磯野鱧男Blog [平和・読書日記・創作・etc.]

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25.風船屋

2005年07月02日 | 【作成中】小説・メリー!地蔵盆



三、タイベン

25.風船屋





 雨の日。雄二と池山は二人でアパートの新館の板張りの廊下で、百円で買ったプラモデルのゼンマイ式の自動車でレースをして遊んでいた。

「いくぞ!」
 錦林小学校の近くのプラモデル屋は、文房具屋もかねていた。
 文房具屋では百円以上かうごとに、十円のサービス券をくれた。雄二たちはサービス券を貯めて、模型を買っていた。

「よし!」
 同時に手を離す。自動車を追って歩く。廊下の三分の二くらいで車は止まる。
「この遊びは、あきるな。単純やからな」
 池山は口をへの字に曲げている。

 雄二らは、新館の出入り口に行く。鉄の階段があり、そこに足を置き座る。
「なあ、池山。ジョンさんのことやけど……」

「なんや、バテレンのことかいな」
 池山の表情はお天気のようになった。
「今じゃ、バテレンなんて言わないそうだよ」
「そうなんかい」
 どうでもいいという口調だった。

 池山にはどうでもいいことでも、ジョンさんにはひどいことをしていると雄二は思っている。

「今はキリスト教徒とか、クリスチャンって言うそうや」
「そうかいな。それが、どないしてん。関係あらへんやろ」
「人身売買もしてへんそうや。家の母ちゃんが言うてたでえー」
「そうか、時代は変ったというわけか」
 池山はプラモデルを手にとり見ている。

「曽我のおばあさんも、ジョンさんと、話しているで」
「そうか、そういえば、そうやなー」
 池山はうつむき、考えこんでいる。

 雨は小さな音をたてて降っている。

「人身売買はしてへんのんか」
 落ちてくる雨粒を見ながら、池山は噛みしめて何度か同じ独り言をいった。
「そんなんしていたら、警察が黙ってへんで。それに、ぼくの隣の静ちゃんはクリスチャンやそうや」
「えっ、あの人もバテレンかいな」
「だから、バテレンとは違う」

「そうかいな。あの人、頭のええ人やないかー。京都府立大学へ行ってはるんやろー。それに親孝行やんか。母親がわりもしてはるんやろう。そんな立派な人でも、バテレンなんかいなー」
「だから、バテレンとは……」

 雄二は池山と本館の西にある外の共同洗面所で、船をつくって遊んでいる。船といっても、木に釘をうちつけたりしたものだ。サンド・ペーパーや、やすり、のこぎりを使って作っている。

「かまぼこ板あったよ」
 池山の妹と弟がやってきた。

「吉坊も作るか」
 雄二は笑って誘った。

「無理や」
 池山はそっけない。
「無理ちゃう」
 吉坊は怒っていった。吉坊は怒ったら言うことをきかない。
「そうか~。恭子、手伝ってやれ」
 池山はのこぎりの手を止めていった。

 息を切らせて、幸江が走ってきた。手に風船を持っていた。
「風船屋さん、来はったよ」
「なに、それ……。その風船屋さんって」
「見たらわかるって。これ風船屋さんから貰ったのよ。そのかわり、この辺の子どもを集めて来てっていわれたのよ」
 それは風船がリンゴの形をしていた。

 雄二らはアパートの下の自動車が入れる道に下りて行った。
「この風船は、そんじょそこらにある風船とわけがちがう」
 子どもたちは、風船屋さんをとりかこんでいる。かわった商売だなーと思った。

 途中から、ジョンさんも見ていた。
「この風船は丸くはならない、長い風船」
 ひものような風船をふくらませる。
「そこの子ども、これあげよう」
 一軒家に住んでいる子どもが風船をもらった。

「もう、一本、ふくらませるね」
 風船屋は赤い顔をしている。

「これ二本なら、チャンバラができる」
 風船屋は一軒家の子どもにチャンバラをしかける。
「これなら、棒切れとちがって怪我しない。おかあちゃん、怒らない」
「はははは」
 ジョンさんが一人笑っていた。

 あんなんで、チャンバラしても、ちっとも面白くない。それに、怪我するほどするわけあらへんやろに。

「それ、ちょぶだい」
 いつもの通り、鼻と涎をたらしている吉坊が欲しがった。
「商売物、商売物。買ってよね。さぁ、さぁ、これからがちがう。なにが違うかと言ったら、風船のハチマキを作る」

 風船屋はひものような風船のさきを口にいれ、ぽこんと出した。それから、息を思いきり入れ、反対の先を結んだ。ギリッ、ギッ。風船の先を手でねじ曲げる。
「いやーな音」
 子どもたちの何人かは大きな声をあげた。
「そう言わない、そう言わない」

 風船屋は長い風船の両方の先を、くるくるとからめて鉢巻きをつくった。アパートの子どもじゃない子どもの頭に鉢巻きをかぶせた。吉坊、あんなに欲しがっていたのにと思う。

「次はリンゴの風船をつくりますよ」
 風船屋は器用に風船でリンゴの形をつくった。これと同じ物を幸江は貰っていた。

「さぁ、さぁ、そこらにある風船とはわけが違うよ。買った、買ったっー」
「見せてください」
 ジョンさんは風船をくまなく見つめている。
「これ、ふつうの風船ね」
 ジョンさんは訴えた。

「変なこと言う外人だね。商売の邪魔しないでくれよ」
 いがぐり頭の変に愛想のいい風船屋は否定した。風船は高くって、アパートの子どもは買えなかった。





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