湯・つれづれ雑記録(旧20世紀ウラ・クラシック!)

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コープランド:バレエ音楽「アパラチアの春」

2007年02月10日 | アメリカ
○ロジンスキ指揮NYP(DA:CD-R)1945/10/7放送live(演奏会形式初演)

エロイカを前プロに新作初演という文字通り「楽聖をも恐れない」プログラム。作曲家臨席であります。まー清清しい、コープランドここにありという有名曲ではあります。ちょっと複雑なリズムと旋律だけの単純な構造。しかしそれは試行錯誤の結果としての合理性であり個性である。ロジンスキの表現は静寂と躍動のコントラストが素晴らしく、静寂の部分の美しさは、らしくないほどにイマジネイティブでシンプルな書法を逆手にとったプレーリーの拡がりを彷彿とさせるような美感(アパラチア山地だけど)をもっていて印象的。打楽器系の響きと木管のかもす、フランス印象派とも違う、しかしやはり印象派的なイマジネーションを硬質の響きで表現するさまはさすがアメリカ・アカデミズムの最も成功した人。そういえばゲイ説ってあったけど、ふと「なんとかマウンテン」て本(映画)思い出した。男臭いかというと、この情緒描写は寧ろ女性的で柔らかくしなやかである。ロジンスキの表現が繊細なのだ。躍動部分はロジンスキでなくてもこういうものが得意なバレエ指揮者はたくさんいるのかもしれない。ロジンスキはむしろもさい感じすらした。ロマンティックな重さがあるのだ。もっと軽くカウボーイやカウガールがスキップするように田舎踊りしないと「らしく」ない(アパラチア山地だけど)。リズムがどうもたどたどしい・・・けどよく考えたら初演か。コープランドで苦しむのはこの変則リズムにノるまでなんですよね。ノれたら楽しいし聴く側もしっくりくる。この演奏はちょっと浪漫性に重点を置きすぎ、弾けるような表現がやや弱いかもしれない。でも弦楽器の俊敏さは目を見張るものがあるし、絶対失敗をしないという気合いのみなぎるNYPの感じにはロジンスキの苛烈な締め付けがよくあらわれている。単線音楽に近いものの、極めて簡素化された構造はけっこう明るくすっきりした音響をもたらすという意味で軽視できないものがあり、特に舞踏部分に横溢するポリリズム的要素をしっかり噛み合わせジャズ的なリズム処理の面白さで音楽を描くという方法はコープランドの心臓といってもいい部分だが、ここではやや崩壊しかかったりもする。初演だからね。しかしやっぱり美しく艶のある弦楽器の音色が聴かれる、春の描写、即ち山の牧歌的な風景描写のほうが魅力的と言えるだろう。しかしほんとに単純な音構成で世俗的な個性を発揮できるというのはこのかつては評論家にアンファン・テリブルとよばれたモダニズム出身の男の円熟の結果というところだろうか。厳選された楽器の単純な組み合わせによる薄い響きと、アメリカ特有の旋律と、頻繁に変化するリズム(源泉がストラヴィンスキーにあるということは言うまでもない)すなわち躁鬱的な楽想の変化がこの人の作風として確かにある。いわばメドレーによって成り立つバレエ音楽が根っこのところにあるのだ(これもバレエ音楽が元)。ロジンスキはこの曲に流れるべきは結局ゆったりした時間だと割り切ったかのように、なかなか大曲を最後までイマジネイティブに〆ている。長ったらしいけど、まあ、演奏的にはすぐれて技巧が発揮されているから○。

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