ニューヨーク・タイムズに中国の鉄道大臣・劉志軍氏Liu Zhijunが首になったという記事が出ていた。劉大臣は汚職の嫌疑で解雇され、党の懲罰委員会の尋問を受けている。だが大臣級の大物が単なる汚職嫌疑で解雇されるというのは中国では稀なケースだ。ニューヨークタイムズは劉大臣の解雇の背景にはもっと大きな問題が潜んでいるだろうと推測する。
大きな問題は幾つかあるが、その一つは高速鉄道の安全性に関する問題である。タイムズは次の鉄道大臣と目されるSheng Guangzuが「質と安全を鉄道建設の中心課題とし、安全性をトップ・プライオリティにする」と述べていることから、劉大臣が推し進めた鉄道網建設に安全上の大きな問題があるのではないかと推測している。
今のところ高速鉄道の事故は起きていない(在来線では時々事故があるが)。しかし鉄道省に関係の深い人物の話では基礎のコンクリート(枕木等か?)の材質が安物で、数年の内にレールの直線性が劣化し、現在の速度を維持できなくなる可能性があるとということだ。詳しくいうと、現在の新幹線の速度は時速約350kmだが、5年以内に300km以下での走行にしか耐えられなくなる可能性があるということだ。
強いコンクリートを作るには、大量のフライアッシュ(飛散灰)が必要だが、石炭燃焼時の副産物であるフライアッシュの確保が間に合っていないということだ。
また中国は鉄道建設コストを欧米・日本のレベルに較べて大幅に抑え込んでいる。中国の鉄道建設コストは1マイル15百万ドルだが、米国では40百万ドルから80百万ドルかかると予想される。いくら中国の人件費が安いとはいえ「手抜き」が多い感じがする。
JR東海の葛西社長はFTに「中国は日本のデザインに基づく列車を25%速い速度で走らせている。中国の鉄道省は我々と同じレベルで安全性に注意を払っているとは思えない」と見解を述べている。
これ程建設コストを抑えているにも関わらず、中国の民生銀行のレポートによると、鉄道省の債務比率は現在で総資産の56%で、2020年には70%に達する可能性がある。同レポートでは新幹線の利用率が高くても、20年間は赤字続きということだ。
新幹線の切符代が在来線の数倍という高さにも国民の非難が高まっている。混んでいる上、ヤミ切符はさらに高いからだ。劉大臣が解雇だれた時期が新幹線に対する国民の不満が高まった中国の正月直後というのは、重要な意味を持つのではないか?とタイムズは結んでいた。
☆ ☆ ☆
高速度で成長を続ける中国経済を象徴するのが中国の高速鉄道網だ。だが建設スケジュールと予算を重視する余り、安全性が軽視されていたことは否めない。日本の新幹線を真似した車両で、十分なテストもせず、25%も早く走らせているとすれば大変危険な話だ。
公害、環境汚染問題など高度成長と並行して、色々な問題が中国では高まっている。高速鉄道も大きな懸念材料になってきたかもしれない。