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「きみは、本当は、いい子なんだよ!」小林宗作先生は、トットちゃんを見かけると、いつもそういった。「そうです、私は、いい子です!」―トモエ学園の個性を伸ばすユニークな教育と、そこに学ぶ子供たちをいきいきと描いた感動の名作。
出版社:講談社
ともかくも、すばらしい作品である。
黒柳徹子の実話に基づいているようだが、子を教育するということ、子が育っていくということについていろいろ考えさせられる作品だった。
トットちゃんは今でいうところのADHDだったのだろう。
授業をまともに受けず、机のふたを何回も開け閉めするなど、落ち着きのない行動はあからさまで騒々しい。
いまでこそADHDと言う言葉があるので、認識は進んでいるけれど、昔はそうはいかなかったことだろう。
集団に馴染めない子どもは劣等生のレッテルを貼られ、退けられてしまう時代なのだ。
しかしトットちゃんが幸運だったのは、周りの大人たちが、そんな子であっても、子供の気持ちにしっかり寄り添っていたことだ。
トットちゃんはわけのわからないことを始終言うような、空気の読めない子供だ。
いくら親だからとは言え、いらいらすることもあったろう。
だが母親は辛抱強く、トットちゃんに向き合ってくれる。
そしてトモエ学園の校長、小林宗吉先生も、子供の突飛な話を何時間でも聞いてくれるような人なのだ。
これは戦前という時代状況を鑑みても、非常にラッキーとしか言いようがないと思う。
そうして彼らは、トットちゃんのことを、和を乱す存在としてではなく、そういう個性を持った子どもなんだ、とありのままに受け入れてくれているのだ。
その姿勢が本当にすばらしかった。
彼らの基本スタンスは、子どもと言えど、一人の人間として扱うということにあるように思う。そんな彼らの姿勢からは、教育がどういうものか、子どもと向き合うとはどういうことか、についても深く考えさせられる。
しかし、トモエ学園の授業は戦前にしてはリベラルだ。
授業の順番も子供の興味に任せているし、自然と触れあい、そこから学ぶ姿勢を持たせることも大事にしている。
そして相手の差異に対して、差別意識を持たないように、注意を払っているし、女性だからと言って抑圧もしない。
危険なことをしていても、よほどのことがない限りやめさせないし、あくまで子どもに考えさせる姿勢を崩さない。
そして、こうしろ、と言って、人格を否定するほど強く命令することもない。
まさに一人の人間として子供を尊重しているのだ。
その様は徹底しているといっていい。
その最たるものが、君は、「本当は、いい子なんだよ」という校長先生の言葉だろう。
子供に劣等感を抱かせないように、子供の良い面に目を向けて元気づけてあげる。
教育者として、その姿勢は尊敬に値する。黒柳徹子が後年まで感謝するのも当然だ。
そうしてトモエ学園の生徒たちは、のびのびと育ち、社会に巣立っていった。
人を育てるということについて、本当に深く考えさせられる次第である。
評価:★★★★★(満点は★★★★★)
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