちは、犯罪者でありながら、同時に支援を最も必要とする「緊急下の女性(Frauen in Not)」である。

彼女たちは、上にみた①の前提を満たせなかった人たちである。もし①の前提が満たせていれば、彼女たちは、犯罪者・殺人者になることなく、自分も自分の子も救われていたかもしれない。少なくとも、「支援の対象」に成り得たのである。

こうした緊急下の女性を救済しようと、ドイツで2000年に開始されたのが、「赤ちゃんポスト」を含む「女性救済プロジェクト」だった。このプロジェクトは、①匿名出産、②匿名の預け入れ(ここに赤ちゃんポストが入る)、③個別の引き渡し、④母子生活支援、という主に4つのねらいをもった大がかりなプロジェクトであった。

出産前の救済、出産直前の救済、出産直後の救済、出産後の救済、細かく見て、妊婦の置かれている時期・状況に合わせた支援をしようとねらったのが、2000年に始まる母子救済プロジェクトの本質的な意義であった。その中に含みこまれていたのが「赤ちゃんポスト」であった。

赤ちゃんポストを論じる前に、まず確認しておきたいのは、出産前~出産直後の女性(母親)の救済・支援は、社会的養護の前段階にあるもので、(現存する)社会的養護に先立つものである、ということである。本来最も愛すべき我が子を産めない女性、育てられない女性、どうしてよいか分からない女性、苦しみの渦中にある女性を救済すること、安心して出産してもらうこと、出産後に安全に乳児を保護すること、母子の命を守ることは、その後の社会的養護をより確かなものにするために、必要不可欠(必要悪かもしれないが)なのである。

赤ちゃんポストの是非を問う前に、まずこのことを確認しておきたい。

緊急下の女性が、安心して、誰にも出産のことがばれずに、分娩することができたら、(それほど多い人数ではないにしても)多くの女性が救われるし、また、その女性の赤ちゃんも遺棄されず、殺されずにすむはずである。殺人者になることなく、遺棄者になることなく、救済されるべき対象者となるのだ。日本では、こうした緊急下の女性への支援が十分でないので、殺人者や遺棄者になる女性が後を絶たない、と考えてよいだろう。

しかし、それにしても、なぜ、そんな緊急事態に陥るまで、その女性は何の手も打たなかったのだろうか。ここでいう「緊急下の女性」とはいったいどのような女性たちなのだろうか。中絶もせず、出産までの間に問題を解決できなかった女性の抱える問題とはどんな問題なのだろうか。なぜ、殺害や遺棄に至るまでに、追いつめられてしまったのだろうか。それは、どんな女性にも起こり得ることなのか、そうでないのか。(社会的養護との関連において)その女性の学歴や知性はどの程度なのか。年齢はどの程度か。…

赤ちゃんポストの是非を問う前に、「緊急下の女性」について、きちんと理解しておきたい。

→つづく。

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