鈴木朝夫の「ぷらっとウオーク」

連載中の「ぷらっとウオーク」などをまとめました。

6月11日、鈴木朝夫理事長の土佐技術交流プラザ通常総会特別講演(第1部)

2013-06-18 | 高知県メタンハイドレート開発研究会

6月11日、鈴木朝夫理事長の土佐技術交流プラザ通常総会特別講演(第1部)

(平成25年度、土佐技術交流プラザ通常総会特別講演、(2013/6/11)、於:高知サンライズホテル)

メタンハイドレートの可能性とは

                                     鈴木 朝夫(高知工科大学・東京工業大学名誉教授)

4月26日(金)に資源エネルギー庁から出された「海洋基本計画」が閣議決定された。これによると「平成30年代後半(2023~28年)に民間が主導する商業化プロジェクトが開始されるよう、国際情勢をにらみつつ技術開発を進める。」となっている。
   5月18日(土)のNHK週間ニュース深読み「注目の海洋エネルギー」を見た人も多いと思う。  地球深部探査船「ちきゅう」が愛知・三重沖での試験掘削に大成功した後、佐渡沖に移動して  いると報じていた。浮体式洋上風力発電の可能性にも触れていた。
    第1部では、メタンハイドレートを中心に各種エネルギーの世界的な事情を述べ、宝の海の話  を進める。第2部では省エネや新エネでは済まされない地球の未来の姿を思い描きながら、子  供・孫達のためには何を成すべきか、過疎化が進む高知だからの可能性を探ることにしたい。

第1部 メタンハイドレート、地熱エネルギー、再生可能エネルギー
1-1)エネルギー資源の種類は

{エネルギー資源は大きく2種類}
 1) 蓄積エネルギー・枯渇性エネルギー(貯蓄・資産として相続した資金):石炭、石油、天然ガ   ス、メタンハイドレート、シェールオイル(ガス)などの化石燃料、(核エネルギー)、(地熱    エネルギー)・・・・・・・・・遊んで食えば山も尽きる、いつまでもあると思うな親と金。
 2) 再生可能エネルギー・自然エネルギー(給与や売上で獲得した所得):バイオマス、水力(小      水力)、風力、波力、潮汐力、海流、温度差、太陽光、太陽熱・・・稼ぎに追いつく貧乏なし。 3)  その他として エネルギー貯蔵(当座預金・運転資金)・・・・・・・備えあれば憂いなし。

{蓄積エネルギー資源の掘削法} 固体の石炭:固体を掘り出す。液体の石油:液体が湧き出る、液体を汲み出す。気体の天然ガス:気体が噴き出す、気体を吸い出す。固体のメタンハイドレート:固体を気体(メタン)と液体(水分子)に分離し、気体として地上に取り出す。石炭、石油、天然ガスの従来のエネルギー資源との大きな違いがここにある。

{ハイドレートの結晶構造は石鹸の泡}  包接化合物(クラスレート)の一種である。メタンハイドレートでは、水分子が水素結合で作る立体網目のカゴ毎に、メタン分子が収まっている。立体網目は、水分子が作る正五角形の面から成る正12面体(Sカゴ)が2個、正五角形12面と正六角形2面の計14面から成る14面体(Mカゴ)が6個の割合で形成されている。カゴの各面は両側の2つのカゴとの共有であり、従ってMカゴの正六角形は、接続している隣のMカゴの正六角形と共通になる。Mカゴは一線に連続していることになる。また各辺は3つのカゴの共有であり、頂点は4つのカゴの共有である。この立体構造は石鹸水の泡と良く似ている。①

{ハイドレートの結晶構造は立方体}  立方体単位胞の8つの頂点には正12面体のSカゴが位置するので、単位胞あたり1個に相当する。向きを変えた中心の1個と合わせてSカゴは2個である。14面体のMカゴは一直線に並ぶが、横に(X)、縦(Y)に、奥(Z)にと3方向に向いている。立方体の面には2個づつ配置されて計12個になるが、隣の面と共有するので、単位胞の所属は6個になる。これらのカゴの全てにメタン分子が入ればその数は合計で8個である。メタン分子1個は5.75個の水分子で囲まれている勘定になる。なお、MカゴにNbを、SカゴをSnにと置き換えれば、それは超伝導金属間化合物のNb3Snの結晶構造のA15構造になる。①

{メタンハイドレートの相安定性}  安定領域の温度・圧力の境界は、+10℃で76気圧、+4℃で50気圧、0℃で26気圧、-30℃で10気圧、-80℃で1気圧などである。言い換えれば、温度が低下すれば圧力は小さくても安定であり、圧力を高くすれば温度が高くても安定である。②

{自己保存効果}  ハイドレートが安定に存在できない常温・常圧であっても、メタンを放出して残された水は氷結して表面を覆う。これは、メタンと水に分離する反応が吸熱であることによる。この氷が保護被膜の作用をして反応を遅らせ、常温でも比較的安定である。しかし、このことがメタン採掘に際して抗井を氷結閉塞させる可能性を孕んでいる。
                            
{固体・液体・気体}  一般に、物質に圧力を加えれば、体積は小さくなる。そして、気体は固体
に変化(相転移)し、体積を減少させていく。物質の温度を下げれば、体積は縮小する。気体は液体に、液体は固体に相転移し、その時は発熱を伴なって温度を一定に保とうとするかのように振舞う。自然界では、外界からの変動を、自分自身を変化させて緩和しようとしている。

{エネルギー利得率、EPR}   EPR=(出力エネルギー)/(入力エネルギー)である。採掘・精製・保管・輸送などの生産に必要な入力エネルギーと利用出来る出力エネルギーの比がEPRである。ある文献では、石油火力は7.9、石炭火力が6.5、液化天然ガス火力2,4、風力3.9、地熱6.8、原子力は17.4などとなっているが、計算の根拠が不明である。計算基準を決められないのでは。

{メタンハイドレートからのメタン回収法}   「加熱法(温水圧入)」、「加熱法(抗井加熱)」、「減圧法」、「分解促進剤注入法」、「ゲスト分子置換法」などが考えられてきた。温度を上げれば、体積の増える方向の水とメタンの分離に向かう。圧力を解放すれば、同じく体積の増える方向に向かう。加熱法は、メタンの分離が吸熱反応だから、際限なく加熱し続ける必要が出てくる。

{減圧法によるメタン回収} 日本のMH21開発計画では減圧法が採用されている。ハイドレート堆積層に水平抗を堀り、発生する水を汲み上げて圧力を低下させ、これにより発生するメタンを吸い上げる。この分解は吸熱反応であり、周囲の温度を低下させる方向に動く。しかし堆積層の周囲の地熱により溶解が進み、圧力低下を持続させる。問題は減圧効果の範囲と持続時間にある。生産性障害になるのは、氷の生成であり、自己保存性が裏目になる。温水圧入や抗井加熱などの加熱法との併用の試みもある。出砂も問題であり、海底や地上に堆積粒子汚泥を取り出すことになる。

{活力は土佐沖の海底より出づ}(No.280、1(2011))      加熱法の一形態の「その場局所加熱法」と名付けられる県内企業が提案した面白いアイデアをメタンハイドレートのユニークな掘削法である。豊臣秀吉が戦略とした現地調達法そのままと言っても良い。③

 

1-2)日本は昔からの資源大国(黄金の国ジパング)

{金銀鉱石の産出}   江戸時代には金は佐渡金山、銀は石見銀山が有名だった。現在、鹿児島県の菱刈鉱山の金の推定埋蔵量は250t、金鉱石は250g/tと高品位である。普通は数g/tである。

{平成24年の漢字は「金」}(No.305、2(2013))  「黄金の国ジパング」を取り上げている。日本の金に関連した話、高知の金の話を知っていますか。④

{塩の道は丹生(韮生)の道では?}(No.279、12(2010))    水銀を産出した土佐を取り上げている。塩は帰り荷だったのでは。行き荷は水銀、樟脳。絵金は赤岡での「岩絵の具」に惚れたのか。⑤
{生命と文明の源、水と鉄に例外の性質}(No.242,11,(2007)) 液体(水)よりも固体(氷)の方が軽いのは異例である。低温相のbcc鉄よりも高温相のfcc鉄の方が密度が高いのも異例である。⑥

