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インド映画の平和力

ジャーナリストさこう ますみの NEVER-ENDING JOURNEY

猛暑を蹴散らしてくれるおもしろさ! NETFLIX INDIA オリジナルドラマ、 ハンサル・メータ監督の『スクープ』〈Scoop、2023〉②

2023年07月22日 | OTT
『スクープ』は、現実の未解決事件の謎を解くうえで、いくつかのピースに行き当たるかもしれない刺激を与える。なにしろ「役者」も「時代」も「状況」も揃いすぎていて、これだけ知的挑発をしてくるドラマも希少である。

 だいたい、第1話だけとっても「引き」が素晴らしい。

 ここからは、固有名詞など劇中のそれに合わせて書く。
 物語をけん引する事件、『News Day』紙のベテラン調査報道記者、ジャイデブ・センが暗殺されたのは2011年6月である。

 この前月、2011年5月には、米海軍特殊部隊によるオサマ・ビンラディン暗殺が敢行されていた。

『スクープ』は、ビンラディン暗殺を伝えるニュースアンカーのコメントで始まる。そのコメントは、「印パ紛争のビッグピクチャー」シリーズ(2019年5月9日付~)で述べてきた、澎湃として湧きおこった自問である。
「(米国がやったことが世界に許容されるなら)インド最大のお尋ね者たちに同じことをやってもいいのでは? そういう声が広く上がっています。このリストにあがるのは、まずダウード・イブラヒム、ついでチョタ・ラジャンでしょう」

 ちなみに、ムンバイ闇社会のドンとして筆頭に挙げられてきたこの2人については、他方、憶測にすぎないと言えばそれまでだが、市井ではかねてから、こういった疑問も根強くあった。
 いくら国外に潜伏しているといっても、官憲の追っ手を逃れて何十年も、ムンバイの闇社会をコントロールできているのは妙ではないか。むしろ彼らを逮捕して裁判にかけて尋問したりすると、なんらかの意味で都合の悪い面々が権力内部にいるから、あるいは(イブラヒムの場合)パキスタンならパキスタンを攻撃する材料として利用勝手がいいから、当局は積極的に野放しにしているのではないか、等々。

 ここでいちおう確認しておくと、ラジャンのほうは、逃亡から27年を経た2015年にインドネシアのバリ島で捕らえられ、インドに引き渡された。そして2018年、ジャイデブのモデルであるジョティモイ・デイ暗殺を首謀したとして終身刑を言い渡され、ティハール刑務所に収監されてはいる。

 こうなると先の憶測は色褪せたのかというと、必ずしもそうではない。ここでは具体的に書かないが、むしろ新たな問いに向かう素材にも、この『スクープ』はなりうる。

 前回に触れた、イブラヒムの弟カスカルの運転手兼ボディガードが射殺された事件。一見、イブラヒムの組織 D-Company と、ラジャンの組織 Nana Company 間で、長年続いてきた抗争のひとつに思える。
 だが、ジャイデブは、「このところ奇妙なパターンが続いている」と現場に来たキャリア警察官(IPS)に言う。D-Company が襲撃されると、24時間も経たないうちにラジャンが犯行声明を出すことだ。今回も実際そうなった。

 ジャイデブは翌朝、例によって他紙を抜き、「事件の背後に情報局の影」という記事で『News Day』の1面を飾る。情報局とはむろんインド情報機関のトップ、Intelligence Bureau(IB)を指す。

 主人公、『Eastern Age』紙のジャグルティ・パタックは、直属の上司で超ベテランの事件記者イムラン・シディキと頻繁にやりとりしながら仮説を立てていく。
 そもそもラジャンの配下が、単なるボディガードを襲うために、わざわざ D-Company の根城(den)に乗りこむリスクを犯すのはおかしい。それにボディガードはなぜ護るべき相手と共におらず、単独でいて殺されたのだろう。

 そうした疑問を解くアングルを、ジャグルティが接触した情報局の元局員が示す。
「ジャイデブの記事が事実だとして、なぜ IB はわざわざリークしたのか」と問う彼女に、元局員は「ムンバイ警察の特捜部(Crime Branch)が IB 工作の邪魔をするのは、今度が初めてではない」と嘆息するのだ。

 つまりは、こういうことである。
 カスカルはボディガードと根城にいる予定だった。狙いはたしかにカスカルで、襲撃者は IB の配下。IB は、D-Company を揺さぶるとともに、転々と居所を変えるといわれるイブラヒムの所在を特定しようとしたらしい。
 ところが、IB の計画を察知したムンバイ警察のだれかが警告したため、カスカルはからくも難を免れた。

 元局員は「なぜ特捜部がイブラヒムを守るのか考えてみることだ」と言い置いて去る。
 第1話の中盤で早くも、「イブラヒム v.ラジャン」の背後に「ムンバイ警察 v.情報局」という巨大な構図の提示である。

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