磯野鱧男Blog [平和・読書日記・創作・etc.]

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こぶたでゴーゴー

2006年02月02日 | 短編など
こぶたでゴーゴー

「なになに」
 こぶたは集まっています。
 おじいさんからの手紙です。

 一番下の弟が手紙を読みます。
「おじいちゃんの誕生日がもうじきくるね」
「くるくる」
 一番上の兄さんは目を輝かせています。

大好きなおじいさんからの手紙ですから、
それは当たり前のことでしょう。

「それで、どうしたんだよ」
 と、真ん中の兄さんは、
早く知りたくって弟をせかしました。

「おじいちゃんは、
みんなが知っているだろうが、
自動車が大好きだ」

「知ってる、知っている」
 お兄さんたちはうれしそうに
首を上下に振っています。

「どうだろう。こぶたちゃんたち、
おじいちゃんの誕生日に、わたしに、
一番いい自動車をつくってくれたまえ!」
「えっ!」
 こぶたたちは驚きました。

 鶏小屋から卵を盗もうとしていた狼が、
その声に驚きました。

「やい、やい、どこのどいつだ!
手がすべって、卵がわれちゃったじゃないか!」
 すると、そこにはこぶたが三匹いました。

「やれやれ、どうしたんだよ。
あの仲のいい、感じの悪い兄弟め!」
 一番下の弟はおじいさんの手紙の続きを読みます。

「一番いい自動車をつくった者には、
特別のプレゼントがある。どうじゃ、
夏休みの宿題に自動車をつくってくれまたえ!」

「特別のプレゼント!」
 一番上のこぶたは、
ケーキじゃないかと、うっとりしました。

「特別のプレゼント!」
 二番目のこぶたは、
新しくでたコンピュータ・ゲーム
じゃないかと思い、うれしくなりました。

「特別のプレゼント!」
 三番目のこぶたは、
最新式のコンピュータじゃないかと思いました。

 そして、家の外で、はらぺこ狼が、
「こぶたが三匹……。こら、たまらん」
 と、よだれをこぼしていました。

「よし、自動車をつくろう」
 と、一番上のこぶたは、
一番簡単なのがいいと思いました。

「じゃ、やるぞ!」
 と、二番目のこぶたは、
どこにでもあるようなのが一番いいと計画しました。

「これは、きっと、そうだね!
おじいちゃんは、とっても優しいからね」
 三番目のこぶたは自信があるようでした。

 森のはずれで、狼は、
「一番といえば、これに決まっているじゃないか!
そう、俺さまのように、強くって格好よくって、
早くって、あはははは……」
 と、うれしそうです。

 おじいさんは、楽しみにしていました。
テレビで中継をすることに決めていました。
三匹のこぶたのレースが始まります。

 アナウンサーのやぎは言います。
「今日、こぶた三匹は、何をつくってくるのか、楽しみです」
 みんなは、わくわくしていました。

 おじいさんは、どきどきしていました。
 一番にあらわれたのが、一番上のお兄さんでした。
「おおっと! あの煙は何でしょう」
「あれじゃ、蒸気機関車だよ」
 と、猫がうれしそうに叫んでいます。

「本当だ」
「でも、タイヤで走っていますから、自動車でしょう」
 シュポ、シュポ、シュポ、元気に走る蒸気自動車。
「いやはや、これは木炭車というのがありましたが、蒸気自動車とはよく考えたものですね」
「まったくだ」
 森の動物たちは、拍手をしました。

「でも、煙があって、ゴッホ、ゴッホ」
「それに、目が痛いですな……」
 近づけば、近づくほど、みんなは逃げ出しました。

 一番上のお兄さんの顔は真っ黒です。
「何、これじゃ、
森のみんなに迷惑がかかってしまうじゃないか。
努力は認めるが、まわりの人のことも考えない
といけないじゃないか!」
 と、おじいさんは困り顔でした。

「まったく、そのとおりですね」
 やぎのアナウンサーが冷静に話しています。
「次に期待しましょうね」
 と、観客たちに呼びかけました。

 さっそうと、二番目のこぶたの登場。
「おお、よく作ったものです。これこそ、現代の自動車でしょうね」
「格好いいわ。となりの席に乗りたいくらいよ」
 と、羊のメリーが笑顔で話しました。

「そうか、自動車なら、ぼくもつくるよ」
 隣にいた羊のジョンとメリーに語りかけました。
「近づいてきても、咳はでません、目も痛くありません。いいですね」
 と、やぎのアナウンサーは、うれしそうです。

