ひろむしの知りたがり日記

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「ロングストリート」実戦ジークンドー講座 (2) ─ テクニック編 ①

2014年07月14日 | 日記
スターリング・シリファントとブルース・リーが、ハリウッドでの成功へ一縷の望みを託してシナリオを書き上げた「ロングストリート」の1話、「THE WAY OF THE INTERCEPTING FIST(邦題:波止場の対決)」では、主人公マイク・ロングストリートとリー・チョンの出会いのシーンにおいて、早くも「ジークンドー=拳を截<さえぎ>る道」の威力が鮮烈に発揮されることになります。
3人の暴漢に襲われてピンチに陥ったロングストリートを、たまたま通りかかったリーが一瞬のうちに全員を倒して救ったのです。「奴らに何をしたんだ?」と問うロングストリートに、リーは「彼らは自滅したのさ」と答えました。どういうことなのでしょう?

この闘いでリーが使った技は、すべて相手の動きに対して自然に反応し、繰り出したカウンター攻撃でした。つまり彼らは、自分の動きを利用された結果、倒されることになったのです。そのことを、リーは「自滅」と表現したわけです。
リーの技を学びたいと彼の骨董店を訪れたロングストリートに対し、リーはいいます。
「私はシステムというものを信じない。また、メソッド(方法)も信じない。システムなし、メソッドなしで、一体何が教えられる?」
しかし、そんなリーも生まれつき強かったわけではない、最初は学んだはずだ、とロングストリートは食い下がります。リーもそれは認めつつ、「“私の無学の原点”を見つけたんだ」と答えました。
ジークンドーはあらゆる形式や方式に拘束されず、「無法を以て有法と為す」を理念としています。形がないからこそ、あらゆる状況に適応できるというのがブルースの考えでした。これは有名な「水の理論」に繋がるものですが、詳しくは先に書く予定の「哲学編」で述べることにしましょう。

リーはなかなかロングストリートの願いを聞き入れてくれませんでしたが、彼も必死ですから、簡単には引き下がりません。
「“私の”(無学の原点)を見つけるのを手伝ってくれ」
リーは、とうとうロングストリートにジークンドーを指南することを引き受けます。


日本ではTV放映されなかったパイロット版も収録された「ロングストリート」DVDボックス(2007年)

事務所の中庭で、ロングストリートがサイドキック(横蹴り)のやり方を教わっています。彼はリーが構えるクッションに思い切りキックを放ちますが、足先だけの蹴りなのでびくともしません。そこでリーは、今度はロングストリートにクッションを持たせ、本物のキックの威力を体感させようとします。リーの腰の入った、体全体を使った強烈なサイドキックをまともに食らったロングストリーは、後方に大きく吹っ飛ばされてしまいました。そのさまを目撃したデューク・ペイジ部長は感嘆し、
「一体、君がやるそれは何なんだ?」
とリーに問いかけます。それに対してリーは、
「広東語で“ジークンドー”、つまり“拳をさえぎる道”といったところです」
と答えました。「“拳をさえぎる”ねえ・・・」と呟くペイジに、リーは「“蹴り”もですよ」と付け加えます。そして、
「さあ、どこなりと私に触れてみてください。何をしても構いませんよ」
と促しました。ペイジがパンチを打ち込もうと前に出ると、リーはその膝頭へ低いサイドキックを飛ばし、ペイジの動きを止めます。
「わかりましたか? 私に触れるために、あなたは近づいてこなければなりません。あなたが繰り出した一撃が、私にあなたをさえぎるチャンスを与えてくれたのです。この場合、私は自分の最も長い武器であるサイドキックを、最も近いターゲットであるあなたの膝頭に対して使いました。これはボクシングの左ジャブのようなものですが、もっと威力があります」
と説明しました。「なるほど」と言いつつペイジが、突然左ジャブをしかけようとした瞬間、リーは素早くフィンガージャブをペイジの顔面すれすれに放ち、彼の攻撃を阻みます。
「今度は、あなたの精神的緊張をさえぎりました。(左ジャブを出そうという)あなたの考えが拳に伝わるまでに、どれだけの時間が失われたかわかったでしょう」

ブルースはしばしば生徒たちに、武術の多くが相手の攻撃をブロックした上で反撃するというワンツー攻撃法を教えますが、ブロックと攻撃を同時に行えばもっと効率的だと説明していました。実力がついて、意識が高度に調律された状態になると、相手が動いた途端に迎え撃てるようになります。さらに最も洗練された段階では相手の攻撃しようという意思を感じ取り、それが開始される前に無効にしてしまうことができるというのです。そこまでいければ、およそいかなる敵と闘っても、決して敗北を喫するようなことはないでしょう。

今回紹介したシーンを見るだけで、ジークンドーの思想と技術の真髄がこのエピソードの中に見事に表現されていることがわかります。ブルースがたった32年の短い生涯の中で、最後に出演したテレビ・ドラマにおいてこのようなフィルムを遺してくれたことは、ファンや研究者にとってまさに奇跡といってもいい恩恵でしょう。
そうしたファンの1人として、次回も目が見えないというハンディを抱えたロングストリートが一人前のファイターに成長するために、リーがいかなる教えを授けていくのか、手に汗握りながら見守りたいと思います。


【参考文献】
ブルース・トーマス著、横山文子訳『BRUCE LEE:Fighting Spirit』PARCO、1998年
中村頼永著『世紀のブルース・リー』ベースボール・マガジン社、2000年
松宮康生著『ブルース・リー最後の真実』ゴマブックス、2008年

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