少し前エジプトで100万人の反政府デモが行なわれた時は、この国はどうなるのか?という不安を持った人が多かったろう。だが今リビアでカダフィ大佐側が民衆に向かって無差別な発砲を行い200名以上の死者が出ている状況を見ると、ムバラクの退任は随分平和的に行なわれたと思われる。
米国の外交問題シンクタンク・外交問題評議会Council on Foreign RelationsはLibya's Leadership Crossroadsというタイトルで短いレポートを掲載している。その書き出しは「中東に広がった騒動の中でエジプトの民衆蜂起が最良のものとすると、カダフィの政権維持のための残忍な努力は最悪のものだ」というものだ。
エジプトで専制政権の打倒が比較的平和裏に行なわれたのに対し、リビアでは何故流血の惨事が起きているかという問題を考えると、エジプトでは軍が民衆を支持することで、自らの正当性を保ったのに対し、リビアの軍部はそのような役割を果たせなかったことが大きいと思われる。リビア軍は他のアフリカ諸国からの傭兵が多く入っているからだ。
現在リビアの反政府派は、同国東部のベンガジ(第二の都市)を中心に東側を押さえカダフィ政権と対峙を続けている。予断を許さない状態だ。
リビアは世界12位の産油国で、イタリア・ドイツ・フランスは同国の原油の半分以上を輸入しているので、リビアの混乱が欧州経済に与える影響は甚大だ。
外交問題評議会は「暴力と残虐行為により、原油の輸出が妨げられることが起きるならば、欧州の主要国は、武力介入を含むより強力な次の手段を考えざるを得なくなるかもしれない」と結んでいる。
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リビアの刻々と変わる情勢の分析は専門家に委ねるとして、本当の国の強さはどこから来るのか?ということをちょっと考えてみたい。
エジプトの政権交代が平和裏に進むという前提の下、エジプトとリビアの対比で考えると、エジプトにはムバラクという独裁者に対して、軍部あるいは抑圧されていたとはいえ、イスラム同胞団のような中立ないし反対勢力が存在したが、リビアではそのような勢力が存在しないことが指摘できる。
私は早晩カダフィ政権は倒れると見ているが、その後権力の真空状態が発生し、先が読めない事態が起きると予想される(後段は専門家の見方)。
つまり石油市場や金融市場がリビヤ騒乱に怯えているのは、ポスト・カダフィが予想が着かないことにある。
話を国の強さに戻すと、健全な反対勢力を持つことが国の強さ、つまり安定性を保つ有効な手段であることが分かる。
来年度予算を巡って日本はまさに政治的混乱の最中にある。この原因は09年の総選挙で民主党が大勝するまで、自民党の一党独裁が続いたことの反動ではないか?と考えられるのである。
健全な批判勢力を育てるということは、国や会社にとって生存の必要条件なのである。