最近会社で「どうして世界の株式市場は2月の急落から回復しているのに日本の株式市場は調子が悪いのか?」といった話題がでる。これに対する私の仮説が「投信残高が拡大する中で日本株投信から外国株・公社債投信への乗り換えが増える結果、日本株の需給が悪化している」というものだ。もっとも私は投信コメンテーターで何でもなく一個人投資家の観点から運用効率の高い市場を模索している訳で、仮説の学術的な正しさより直感的納得性を重視しているに過ぎないので、仮説の妥当性については読者の責任において判断してい欲しい。
とはいうものの2つ程判断材料がある。一つは投信協会が発表している「株式投信(追加型)の商品分類内訳」だ。19年3月の株式投信は全体で1兆2,576億円増加しているが、国内株式型は1,754億円減少している。主に増えているのは国際株式型とバランス型で、前者は4,728億円の増加、後者は3,269億円の増加だ。バランス型というのは約款上株式組み入れ比率が70%以下の投資信託で、グローバル・ソブリンなどもこのタイプに入る。
私個人の運用についても、今年の1-3月は国内株式を減らし、日興アセットのニュー・リソース・ライジング・トモローなど特定セクターで運用する外国株投信を増やしている。
もう一つの判断材料というのは、エコノミスト誌が「日本の個人投資家がキャリートレーダーの代替をしている」という記事で概略は次のとおり。
- 2月の世界株安でキャリートレードのリスクに焦点が当たった。円を借りて高金利通貨に投資するキャリートレーダーがポジションの手仕舞いのため、円買いに走るので世界の金融市場が不安定になるという懸念があった。実際2月23日に1ドル121円だったドル円相場は3月5日には116円になっている。
- しかしその後世界の大部分の株式市場は上昇に転じ、円も119円の水準に戻っている。キャリートレードの影響は過大評価されていたのだろうか?財務相の渡辺博史財務官はキャリートレードの額を800億ドルから1,600億ドルと推定している。日本では昨年銀行貸出はほとんど伸びていないが、外銀による円貸出は7.4兆円つまり約640億ドル伸びている。(つまりこの金額はキャリートレードの額に符合する訳だ。)
- 国際マネー市場におけるドル円ポジションは、2月には円のショートポジションが178億ドルに達していた。ゴールドマンザックス東京のエコノミストは円キャリートレードの総額はマネー市場の取引高の2-5倍と考えている。しかしその後円のショートポジションは急速に縮小し、ピーク時の5分の2程度になっている。従ってキャリートレードの大きな部分は手仕舞いされている訳だが、予想されていた様な大混乱は起こらなかった。
ここでエコノミスト誌は「注目は徐々により力強い日本の個人投資家層に移っている」と言う。長年日本の個人投資家は金利の低い円預金をしてきたが、変化しつつある。日本の国債利回りは1.65%で米国の4.64%や豪州の5.83%に比べるとあまりに低い。
個人投資家は主に投資信託を通じて外国証券を購入している。投資信託は2006年に12.9兆円の外国証券を買い増し、その残高は45.4兆円に達した。また日本の個人投資家の外為市場における直接シェアは2-3割であろう。外国人投資家が保有する日本の有価証券より日本の個人が保有する外貨の方が多い。このことは円の将来は個人投資家が握っているということになる。
以上の話をまとめてみよう。
☆ 銀行等新しいチャネルが増えたことや商品の多様化で日本の投資信託は拡大している。しかし伸びているのは、金利(従って配当も)高い外国証券に投資する投信で国内株投信の残高は低迷している。買い圧力が高まらないから、国内株価は低迷する。
☆ 円の為替レートについては、個人投資家が相当な影響力を持っているが、イールドハングリーな個人投資家の円売り・外貨買い圧力はキャリートレーダーのポジション手仕舞い圧力を押し戻す程強い。従ってますます個人投資家は円安の持続に自信を深めている。
ここは市場の潮目にそって日本株から外国株にシフトするか・・・と考えるのは自然なことなのかもしれない。