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「ここまで進化している食品フレーバーの世界」

2015-09-19 07:26:34 | 日本

佐藤成美さんの 「ここまで進化している食品フレーバーの世界」について、要約し記す。



食品にさまざまな風味を与え、おいしさを演出するフレーバー(食品香料)が、科学・技術の進歩とともに進化している。見た目は透明な水なのに果物や野菜の味がするフレーバーウォーターや、まるで焼肉を食べているような香りやコクを感じるスナック菓子など、フレーバーによる驚きの食品が次々に登場している。


◎考え抜かれた香りが食品の魅力を引き出す

さわやかな果汁の香りがするサイダー。フルーツ味のシャーベット。甘い香りの焼き菓子。どれもおやつの定番だが、もしも香りがなかったら、その美味しさを感じることはできないだろう。

香ばしい菓子に、ついつい手が伸びるのは、食欲をそそる風味があるからこそ。風邪をひいて鼻が詰まったときの食事は美味しく感じられないように、食品の香りは、味や舌ざわりとともに、美味しさを構成する重要な要素である。

また、香りは食品から情報を得るための重要な要素でもある。例えば、食品から不快な臭いがすれば、人はその食品を食べないだろう。逆に、好ましい香りがすれば、「美味しそうだ」と感じる。さらに、口に入れた時の香りで食品の種類を判断することができると、その味はより増強される。

このように、食品に重要な香りや風味を与えているのがフレーバーだ。
どんな食品でも、調理や加工、保存をすれば、香りは変化し、薄れていく。フレーバーは、その劣化した香りを補う役目を持つ。一方で、素材由来の好ましくない臭いをマスキングする役割も担う。さらに、食品に新たな風味を加えるために添加される場合も多い。

フレーバーは、食品の香りを再現するようにつくられているため、味わう人の想像力をかきたて、食品のおいしさを引き立てているのだ。


◎フレーバー飲料の火付け役は「コカ・コーラ」

人は古くから花や樹木の好ましい香りを香料や香水として利用してきた。18世紀には欧州でオーデコロンが流行したが、それらは植物や動物などの天然物から香りを抽出したもので、手間のかかる貴重なものだった。

19世紀に、有機化学が発達して香りの成分が明らかになると、ドイツで香料が合成されるようになった。合成香料は安く大量に生産できるために広まった。

一方、食品にはスパイスやハーブで食品に香りを付けたり、肉の臭みをとったりする習慣があったが、合成香料が出回ると次第に食品にもフレーバーとして香料が使われるようになった。20世紀初頭前後、米国で「コカ・コーラ」のような風味付きの清涼飲料水がブームになり、フレーバーが一大産業になった。

日本でも明治から大正にかけて、ラムネやサイダー、チョコレートなどの製造が始まると、企業はフレーバーを使うようになった。だが、当初は輸入品を使用しており、フレーバー産業が本格化したのは、第2次世界大戦後に日本でも香料の合成が始まってからだ。1947年に食品衛生法が施行されると、合成香料も食品添加物として指定された。

その後、1950年代に広く出回った10%果汁入り清涼飲料水や粉末ジュースは、果汁がほとんど使われていないのにもかかわらず、さわやかなオレンジの香りがして斬新さを印象づけた。また、高度経済成長期から、インスタント食品やレトルト食品などの加工食品が生産されると、風味の劣化を補い、味わいを整えるためにシーズニングフレーバーが使われるようになった。

食生活が豊かになるにつれて、フレーバーの用途も広がり、さまざまなフレーバーが開発されている。


◎調香師が数千の香料から組み立てる

香りは非常に複雑で、1つの香りを構成する香気成分は、多い場合には数百から数千種類にも及ぶ。その上、濃度によって感じ方がまったく異なることもある。同じ種類の香気成分を混ぜ合わせても、比率が少しでも違えば、まったく別の香りとして感じられるのだ。

フレーバーの開発は食品の香りを分析することから始まる。香りを感じる嗅覚のメカニズムが解明されていない上に、香気成分は複雑で微量なために分析は非常に難しい。化学的な分析で香気成分の種類や濃度を測定するが、すべての香気成分を検出できるとは限らず、わずかな香りの違いを数値で判断することは難しい。そのため、人の感覚を利用して評価する官能試験も行われる。

そこで、この分析結果を手掛かりに、フレーバリスト(調香師)が数千種類もの香料から、食品のイメージに合うように香料を選び、配合して香りを組み立てる。

かき氷のシロップやガムに使われる「イチゴ」や「バナナ」などのフレーバーについては、その香りから果物のイメージを抱く人が多い。だが実際の果物に、その香りは含まれていない。これは現代と違い、まだ分析技術が進んでいないころに開発されたもので、「イチゴの赤」「バナナの黄色」などをイメージして創作されたフレーバーなのである。
 近年は分析技術が発展し、香気成分の解明が進んでいることもあって、より本物に近い自然な香りのするフレーバーや、味と一体となっておいしさを生み出すフレーバーが開発されている。肉のコクを感じるフレーバー、炭酸のはじける感じを生み出すフレーバーなど、画期的なフレーバーがどんどん誕生している。


