小島つとむ(銀座長州屋)さんが「刀の来歴&鑑賞」について記している。
以下、要約する。
⇒
刀剣を鑑賞するときには、「1に姿、2に地鉄(じがね)、3に刃文(はもん)」を見て味わうようにする。博物館や美術館でもガラスケース越しに鑑賞できるが、刀剣店では手に取って見ることができる。できるだけ「現物主義」で、刀を身近に感じてみるようにしたい。
そしてもう1つ、鑑賞の重要なポイントとして、刀の来歴がある。事前にその刀についての知識を持っていれば、より深く味わうことができる。実際に、戦国時代の一振りの刀を例にとって、説明する。
この刀は、戦国時代の備前長船の刀工・孫右衛門尉清光(まごえもんのじょうきよみつ)の作で、「為紀之朝臣宗景作之」と銘が入っている。宗景とは、備前国の天神山城主・浦上宗景(うらかみむねかげ)のことである。浦上氏は、備前・播磨・美作三国の守護大名赤松氏の重臣だったが、力をつけて自立する。宗景は天神山城を拠点に備前東部を支配し、旧主の赤松氏や毛利氏と対立する。いわば、中国地方の戦国史の立役者の一人と言える。この浦上宗景の信頼が厚かった刀工が、孫右衛門尉清光だった。
この刀は茎(なかご)が短く、片手で扱いやすくなっている。そして二尺二寸二分(67.2cm)という長さも、注文主が自身の体格を考慮し、素早い抜刀ができるように最適の長さを指示したと思われる。地刃の出来からみて最高品質の鉄を使用したことも歴然としていて、これこそ戦国期にオーダーメイドされた極上の一振りであると言える。
このような来歴を知っておくと、鑑賞する時に見方が変わってくる。たとえば姿を見てみると、身幅が広くて重ねが厚く、手元から反って(腰反り)いながら、中程から先へ行ってなお強く反りが加わっている。これは戦国期特有の緊張感を感じさせる姿と言え、乱世を生きた武将と清光がこの刀に込めた思いが感じられる。
このように、その刀が作られた来歴や時代背景に思いをめぐらせると、より深くその刀を理解できる。鑑賞する際の一助として欲しい。
・大江山に巣食う悪鬼を退治した 源頼光の童子切安綱。
・2メートルを超す刃長の大太刀で敵の度肝を抜いた、真柄直隆の真柄太刀。
・触れた蜻蛉〈とんぼ〉が真っ二つになった本多忠勝の名槍・蜻蛉切。
・桜田門外で井伊大老を討った関孫六兼元。
・新選組副長上方歳三の和泉守兼定…
刀は武士にとって武器であり、生き方を映す鏡であり、魂そのものであった。
男たちは愛刀に何を託したのか。