2020@TOKYO

音楽、文学、映画、演劇、絵画、写真…、さまざまなアートシーンを駆けめぐるブログ。

■広島・原爆の日

2007-08-06 | ■政治、社会
  
  今日、広島原爆の日を迎えた。62回目である。この日に書こうと思っていたテーマがある。

  十数年前、初めて広島の原爆記念館を訪れたときのこと。その数日前にミュンヘンから20キロのところにあるダッハウ=ユダヤ人強制収容所にいたこと。それらのことを書こうと思っていた。

  今日、広島原爆の日をめぐるニュースをあちこちで見ていて、結局、そういうことを語る資格が私にあるのかどうか、自問自答しつつ、今の時間になってしまった。とくに、今日の広島に安倍がいたことをニュースで見て、全身の力が抜けてしまった。何故、広島は安倍を招いたのか?何故、拒否できなかったのか?

  まとまった文章にするには、あまりに事実が厳粛すぎるので、私の力では、書こうとしたことのアウトラインを記すしかない。梗概(こうがい=あらすじ)という単語がある。以下、書こうとしたことの梗概である。

  十数年前、私はドイツのミュンヘンで毎年開催される音楽祭に赴いた。ミュンヘンの国立歌劇場で、ワグナーの「マイスター・ジンガー」と、モーツァルトの「ドン・ジョバンニ」を見た。その折、現地に住むドイツ人から、『ドイツ人による、ドイツ人の恥、全人類へ向けての間違った行いを見るか?』と問われて、私は、ダッハウへ行った。そこには、アウシヴィッツと並ぶ20世紀最大のユダヤ人強制収容所の跡地があった。すべてが当時のまま残されている。

  美しい小川が流れる小道、花が咲く小道は、ガス室への導線だった。今日はピクニックへ行くと偽って、収容した人々をガス室へ送り込んだのだと言う。ただし、仕掛けはポーランドのアウシヴィッツと同じでありながら、ダッハウのガス室では幸運なことに、ひとりも亡くなる事がなかったらしい。ダッハウで亡くなった人々の多くは強制労働、生体実験、ゲシュタポの気紛れな射殺などによるものと聞かされた。その手段が何であれ、まったく何の罪もないユダヤの人々が虐殺されたことにかわりはない。

  そうは言いながら、死体焼却炉などを目の当たりにしつつ、私は、この場に私を連れてきたのが、他ならぬドイツ人であることに衝撃を受けた。

  歴史を証言する様々なモニュメントに接しながら、私が衝撃を受けたのは展示室。ヒットラーのユダヤ人虐殺にかかわる様々な事々が写真とコメントで明かされているのだが、展示のはじまりは1933年の選挙風景。しつこいほど、ヒットラーの立候補風景や、人々の投票風景までのドキュメント写真が展示されている。

  ヒットラーを選挙で選出したのは「わたし」であると同時に「あなた」だ!という強烈なメッセージ。私は膝がガクガクするほど強烈な印象(あえて誤解を恐れずに言うなら、感動すらおぼえた)をうけた。

  1933年から1945年まで、ドイツで起きた事々の責任を、全国民の事として共有する歴史観。そうなのだ!ヒットラーは選挙で選ばれた指導者なのである。

  あの時、私はドイツから帰国して後、すぐに仕事のために広島へ行った。ダッハウの印象が強かったせいもあって、私は時間の隙間をぬって、原爆記念館を訪ねた。

  ここでも様々な展示物があった。最初の写真は原爆のきのこ雲だった。その後は、蝋人形を含めて、おぞましい被害風景が並ぶ。それを見て、私はこんなふうに考えた。

  ダッハウでは、国民全体がヒットラーを選挙で選出したことへの過ちを悔い、二度とそのような事が起きないよう、警鐘を鳴らしている。広島の展示は、すべが被害者の視点。実のところ、あの戦争が始まり、終わった経緯が何だったのか?という問題提起はまったく欠如している。

  原爆は本当に悲惨な事件である。平気でこのような大量殺戮兵器を投下したアメリカ軍の基地が、いまだに日本国内にある。そこに停泊する空母には核兵器が搭載されているらしい。その基地を容認し、日米安全保障条約を標榜しつづけた男の孫が今日の広島にいた。

  私が、まっとうな文章ではなく、梗概しか書く気がしなくなったのは、安倍が広島にいたニュースを見たからである。広島は、何故彼を拒否しなかったのか?

  そうは言っても、62回目の広島・原爆の日を、私は厳粛な気持ちで迎える。今日のコラムを、まっとうな文章にまとめることができず申し訳ありません。

  最後に一言、私たちは、私たちの投票で、ヒットラーを選んではならない。同時に、安倍をはじめとする俗物政治家は、今回の参院選の結果を早々に受け入れるべきである。

  (写真はピカソの「戦争と平和」シリーズ 2007年版カレンダーの表紙)

  


  
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする