インド映画の平和力

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ビルキス・バノ(Bilkis Bano)さん集団レイプ犯の恩赦だけではない:グジャラート大虐殺は現在進行形でインドを蝕む

2022年08月25日 | インドの政治と司法
 2002年に起きたグジャラート大虐殺において、とくに知られる事件がある。
 そのひとつ「ナロダ・パティヤの虐殺」の主要加害者バブ・バジュランギの「自白」は、以前に書いた。

有罪認定された虐殺者の証言「ナレンドラ(・モディ)のおかげだよ」(2019年9月5日付)

 また、終身刑で服役していたバジュランギが仮釈放されたことについても報じた。

ージカルストライク喧伝の陰で、最高裁が下した、ひとつの許可(2019年5月23日付)

 この1件だけからも予測されたと言えなくはないが、8月15日のインド独立記念日が、これほどすさまじく愚弄されたことはないだろう。
 2002年、21歳で5カ月の妊婦だったビルキス・バノ(Bilkis Bano)さんを集団レイプし、3歳の娘を含む7人の親族を虐殺した11人。2008年にボンベイ地裁の特別法廷で終身刑を言い渡され、2017年のボンベイ高裁でも敗訴した彼らが、グジャラート州政府(高裁)により、わざわざ独立記念日に当てて、恩赦を認められ釈放されたことである。
 同州ゴドラ刑務所前に並ぶ彼らに菓子を配って祝っているのは、バジュランギと同じ、世界ヒンドゥ協会(VHP)のメンバーのようだ。

 インドのメディアがトップニュースで報じたのはもちろん、欧米の主要メディアも相次いで準じた。
 
 それでは日本のメディアはどうかと、ざっとネット検索してみたところ、『Newsweek 日本版』(2022年8月19日付)と、AFPBB 電(2022年8月20日付)の、いずれも翻訳記事ぐらいしか見当たらない。
 しかも現地メディアの引用が多く、非常に頼りない内容だ。前者の結文「BBCによれば、2014年にインド人民党政権が成立してから、イスラム教徒に対する攻撃が激増しているという」には、私など身体中の力が抜けてしまいそうである。
 よほどのボンクラ記者でなければ、ムスリムやダリット(かつての不可触民)、アディヴァシ(先住民族)など、少数者を攻撃する事件の多発・激増を、事実として認識できないほうがどうかしている過去8年間なのだが。

 ここまで日本のメディアが報じないのは、たんにインド無知というよりも、グジャラート大虐殺について詳細に報じていけば、究極的には安倍晋三元首相への批判につながっていくのが必定だからか? 
 最近、公表されたように(たとえば『Rediff.com』2022年8月24日付 PIT 電)、どの世論調査でも反対派のほうが多い国民の意思をよそに、日本政府が強行しようとしている安部元首相の国葬に(私自身は国葬には断固反対である)、モディ首相の出席が予定されていればなおさらか?

 日本のメディアがこの体たらくではよけいに、ビルキスさんの事件についても解説しなければならないことは多い。そもそも11人に有罪判決が下るまでの過程が、被害者にとって並大抵の苦労ではなかった。
 ここではさしあたり、Twitter を使ったニュースサイト『Brut India』の YouTube 動画をリンクしておく。犯罪発生から刑事裁判、今回の釈放までの流れの骨格は容易につかめると思う(2022年8月24日付)。
 いま強い関心をもたれていることのひとつは、性犯罪者の恩赦にまつわる最高裁の指針を、適切に運用しなかったとされるグジャラート州政府に対して、最高裁が介入するかどうかである。

 今年はとりわけ、グジャラート大虐殺の記憶を新たにすべき機会が多い。言い方を変えれば、インド人民党(BJP)政権をはじめとするヒンドゥ右派勢力が、大虐殺の whitewash(ここでは無化というべきか)を、いっそう強力に進めている。

 そのひとつが、2022年6月24日、グジャラート大虐殺におけるモディ州首相ら州政府要人に “嫌疑なし”(clean chit)を認めた、最高裁任命特別捜査班の結論に対して、再捜査を求めていた被害者の申立を最高裁が斥けたことである。
 申立人はザキ・ジャフリ(Zakia Jafri)さん。「グルバーグ事件」で殺された、元国会議員エーサン・ジャフリの寡婦だ。

 もうひとつ、この最高裁判断が示された翌日、ジャーナリストで人権運動家のティースタ・セタルワル(Teesta Setalvad)が、グジャラート州警察の、不可解にも対テロ特殊部隊(ATS)によって逮捕されたことである。
 ティースタについては、上記2019年5月23日付のブログで紹介している。

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