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「米韓両大統領を手玉に取とる金正恩の腹の内①」

2018-04-03 05:59:33 | 日本

横山恭三さんが「米韓両大統領を手玉に取とる金正恩の腹の内」と題して掲載している。
なかなか興味深いので、要約し学ぶ。



北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が1月1日、平昌冬季五輪への参加に前向きな意向を示し、対話姿勢に転じて以来、わずか2カ月余りで南北首脳会談、米朝首脳会談の開催が立て続けに決まった。

北朝鮮は、国際社会の警告を無視して核実験やミサイル発射を強行してきた。新型弾道ミサイル「火星15」型の発射成功を発表した2017年11月29日の声明の中で、金委員長は、米国本土全域が攻撃可能だと主張し、「核武力完成」を宣言した。
 その金委員長は、韓国の文在寅大統領の特使団に対して、北朝鮮への軍事的脅威が解消されて体制が保証されれば、「核を保有する理由がない」との考えを明言し、非核化や関係改善に向けて米国と「虚心坦懐に対話する用意がある」とした。

そのうえで、米朝対話が継続する間は新たな核実験や弾道ミサイル発射などの軍事挑発をやめる方針を明確にした。また、韓国側に軍事行動を起こさないことも確約した。
 金委員長があれほど強硬な態度を転換した理由について、経済制裁が功を奏したとする「見立て」が一般的だが、ほかにも米軍の武力攻撃を恐れた(辺真一氏)、中国の北朝鮮への軍事介入を恐れた(寺島実郎氏)などの見立てがある。
 
どの見立てが当たっているかは金委員長本人に聞かなければ分からないが、いずれの見立ても大きな間違いを起こしていることを筆者は指摘したい。
 
それは、いずれの見立ても金委員長が何かを恐れて態度を転換したとしていることである。
経済制裁が功を奏したという見立てにしても、つまるところ経済制裁を受け困窮した民衆や軍部の反乱・抵抗を金委員長が恐れているということであろう。
 
ちなみに筆者の見立ては、何かを恐れて受動的に態度を転換したのでなく、核保有国としての立場を背景に親北文政権との南北関係の改善および外交での実績を渇望する米ドナルド・トランプ政権との米朝関係の正常化交渉の好機と見て、能動的に態度を転換した、というものである。
 
脳科学者の中野信子氏の著書『サイコパス』には、「サイコパスには、感情を伴う共感はない、恐怖・不安を感じにくい、ハイリスク・ハイリターンを好む」などのサイコパスの特徴が記載されている。
金委員長のこれまでの言動・行為を見れば、金委員長がサイコパスの典型であることは自明である。金委員長が、ウサマ・ビンラディンの殺害作戦のような斬首作戦を警戒しているのかもしれないが、恐れてはいない。

かつてNHKが放映した「ハノイ対話」の中で、ベトナム戦争当時国防長官だったマクナマラ氏は、北爆を続ければ、北ベトナム政府は多数の犠牲者に耐えきれず交渉に応じると思っていたが、かえって抵抗が強くなったという主旨のことを語っていたと筆者は記憶している。
 
情報分析に際して留意すべきことは、「相手(ここでは金委員長)が我々と同じ考え方をするのであろうか」という疑問を自分自身に投げかけることである。
 
ここで「北朝鮮に対する米軍の武力攻撃」について述べてみたい。


◎東京とソウルで210万人が被害に
 
日本・韓国も、ある意味で米軍の北朝鮮への武力攻撃を恐れている。トランプ米大統領の行動は予測できない。トランプ大統領は、米議会に諮らず、日本・韓国の同意を得ずに、いきなり北朝鮮を攻撃しかねない。
 
その結果、北朝鮮の反撃により日本・韓国が大きな被害をこうむることになる。 昨年10月に米ジョンズ・ホプキンス大の北朝鮮分析サイト「38ノース」が公表した予測では、北朝鮮が核ミサイルで反撃したら「東京とソウルで計210万人が死亡」というものだった。この被害の大きさが、北朝鮮に対する最大限の圧力を弱める要因ともなっている。

