昭和三丁目の真空管ラジオ カフェ

昭和30年代の真空管ラジオを紹介。
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ハリクラフターズ ( Hallicrafters ) S-38E 受信機 (2)

2009-02-12 | アメリカ製真空管ラジオ
往年の名機 S38シリーズの最後を飾るにふさわしいデザインに引き寄せられ、落札した同シリーズ最終型S-38Eが届いた。フロントが平面的にならないよう周波数インジケータ部分のグラスと多面体ボディを採用した魅惑的なボディ、その使い心地をレポートする。
 1946年に発売されたS-38からS-38Cまでの機種は、Hallicrafters社のアイデンティティとも言える左右対象にレイアウトされた半円形状周波数インジケータが特長的なフロントパネルデザインだったが、S-38Dでは大型横行き形状の周波数インジケータがフロントパネルを占める平面的なスタイルへ変更され、デザイン的な魅力が失われたことは前稿ですでに述べた。
        
        ▲S-38Eはシリーズ最後期モデルながらHallicraftersの名に恥じない力作
 しかし1957年に発売されたS-38Eでは、大型横行き形状の周波数インジケータ部をさらに一回り大型化した。また選局ダイヤル/ヴォリュームつまみ等をフロントパネル下側へ配置し、シンメトリックなレイアウトへ変更するとともに、キャビネットが平面的にならないよう周波数インジケータ部分のフロントグラスを中心とする多面体ボディを採用した。
このフロントグラスとボディ部分の面構成が実に秀逸なのである。また多面体の各面をつなぐエッジに緩やかなラウンド処理を行なうことで、シャープさを損なうことなく鋭角なイメージを和らげ、洗練された豊かさと落ち着きを与えている。
        
        ▲S-38Eのデザインはフロントグラスとボディ部分の面構成が実に秀逸
人間に例えると齢(よわい)50才・・・ちょっと枯れた味を漂わせながら、菅野美穂や伊東美咲風のR35オンナを従え、20代のオトコ連中から
 「悔しいけど、このオヤジ、かっけー(カッコイイ)ぜ!」
と羨ましがられる艶っぽい(?)オヤジ像とS-38Eが重なる!  w(゜O゜;)w ワォ!
        
 実は世に溢れる工業製品のほとんどは多面体で構成されているのだが、それをいかに単純化し、S-38Eのように訴求ポイントとしてデフォルメし、プロダクトに仕上げるかが、デザイナーの腕のみせどころ。
        
 オークションに出品されていたS-38Eは、一部キャビネットの僅かな凹みと左端のバンド・スプレッド用ツマミに割れの補修跡があるそうだが、写真で見る限りコンディションも良さそうだ。職場の若手を数名引き連れて、居酒屋に行ったつもりで入札ボタンを押す・・・・。 他の入札者もあらわれず、すんなり出品価格で落札できた。落札から数日後、宅配便で送られてきた S-38Eは、キャビネットの焼付け塗装にも艶があり、ダメージやツマミの割れの補修跡も、指摘されなければほとんど気にならない状態だ。
        
 キャビネット裏側の段ボール製裏蓋を取外すと、50年の歳月を感じさせないキレイなシャーシの上に、Hallicraftersブランドがプリントされた'58年当時の真空管(mt管)とIFT、高周波同調バリコンが整然と並ぶ。
        

  メーカー: Hallicrafters社 S-38E (1957-1961)
  サイズ : 高さ(約178mm)×幅(約324mm)×奥行き(約235mm) 4.7kg
  受信周波数 : 中波 540~1650kC/1.7~5.1MC /5.0~14.5MC/13.0~31.0MC
  使用真空管 :
           12BE6 局部発振・周波数変換
           12BA6 中間周波数増幅
           12AV6 検波・初段低周波増幅
           50C5   低周波出力
           35W4   整 流
  電 源  : AC 115-125V/50-60cycles
  スピーカ: Permanent Magnet Dynamic Loudspeaker (moving coil)

 S-38Eと同時代の日本製真空管ラジオとの経年劣化の度合いを比べると、配線などの仕上げはともかく(笑)、コンデンサーなどパーツの品質ひとつとっても当時のアメリカがいかに頑丈な製品を供給していたのかが分る。
        
        ▲Hallicrafters社 S-38Eのシャーシ内部には高級パーツが並ぶ
 S-38Eのシャーシ内部部を見ると、50年代半ばから後半にかけてGIBSONのエレクトリックギター Les Paul、LP Junior、ES-335他、伝説のモデルに採用されていたSprague社Bumble-BeeやCornell Dublier社TINY CHIEFといったコンデンサが使われている。
        
コンデンサは、ギター内部パーツの中で、音色に最もかかわりが深いといわれているが、コンデンサを交換することにより確かに大きく音質の差がでます。
現在、多くのギターはトーンコントロール回路にセラミックコンデンサが搭載され、グレードアップと言うとオレンジドロップに変える事が定番のように言われています。コンデンサによる音質を変化を考えると、ヴィンテージコンデンサは、音の抜けが良く万人に好まれそうな音色、音抜けへと変わる。
 ヴィンテージ・コンデンサは、現在Les Paulモデルの価格が高騰していることも関係し、ギターマニアの間では1個の価格が数千円~2万円で取引きされている。本来なら安全上、コンデンサや抵抗類はリキャップしたほうが良いのは判っているが、オリジナルのヴィンテージ・コンデンサを残しておきたい気持ちに傾いてしまう。
        
 前稿でご紹介したNational Radio社 NC-60 "NC-Sixty Special" と比較すると、コイルをはじめとする高周波回路等すべての作り込みにおいてHallicrafters社のほうが高級感が漂う。
        
        ▲National Radio社 NC-60 "NC-Sixty Special"のシャーシ内部
 S-38Eの特長でもある大型横行き形状のメインダイヤル周波数インジケータには、POLICE、AMATEUR、GOVERNMENT、WWV(標準電波)といった短波帯を使用する業務区分別の帯域表示と主要国名が細かくプロットされている。
ちなみに写真の△CD(Civil Defense:民間防衛)マークが、640KHzと1240KHzの周波数にプロットされている。ソ連から発射されるミサイルは各都市のラジオ局の周波数を目標にして飛来するため、ミサイル発射を察知した時点でミサイルを攪乱させる目的で全米の全ラジオ局が同一周波数で放送を行なうという、当時の東西冷戦構造のなごりである。
        
まだ今ほどグローバル化が進んでいない50年前、アメリカの青少年たちは電波に乗って届く "未知なる世界の情報" がギッシリ詰まっているこの箱(S-38E)を前に、胸躍らせたことだろう。