![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4d/f3/2bed3afa191b259b5d13535afb69c961.jpg)
幼い頃からチャイルドモデルをしていた美しく健やかな少女・夕子。中学入学と同時に大手芸能事務所に入った夕子は、母親の念願どおり、ついにブレイクする。連ドラ、CM、CDデビュー…急速に人気が高まるなか、夕子は深夜番組で観た無名のダンサーに恋をする。だがそれは、悲劇の始まりだった。夕子の栄光と失墜の果てを描く、芥川賞受賞第一作。
河出書房新社(河出文庫)
綿矢りさの作品は、どこにでもいそうな女性が主人公になっている場合が多い気がする。
そういう観点からすると、本作は若干毛色がちがった作品とも言えようか。
実際、主人公はチャイルドモデルから人気の新人女優として名乗りを上げていく少女だ。
特殊な世界であることは動かしがたい。
しかし綿矢りさだけあり、そんな特殊な舞台設定ながら、人物描写や観察力は他の作品同様に卓越している。
さすがの上手さと感嘆するばかりだ。
物語は男に捨てられそうになっている母親の話から語り起こしている。
そこからの筋運びはさながら、フランス自然主義文学のように古風だ。
しかし一歩引いた醒めた文体で描いているためか、読む分には大層心地よい。
とは言え書かれている内容自体はオーソドックスな話である。
芸能界で働く娘のために熱心になる母親の存在や、恋愛がらみのスキャンダルで転落する流れなどは、現実でもそこそこ聞くような道具立てばかりで珍しくもない。
しかし醒めたタッチで描いているためか、通俗に流されるギリギリのところで踏みとどまっているように見える。って言ったら言い過ぎかな。
そんな派手な舞台と道具立てを用い描かれているのは、本当に求めているものが手に入らない女たちの物語ってところだろうか。
実際母親も夕子も、好きな男がいながらその心を自分に向けることができないでいる。
どれほど華やかな世界に身を置いても、どれほど手段を弄しても、母親も夕子も愛する相手に、自分の心を届けることができないのだ。
その状況が苦い。
そして転落していく夕子の姿は、物語の苦みにさらに拍車をかけていて、読み応えあった。
それ以外の場面では、多摩との何気ない会話の場面や、サーキットのパーティの場面などは好きである。
どれも心情の描き方や、雰囲気の作り方が上手い。
はっきり言って、オーソドックスゆえに爆発力はないのだが、雰囲気良く、楽しく読める一冊だった。
これもまた綿矢りさらしい作品と言えるのかもしれない。
評価:★★★(満点は★★★★★)
そのほかの綿矢りさ作品感想
『勝手にふるえてろ』
『かわいそうだね?』
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます