中国の株式市場が活況を極めている。中国共産党の幹部はバブルを懸念し、市場を冷却しようとしているが中々有効な手立てがない様だ。エコノミスト誌はこの状況を次の様に述べている。
「中国共産党の幹部は隣のベトナムにいる仲間の共産主義者同様、株式取引の儲けが成長する中産階級を満足させ、国営企業の民営化プログラムを促進することを知っている。しかしもし都会に住む数千万人の中国人が株式取引でスッテンテンになったら、彼等は怒りの矛先を共産党に向けるであろう」
スッテンテンになるはLose their shirtsの訳だ。あるインターネット英々辞典によると、「シャツさえ失う様な無一文になる」という意味で1900年代に使われだした慣用句という注釈があった。因みにシャツと賭けは縁が深く、Bet one's shirts onというと有り金を全部賭けるという意味だ。因みにエコノミスト誌はTens of millions of Chinese are risking their shirts in a stockmarket frenzyというサブタイトルがついていたが、これは数千万人の中国人が株式市場の狂気に有り金総てのリスクを賭けているという意味だ。
中国人の熱狂的な株式取引振りについては日本でもテレビで放映されたりしているので、細かい説明は省略してエコノミスト誌の記事の一部を紹介するに留めよう。
- チャイナマーチャント証券の北京支店では、一人のマネージャーが一日に100人の新規取引口座を開設している。今91百万の個人勘定がブローカーまたは投資信託に開かれている。投資家の数の推定には大きなばらつきがある。前回株式ブームが訪れた2001年には6千万口座があり、推定1千万人以下の投資家がいたが今はそれよりも数百万人投資家の数は増えている。
- 前回の強気相場と今回の強気相場の一つの違いはインターネットと携帯電話の普及である。もう一つの大きな違いは個人向けローンの拡大である。地方では無免許の貸金業者が農民に高金利の無担保融資を行なって株式投資を助長している。
私が一番関心を持った話は「株式市場が中国やベトナムで庶民の『希望』になっている」という話だ。
資本主義社会の本来の「希望」は「貧しいものでも、努力するれば報われ金持ちになれる」というものである。しかし資本家の壁が厚く、努力しても報われない社会では貧しい労働者は「革命」に希望を託するしかなかった。つまり共産主義は貧しい人々に希望を抱かせるという機能を持っていた。
しかし今共産主義中国において人々が希望を託すものは「革命」から「株式市場」に変わったのである。このことは並の努力では満足な暮らしに到達できないという焦燥感と背中合わせになっているのだろう。もし「株式市場」が富の代わりに破綻をもたらすとしたら人民の絶望感は一気に高まり共産党に対する不満・怒りは爆発するかもしれない。今共産主義はきわどい橋を渡っているというべきだろう。
ところであなたは何に希望を持っていますか? 「努力すると何時かは報われ今よりも良い生活ができる」と信じていますか?それとも「株か投信信託で大儲けでもしない限り今より良い生活は出来ない」と感じていますか?あるいは「この世の中では努力は報われないが善行を積むと来世で報われる」と思っていますか?あるいはその様な希望や欲望の彼岸を歩いていますか?