◎「ひとくちめ・のどごし・余韻」の3段階変化

兵庫県に本社をもつ高田香料は、食品を食べた時に感じる香りの変化を解明し、フレーバーに応用した製品「のどごしフレーバー」を開発した(冒頭の写真は開発時の様子)。

このフレーバーは味わった人をあっと驚かせる。スイカフレーバーを加えた糖酸水を口に入れると、ただの甘い水のはずなのにスイカを食べたような味わいが口の中に広がった。

ただ甘いだけではなく、スイカを食べたときのような、みずみずしさや青さが口の中に残る。そして、シャリシャリした舌ざわりまで感じるから不思議だ。目隠しして飲んだら、「スイカジュースを飲んだ」と、間違いなく思うだろう。

「食品から漂う香りの感じ方と、実際に食品を口に入れた時の香りの感じ方は異なっています。そのため、いくら食品の香りを分析してフレーバーにしても、食べてみると思ったほどの香りになっていないことも多いのです」。のどごしフレーバーを開発した同社取締役副社長の馬野克己さんはこう語る。

そこで馬野さんらは、食品や飲料を摂取したときに感じる香りを、口に入れたときの「ひとくちめの香り」、飲みこむときの「のどごしの香り」、飲んだあとの口の中に残る「香りの余韻」の3段階に分けて、分析することにした。

「これを思いついたのは10年ほど前のことです。ですが、分析する方法なんてありませんでした。ならば、つくるしかないと、分析技術を開発することから始まり、技術ができるまで5~6年かかりました」。そう馬野さんは振り返る。

「ひとくち目の香り」は、人が食品を口に入れたとき最初に鼻に抜ける香りだ。このたった一息分の希薄な香りの分析は、同社が基礎研究で開発した分析機器を巧みに活用した高度な分析技術によって可能になった。

「味わい全体の印象として残るので重要な香りです。開発した方法によってナノレベルの成分を分析することができ、従来の方法では見つけられなかった微量な成分が香りの鍵を握っていることも分かりました」と馬野さん。精度よく分析するには、食品を口に入れるリズムが一定であることも必要だ。被験者はそのための訓練も行う。

「のどごしからの香り」は、人が飲食物を飲みこんでいるモデル向けに分析装置をつくり、喉から鼻にまで到達する香り成分を分析した。さらに、「香りの余韻」は、飲食後香気成分がいつまで揮発して広がり続けるのかを分析して、口の中に残りやすい香気成分を突き止めた。

こうして分析の結果、食品の持つ香りと、喉から鼻にぬける「のどごしの香り」は異なることが明らかになった。そして、この「のどごしの香り」を表現できれば、より本物に近いおいしさを生み出せることを確認したのだ。


◎食品の新時代を築くフレーバー

同社は「フィールド調査」も行う。果樹園などに出かけ、果物が木に実っているような新鮮な状態で香りを分析するのだ。フィールド調査には、フレーバリストも同行し、現地で果物の香りを嗅ぎ、ひたすら果物を食べて、果物のイメージを自身に植え付ける。

「最近では、レモンの香りを分析するために瀬戸内海地方に行きました。マンゴーやピーチパインの分析のため、沖縄の西表島に行ったこともあります。フィールド調査はとても手間がかかりますが、徹底的に分析することでより本物に近い香りが再現できるようになります」

詳細な分析結果をもとに、フレーバーリストは香りを設計する。法律によって使える香料原料は決まっているため、分析した成分がすべて使えるわけではなく、分析したとおりに香料を配合してもイメージした香りにはなるとは限らない。そこは、フレーバーリストの経験やスキルがものをいう。フィールド調査で身につけた香りのイメージは、フレーバーをつくるための重要な手がかりになる。

こうしてできた「のどごしフレーバー」は、果汁を使わなくても、果物を口に入れたときから飲みこんだ後の香りを再現するとともに、果物を口に入れて噛みしめたときのような、みずみずしい感覚まで蘇えらせてくれる。

同社はリンゴやブドウなどの果物のほか、チーズやバターなどの調味料のフレーバー、変わったところでは焼き芋のフレーバーも開発している。さらにはビールやワインなどアルコールを飲んだときの香りを再現する「酔いここちフレーバー」も開発し、ノンアルコール飲料などに使われている。次々に個性的なフレーバーが生まれている。

科学技術の進歩とともに、フレーバーはますます進化しており、各フレーバーメーカーは、さまざまなコンセプトのフレーバーを打ち出している。消費者を喜ばせる新しい食品の開発を、フレーバーの進化が支えているのだ。











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