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インド最高裁、人権運動家ティースタ・セタルワル(Teesta Setalvad)の保釈を引き延ばすグジャラート高裁を厳しく追及

2022年09月02日 | インドの政治と司法
 数年前、ノーベル経済学賞受賞者のアマルティア・センが、こう語っていた。

「One of his big successes has been to get the court to squash the case against him and the Home Minister, Amit Shah, in the Gujarat killings of 2002. And so lots of Indians do not believe it.」
(モディの実績として何が大きいかというとき、ひとつには、グジャラート大虐殺に関して、自分と〔現内相〕アミット・シャーの嫌疑を、裁判所に否定させたことです。それがために、2人は無実だとみなす人がインドには多いのです)
(『New Yorker』2019年10月6日付)。

 実際、大成功したように見える。

 とはいえ、この10年わが世の春を謳歌してきたモディ首相やシャー内相でも、いまなお枕を高くして寝られないのだろうなと思える存在が、少なくとも2人いる。

 いずれも女性で、いずれもジャーナリスト出身。
 うちひとりが、ティースタ・セタルワル(Teesta Setalvad)だ。

 先に書いたように、グジャラート州警察 ATS(Anti-Terrorism Squad; 対テロ特殊部隊)によって、ティースタがマハラシュトラ州ムンバイの自宅で突然拘束され、グジャラート州まで連行された事件は、私自身もショックだった。

 だが、同時に、モディ首相やシャー相の、ティースタに対する苛立ちが尋常レベルでないことを見透かせるような気がした。それは、わざわざ ATS が出動したことにも感じられる。

 そもそも逮捕自体100%不当であるわけだが、ATS が動いたということは、根拠法令に、たとえば「UAPA; Unlawful Activities (Prevention) Act」を使いたかったのだろうと思う。マラーティ語映画『裁き』レビューで解説しているように、インドのテロ対策諸法令の中心にあるのが UAPA だ。
 UAPA 適用となれば「有罪推定」で刑事手続を進められる。

 だが現在までのところ、そのもくろみはうまくいかず、代わりに通常の刑事犯罪がいくつか挙げられている。
 ごく簡単にまとめれば、「虚偽の証拠を用い、無辜の人間に対して、死刑もあり得る犯罪の容疑で告発する陰謀をはたらいた」というものだ。日本の誣告罪(刑法172条)に近い。ここでいう無辜の人間とは、モディ首相やシャー内相らをはじめ、大虐殺当時のグジャラート州政府要人たちのことである。

 グジャラート高裁は、ティースタの保釈(bail)請求を7月末に却下し、8月初めの仮保釈(interim bail)請求の審理を引き延ばしている。
 インド最高裁は9月1日、その理由を問いただした。

 リーガルニュースサイト『LiveLaw.in』が、たいへんわかりやすくまとめた動画をアップしている(2022年9月1日付)。
 U. U. ラリット新・最高裁長官(U. U. Lalit, Chief Justice of India; CJI)を筆頭とする3人の裁判官は、重要な論点をいちいち突いている。報じたメディアの中には「grilled」(厳しく尋問する)という表現を使うものもあるぐらい、グジャラート高裁に対する不快感がにじみ出ている。

 この審理は本日(9月2日)も続けられる予定なので、論点などはあらためてまとめるが、ラリット最高裁長官が、場合によっては職権で仮保釈を認めることも口にしていたというのは救いである。
 ティースタは、グジャラート州アーメダバードにあるサバルマティ刑務所に拘禁されている。同刑務所には、ティースタの活動も寄与して有罪判決を受けた、グジャラート大虐殺関連の服役者もいるというので気がかりだ。1日も早く保釈が認められてほしい。

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