国に勢いがあり、世界の経済に大きな影響を与えるとなると国際的な新聞が割くスペースが大きくなる。昔ファイナンシャルタイムズなどのアジア紙面では日本のニュースが大きなウエイトを占めていたが、今はすっかり中国に取って替わられている。中国の動きが投資の世界に与える影響は大きいのだ。その中で今注目するべきは「中国の証券業の自由化の速度」だろう。
今月後半に中国の呉儀(Wu Yi)副総理がワシントンを訪問し、ヘンリー・ポールソン財務長官と会談する予定である。ところで英字新聞を読んでいて困るのは英語表記された中国人の名前が直ぐ浮かばないことである。そこでグーグルなど検索エンジンで調べながら、読み進むので時間がかかる。ただし寄り道して雑学を仕入れるチャンスもある。例えばWu Yi=呉儀副首相についてはフォーブス誌が今世界で3番目に権力のある女性とランクしていることが分かった。因みに一番目はドイツのメルケル首相で二番目がアメリカのライス国務長官だ。
さてこの呉副首相とポールソン長官の会談だが、貿易摩擦の緩和策として「中国の証券業の開放について議論がなされる」とファイナンシャルタイムズ(FT)は予測している。
FTによると「中国は保険業を開放した様に、証券業と資本市場を開放する」一方米国は「中国に対する保護貿易論を押さえ」「ハイテク製品の輸出に関する制限を緩和し」「人民元切り上げ圧力を取り下げる」というものだ。
FTによると今月下旬の米中戦略経済対話(SED: Strategic Ecomonic Dialogue)で中国の資本市場改革が交渉のベースになると予測している。
それによると中国は「合弁証券会社の外資持ち分を33%から50%に引き上げ」「合弁資産運用会社における外資の多数支配を認め」「合弁証券会社の中国側企業を証券会社に限るという制限を廃止し」「合弁証券会社に現在は引受に限られている制限を廃止しフルライセンスを与え」「外資が既存証券会社の少数持ち分を取得することを認める」というものだ。
勿論これらの規制緩和がどの様なスケジュールで実施されるか分からないが、このインパクトを少し考えてみよう。
まず一つは円の為替レートに対する影響だ。3月の日本の経常黒字は1980年代の日米貿易摩擦の頃を上回るレベルに達している。これに対してG8の蔵相会議で欧州からは非公式に問題提起がなされる見込みが高いが米国は「日本は為替介入をしていない。為替レートは市場が決定する」という立場を貫くと予想される。また中国が資本市場の開放に合意すると、人民元の切り上げ要求が見送られるので、円高圧力は一層減少すると考える。
次に米国内部を見れば、米国は中国からの輸入の影響を受ける製造業の利益を捨て、証券業のメリットを取ったといえる。ポールソン長官はいうまでもなく前ゴールドマンザックスの会長で、彼が出身業界に巨大な利益を誘導したというと言い過ぎかもしれないが、結果としては投資銀行は巨大なメリットを得る可能性がある。
5年位前欧米から中国への投資が今程活発になる前に「中国の経済発展のメリットはとりたいがカントリーリスクは不気味なので、中国ビジネスを展開する日本企業の株を買って間接的にメリットを取ろう」という動きがあった。
この論法で行くと「中国の証券市場の成長性は取りたいが、バブル崩壊のリスクは避けたいので米国の投資銀行の株を買おう」という理屈が成り立つだろう。もっとも現在の投資銀行の株価水準が妥当かどうかという問題はあるが。