さて、金委員長が豹変した狙いは何であるか。それを探るには様々な方面(情報源)から得られるジグソーパズルのピースをつなぎ合わせて真相にたどりつく作業が必要となる。
 
筆者が接することができる情報は公刊情報(オープンソース)だけに限られている。公刊情報だけでどれだけ真相に近づけるかということはあろうが、批判覚悟で、この課題に取り組んでみたい。以下、いくつかのピースを述べる。


●北朝鮮の核保有は「朝鮮半島の統一が目的」

2018年1月23日、ワシントン市内の政策研究機関「アメリカン・エンタープライズ政策研究所」で講演した米中央情報局(CIA)のポンペオ長官(当時)は北朝鮮の金正恩体制による核・弾道ミサイル開発の目的について、米国からの抑止力確保や体制維持にとどまらず、「自らの主導による朝鮮半島の再統一(原文ではreunification)という究極の目標に向けて核兵器を活用しようとしている」との認識を明らかにした。
 
この情報は、諜報に接することができない筆者には極めて貴重なものである。
また、同長官は、米情報機関による北朝鮮関連の情報収集能力がこの1年間で大幅に向上していると強調した。これは、上記の情報が北朝鮮内部からもたらされた可能性を示唆している。


●北朝鮮は草の根を食べることになっても、核プログラムを中断しない。
 北朝鮮の「朝鮮中央通信」は、2016年1月8日、国際社会の圧力で核開発を放棄したイラクのフセイン政権とリビアのカダフィ政権について「制度転覆を企図する米国と西側の圧力に屈し、あちこち引きずられ核開発の土台を完全に潰され、自ら核を放棄したため破滅の運命を避けることができなかった」と言及した。
 
また、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、2017年9月5日、記者会見の中で、「北朝鮮は草の根を食べることになっても体制が安全だと感じられない限り、核プログラムを中断することはないだろう」、「北朝鮮が、このこと(フセイン政権とカダフィ政権の悲惨な最期)をよく知っている状況で、いかなる制裁も効果がなく非効率的」であると述べた。


●祖国統一は金日成主席の遺訓
 
儒教の影響が強い北朝鮮では、先代の指導者が残した遺訓を徹底して貫徹することを、後継者や継承者の最高の徳目としている。
 
金日成、金正日が残した最大の遺訓は、北朝鮮主導による祖国統一である。そして、北朝鮮は,「在韓米軍」が朝鮮半島の統一に対する最大の障害であると見ている。
 
一方、韓国にとって統一は「民族の悲願」である。
文氏は、かつて金大中氏の命日である8月18日に演説し、「なぜ、金大中氏の目指した南北朝鮮の連邦政府は実現していないのか。私は絶対に実現させて御意志に応えます」と述べた。


●「新北勢力」が青瓦台(大統領府)を占拠
 
元駐日韓国大使館公使の洪ヒョン氏は、政務職はもちろん、中央省庁の局長・課長級に該当する秘書官とその他の行政官のほとんどは金日成主義である「主体思想」を学習した者であり、彼らは、「韓国そのものを平壌に捧げよう」という強い信念を持つ親北勢力であると述べている。
 
また、文政権は、金大中、盧武鉉政府の対北朝鮮政策(太陽政策と対北朝鮮抱擁政策)を継承することを明言している。


●米国の北朝鮮の非核化政策は一枚岩でない。
 
トランプ政権は「核・ミサイル開発の放棄」を対話の前提条件としているが、現・元政府高官からはこれと異なる発言がなされている。
 
レックス・ティラーソン前国務長官は昨年12月12日、ワシントンでの講演で「前提条件なしで北朝鮮との最初の会議を開く用意がある」と述べた。この発言は直ちに取り消されたが、北朝鮮の核武装を容認するとも取れる発言である。
 また、米バラク・オバマ政権で大統領補佐官をつとめたスーザン・ライス氏は、昨年8月10日付米ニューヨーク・タイムズ紙への寄稿で「必要であれば、我々は北朝鮮の核兵器を容認できる」「歴史的に見れば、冷戦時代に旧ソ連の何千という核兵器の脅威を容認したのと同様だ」と述べた。
 
さらに、「金正恩氏が政権存続のために不可欠と考えていることから、北朝鮮が保有する兵器を放棄する見込みはほとんどない」と記述している。