「ぼく、痛いよ」
 と、体の弱いカナリヤが云いました。
「何の工夫もないわい! どこが一番じゃ」
 おじいさんは、がっかりしていました。

 みんなも、これなら、わざわざ見に来ることはないと思いました。
「まだ、最期の一番優秀なこぶたさんがいるわよ」
 観客たちは期待しました。

 ところが、どうでしょう。
 雷のような音がします。その音が近づいてきます。
「耳が痛いよ」
「一番下の弟がこんなものを作るとは思いませんでした……」

 アナウンサーもがっかりしました。
でも、その声は誰も聞いていませんでした。

 いいえ、あまりにもすごい音なので、
だれも自動車の音以外は聞えなかったのです。
「何ってことだ!」
 おじいさんもなげきました。
 そこに、何かが、弾丸のように走り去りました。
そして、それは、空まで飛んでゆくのです。

「ほほー、あれじゃ、ロケットじゃないですか?」
「そうですな……」
 あのすごい音はなくなりました。
「ところで、どこに行ったのでしょう」
「何を考えているんだろう。僕の弟は?」
 お兄さんたちはあきれていました。

 そこに、弟がやってきました。
「どうしたの、お兄さんたち……」
「あれ?」
「さっき行ったのは、誰なんだ」
「誰なんだろう」
 やぎのアナウンサーが宇宙ステーションからの報告を読みます。

「今日、宇宙ステーション、ミテールからの報告です。
日本からロケットが打ち上げられ、月に到着しました」
「えっ!」
「すごいことじゃないか!」
 テレビには、月が映っていました。

「あれ、狼さんじゃないか! やりましたね」
 と、月にいるうさぎのアナウンサーが話しかけました。

「死ぬかと思った……」
 さすがの狼も、目を白黒させていました。

 こぶたのお兄さんたちは、弟に言います。
「それにしても、遅いね」
「いったい、それ何っていう自動車なの?」
「これは、ソーラーカーっていうんだよ」
「ソーラーカー?」
「うん、モーターで動くんだよ」
「それじゃ、ぼくのプラモデルの自動車と
同じじゃないか、工夫がないね」
 二番目のお兄さんが言いました。

「うんでも、これは太陽をエネルギー源にしているんだよ。
とっても、環境にいいんだよ」
「目が痛くないよ」
 と、カナリヤがうれしそうな顔をしていました。

 おじいさんは立ち上がりました。
「ソーラーカーは未来の自動車と言われておる。
しかし、普通の生活で使うのには、まだまだ問題が多いんだよ。
ソーラーカーが街を走るよりも先に、燃料自動車というのもあるんだよ」
「燃料自動車?」

「水素を燃やして走る自動車じゃよ。これも難問が山積みされているんじゃよ」
「そうだね、まだまだ研究しないといけないのかあー」
「そうか、それなら、三人で協力して、研究しなさい」
 と、おじいさんは言いました。

「おじいさん、プレゼントは?」
「小さいけど、工場をあげるよ。
わしは、歳をとってしまって、使わないからな!」
「よし、三人で協力して」
「がんばるぞ」

 おじいさんは、そんなこぶたたちを見て、
「わしだけじゃないぞ。
そんな環境にやさしい自動車を待っているのは、
すべての生き者たちの願いなんじゃ。
がんばるんじゃぞ、こぶたちゃんたち!」
 と話しかけました。

「ぶーぶーぶー、こぶたでゴーゴー!」
 三匹の鼻息は荒かった。



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もくじ[メルへん]



【感想】これはもう若くないときの作品です。
たまたま残っていました。
これは新聞記事を読んで思いついたものです。
『読売新聞夕刊1998年10月20日(火)5面
テクノライフ
開発進む「燃料電池」車
地球温暖化を促進させる二酸化炭素(CO2)の排出を減らそうと、さまざまな電気自動車の開発、製品化が続いている。中でも将来への期待が高いのが水素と酸素の化学反応で得る電気を動力エネルギー源とする「燃料電池」自動車(FCEV)だ。世界の自動車メーカーが開発にしのぎを削っている、燃料電池車の現状を報告する。(片岡直人)』

今では、燃料電池で一番有力なのは、バイオマスによるものですね。
森や畑の作物の残りを利用して、エタノールをつくるそうです。
それを利用した自動車が有力ではないかと思います。





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