{海底鉱物資源}  200カイリ経済水域内で採れる鉱物資源は多い。リチウムを含む泥火山を始めとして、熱水鉱床、マンガン団塊、コバルトリッチ・クラストなど鉱物資源は様々である。

{リチウム電池}  リチウム(Li)は最も軽い金属である。日本は有数のリチウム産出国になる可能性を秘めている。エネルギー蓄積の役割を演じる金属リチウムを資源として持てることは国際能性を秘めている。エネルギー蓄積の役割を演じる金属リチウムを資源として持てることは国際戦略上で極めて有利である。二次電池に必要なコバルト資源も直ぐそこの海底に眠っている。

{地熱発電}  日本列島は火山の島、温泉の国、地熱は固有の熱資源であり、自然エネルギーである。地熱発電は天候に左右されないので、稼働率は極めて高く、何れの再生可能エネルギーとも比較にならない。しかし、地熱資源の多くは国立公園内にあり、導入促進には法的措置や規制緩和が不可欠である。また、地域や温泉事業者との調整が重要である。高温岩体発電、バイナリー発電など方式は様々である。

{エネルギー貯蔵(ストレージ)} 多数の発電電源間の系統安定性の確保。ダム貯水(揚水発電)、燃料電池(水素エネルギー)、二次電池(水素電池、リチウム電池)、超電導、フライホイールなど。

{電気自動車}  夜間電力での蓄熱は現在多くの家庭で実用化されている。同じように、自家用自動車が動ける蓄電装置として夜間に使われる。再生可能エネルギー発電とともに、スマートハウスの重要な構成要素となる。

{地球温暖化への影響}   CO2の20倍もの温室効果があり、5500万年前の生物の大量絶滅の原因とも言われているメタンである。これは46億年にわたる地球のダイナミックな営みの中での物語である。議論になるのは、掘り出して燃焼させることと、自然放出との比較になる。メタンはCO2の排出量の差から、代替エネルギー源として期待できる。

 

1-3)スマートグリッドとビッグデータ

{スマートグリッドとは}  他種類のエネルギーの供給側とニーズの多様性を示す需要側の相互連携を高度に知能化した情報通信技術で制御する送配電網である。従来の大型発電所からだけの電力供給を行う発送電網ではない。家庭やオフィスや事業所などの小口電力を消費する需要側にも、多様な発電機能を備え、地域で必要な電力を消費地で生産するような、地産地消の仕組みを備えていることも特徴である。

{インターネット・プロトコール、IPv4とIPv6}  アドレスは幾つあればよいか。現在のIPv4は 2の32乗(=約42億)個である。地球上の人口よりも少ない。IPv6では 2の128乗(= 約340澗)個である。340澗個とは340兆の1兆倍の1兆倍のアドレスになる。IPv4を石油缶の体積とすれば、IPv6は太陽を越える大きさになる。

{ビッグデータ} FacebookやGoogleに代表されるような巨大な情報を取り扱える時代に入っている。初音ミクやコンプリートガチャの巨大さを想像して欲しい。複雑な巨大システムの制御が可能な時代である。欠陥を皆無にすることはできない。低確率巨大事故の候補の1つである。

{ベキ分布と巨大事故}   ベキ分布の具体例を示せば、乾燥したビスケットを床に落としたとき、壊れた破片の大きさの分布である。小さな破片(粉)は無数、非常に大きな欠片(かけら)も混ざっています。巨大地震や巨大事故は確率は低くても必ず発生することを示している。「アクシデント、事故と文明」はポール・ヴォリオの著書で、ここで彼は「文明は事故を発明する」と述べている。

 

1-4)日本の、土佐の、メタンハイドレート開発に向けての現状


{メタンハイドレートの開発研究}  日本のメタンハイドレートの調査研究は2001年に始まっている。資源エネルギー庁から業務委託を受けて、(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構、(独)産業技術総合研究所、(財)エンジニアリング振興協会の3者が「メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアム(MH21研究コンソーシアム)を組織し、「フェーズ1」の活動に入った。

