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五七五七七で詠まれる短歌は明治以降、大きく表現の幅を広げ、日本語の豊かな財産となってきた。口ずさめば詠みこまれた情緒がたちまち甦る。現代を代表する歌人が近現代百人の歌人の愛誦したい名歌を精選し、「新・百人一首」がここに誕生した。
出版社:文藝春秋(文春新書)
近現代の歌人を100人選び、その代表歌1首、および秀歌を2首ずつ収めている。つまりは300首強の作品に触れられるという体裁だ。
短歌に関する知識は浅いため、こういう企画は大変ありがたい。
たぶんどんな人でも、必ず気に入った歌に出会うことだろう。
そして短歌のすばらしさに気づくことができる一冊と感じる次第だ。
個人的に代表歌百種の中で好きな歌を五つ上げるなら、次の通りとなる。
君かへす朝の敷石さくさくと雪よ林檎の香のごとくふれ何と言っても「さくさく」という小気味の良いリズムが良い。北原白秋
雪と林檎の取り合わせもどこかロマンティックだ。
内容的には不倫の歌らしいが、その暗さや重さを感じさせず、普通の恋愛歌としても楽しめる作品となっているように感じた。
桜ばないのち一ぱいに咲くからに生命をかけてわが眺めたりいかにも情熱の作家らしい力強い歌だ。岡本かの子
桜の爛漫と咲く姿を見て、自分もそれに応えるようにして桜を見ている。
そこにある気概に心震えてならない。
マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや何となく暗がりかなと思うが、その中でマッチを擦る風景がダンディズムそのもの。寺山修司
祖国に対する若干の失望を抱えながらも、祖国を思わずにいられぬようにも見え、その感情の揺れのようなものが心に残った。
観覧車回れよ回れ想ひ出は君には一日我には一生男と女の恐らくたった一回のデートの捉え方が心に残る。栗木京子
相手にとってはたった一日の思い出も、当人には永遠に忘れがたい記憶となる。
「回れ」の祈りめいた文句も含めて心に残る作品だ。
目にせまる一山の雨直なれば父は王将を動かしはじむ「目にせまる一山の雨」というのが父のイメージとかぶるよう。それはまさに大いなる父のイメージだ。坂井修一
そしてそんな父を王将を動かさせるほど追いつめる息子。
その父子に漂う緊張感が心に響く。
ほかに秀歌も含めて10首選ぶなら以下のようになろう。
やは肌のあつき血潮に触れも見でさびしからずや道を説く君与謝野晶子
相触れて帰りきたりし日のまひる天の怒りの春雷ふるふ川田順
不来方のお城の草に寝ころびて/空に吸はれし/十五の心石川啄木
バイカルの湖に立つ蒼波のとはに還らじわが弟は窪田章一郎
ベッドの上にひとときパラソルを拡げつつ癒ゆる日あれな唯一人の為め河野愛子
いづこにも貧しき路がよこたはり神の遊びのごとく白梅玉城徹
一隊をみおろす 夜の構内に三〇〇〇の髪戦ぎてやまぬ福島泰樹
雨にうたれ戻りし居間の父という場所に座れば父になりゆく小高賢
唇をよせて言葉を放てどもわたしとあなたはわたしとあなた阿木津英
名を呼ばれしもののごとくにやはらかく朴の大樹も星も動きぬ米川千嘉子
もちろんこれ以外にもすてきな作品は多い。
ともあれ短歌のおもしろさを堪能できる一冊である。
評価:★★★★★(満点は★★★★★)
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