この頃、会う人毎にくり返される挨拶。「暑いですねえ!」。
冷房を効かせた部屋から出たくない毎日が続くが、これは健康にもエコにもよくない。それを聴くと涼しくなるような音楽はないものか?
中田喜直の「夏の思い出」には、炎天下から木陰に入ったとたん、さぁーっと風を感じるような涼感がある。
とくに中間部、「水芭蕉の花が…、咲いている…、夢見て咲いている水のほとり」という詩が、絶妙の間をもって歌われると、そこには涼しげな一陣の風が吹きわたるようだ。
この歌からは、どうみても、真っ黒に日焼けして、汗だくになったひとの姿は想像できない。西洋音楽の文法を基にしながら、日本人の感性を静かに歌った名曲である。
中田喜直には、この歌のほかに、「小さい秋みつけた」「雪の降る街を」といった傑作がある。しかし、最後まで春の歌は書かなかった。
喜直は、父・中田章の代表作「早春賦」に敬意を表して、春の歌を書くことはなかったのだという。これもまた、清々しく、涼しげな話題ではある。
(写真は水芭蕉の花)