{MH21フェーズ1}    日本周辺海域の賦存状況や賦存量調査を目的として、東海沖から熊野灘に掛けての東部南海トラフ海域で物理探査や試錐を行った。また、カナダの凍土で陸上産出試験を行った。ここでは基本的に減圧法を採用している。2001~2008年。

{MH21フェーズ2}   研究開発の第2段階に相当する2010年からは海洋産出試験の実施に向けた事前調査や設備検討などの準備段階に入る。2012年後半から東部南海トラフ上の渥美半島沖で1000mの海底から300m掘削し、メタン採取を行う予定である。また、東部南海トラフ以外の海域の調査、長期生産性や生産障害の解決、経済的・効率的な産出技術の確立が目標となっている(2009~2015)。商業的産出が目的の「フェーズ3」に移行する予定である。(2016~2018)。

{地の利、高知}   滑走路2500mの高知龍馬空港・拡張の余地を残す高知新港(FAZ)・これらを結ぶ高速高知道、そして香南市・香美市・南国市・高知市・いの町が位置する香長平野は広い。これらは生産設備・試験設備・備蓄基地などの各種施設の立地条件を充分に満足するものである。今は、海洋研究開発機構所属の地球深部探査船「ちきゅう」の寄港が出来ることが素晴らしいことである。正に「活力は土佐沖の海底より出づ」である。

{海の利、土佐}   土佐湾沖の南海トラフのメタンハイドレートとそれに伴うリチウムの回収だけではなく、200海里の排他的経済水域内には各種の有望な海底鉱物資源の存在する可能性が高い。Ni、Co、Ptなどを含むコバルトリッチ・クラスト、Ni、Cu、Mnなどを含むマンガン団塊、そしてAu、Ag、Zn、Pb、Cuなどを含む熱水性鉱床である。

{人の利、龍馬}  高知には知の利がある。海洋研究開発機構(高知コア研究所)、高知大学、高知工科大学、県立高知大学、高知県産業技術委員会他がある。県内企業からの掘削に関する特許が認可された。付随した関連特許が山のように出てくるであろう。様々な関連するベンチャー企業も生まれてくるだろう。第二の龍馬たちに、第二の弥太郎たちに期待したい。

{NPO21世紀構想委員会とは}   真の科学技術創造立国を確立するため、研究テーマを掲げて討論する場として1997年にスタートした。会員はベンチャー企業、行政官庁、大学、マスコミの4極から参加している。会員数は約100人である。理事長は馬場錬成氏(東京理科大学大学院 知財財産戦略専攻 教授、元読売新聞論説委員)である。


{メタンハイドレート実用化研究委員会}  NPO21世紀構想委員会に所属する会員の特許出願の支援を行ってきた渡邉望捻氏(イオン特許事務所弁理士)らの要請により、すなわち国家プロジェクトとして取り上げるべきとの観点から、表記の委員会を設置した。2010年7月27日に馬場錬成氏を先頭に、平朝彦氏((独)海洋研究開発機構 理事、現理事長、元高知大学教授)に委員長就任をお願いした。
 2010年12月6日には、第2回のメタンハイドレート実用化研究委員会が開かれた。この委員会をべースにして、「メタンハイドレート国際戦略部会(仮称)」、「メタンハイドレート技術専門委員会(仮称)」を、そして高知県ベースで「高知県メタンハイドレート開発研究会」を設置することが決まった。仕事の手始めは内閣府へ「国際戦略総合特区」の申請書、「メタンハイドレート実用化研究から資源大国へ」を提出することであった。この申請は内閣府の制度に馴染まなかったが、考え方は引き継がれ、推進していくことが了承された。
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{高知県メタンハイドレート開発研究会}  2011/7/18(海の日)に、平朝彦氏、臼井朗氏(高知大学教授)、木川栄一氏をお招きして記念講演会を開催し、高知県での研究会を発足させる運びになった。
 2012/2/16には、木川栄一氏(海洋研究開発機構・高知コア研究所所長から海底資源研究プロジェクトのリーダーに栄転)に海洋資源の講演を頂いた。
 2012/7/7には、設立一周年を記念して、木下正高氏(海洋研究開発機構・高知コア研究所所長)から活動の現況を、また門馬義雄氏(高知工科大学名誉教授)より「環境とエネルギーから見た50年後の地球」と題する講演を頂いた。
 昨年(2012/10/31)にグランキューブ大阪で開催された「計測展2012 OSAKA、計測と制御で創る未来の地球」で鈴木が招待講演を行った。タイトルは「新エネルギー資源の使い方~メタンハイドレート、地熱発電、そしてストレージ」である。
 昨年の末には、洲本商工会議所から十数名の視察を受け入れた。海洋開発機構・高知コア研究所の視察を中心にして、高知県の海洋開発に関連する意気込みの説明を行った。
 2013/3/9にはミニ講演会とし、「海底資源をめぐる最新情報(JAMSTECの海底資源研究)」題する木川栄一氏のお話を頂いた。    
  5月26日(日)のKUTVの「夢の扉+NEXT DOOR」で、{世界初成功!次世代エネルギー「メタンハイドレート」海洋産出!、 ~日本をエネルギー自給国に!、海面下1300m、男たちの12年の闘い~}の放映があった。ご覧の方も多いと思う。

{講演会のご案内(高知県メタンハイドレート開発研究会主催)}
  来る7月25日(木)、高知会館において、午後2:00~4:00に、講演会を開く予定である。
 講演1は(仮題)「メタンハイドレート開発の状況と今後の見通し」と題し、経済産業省・資源エネルギー庁・燃料部石油・天然ガス課課長補佐 上条剛氏に、
 講演2は(仮題)「高知市新エネルギービジョン」と土佐湾沖のメタンハイドレート」と題し、高知市副市長 中嶋重光氏にお願いしている。
 今回の画期的な講演会を契機に、県下のできるだけ多くの市町村の行政や議会事務局に、講演会などの情報提供をできるよう連絡網の確保を検討している。

{投資詐欺}     各種の新エネルギー・新資源に関する美味しそうな話が増えてくる。要注意!!

 

6月11日、鈴木朝夫理事長の土佐技術交流プラザ通常総会特別講演(第2部)

ブログ 高知県メタンハイドレート開発研究会

メタンハイドレート の取り組み 記事 目次

鈴木朝夫のメタンハイドレートのこと、もっと知りたいコーナー 


6月11日、鈴木朝夫理事長の土佐技術交流プラザ通常総会特別講演(第2部)

2013-06-18 | 高知県メタンハイドレート開発研究会

6月11日、鈴木朝夫理事長の土佐技術交流プラザ通常総会特別講演(第2部)

(平成25年度、土佐技術交流プラザ通常総会特別講演、(2013/6/11)、於:高知サンライズホテル)

メタンハイドレートの可能性とは

                                    鈴木 朝夫(高知工科大学・東京工業大学名誉教授)

4月26日(金)に資源エネルギー庁から出された「海洋基本計画」が閣議決定された。これによると「平成30年代後半(2023~28年)に民間が主導する商業化プロジェクトが開始されるよう、国際情勢をにらみつつ技術開発を進める。」となっている。
   5月18日(土)のNHK週間ニュース深読み「注目の海洋エネルギー」を見た人も多いと思う。  地球深部探査船「ちきゅう」が愛知・三重沖での試験掘削に大成功した後、佐渡沖に移動して  いると報じていた。浮体式洋上風力発電の可能性にも触れていた。
    第1部では、メタンハイドレートを中心に各種エネルギーの世界的な事情を述べ、宝の海の話  を進める。第2部では省エネや新エネでは済まされない地球の未来の姿を思い描きながら、子  供・孫達のためには何を成すべきか、過疎化が進む高知だからの可能性を探ることにしたい。

第2部 右肩下がりの下山の先は?
2-1)成長戦略は喜ばしいことだろうか


{「下山の思想」などの考え方}  石油ピークは既に過ぎており、使い勝手の良いエネルギー資源の観点からは、生産活動自体が下り坂になることは必然であり、経済指標は何れも前年度比マイナスの退却戦に入っている。これからは専門家と称する人への『お任せ』ではなく、各自が考え、意見を持つ『自立』の時が来たことを自覚しなければならない。下り行く先の未曾有の時代の姿を思い描き、どのように生きていくかを皆で考えるべきである。
1)「下山の思想」:五木寛之著(幻冬社新書、2011/12)、2)「『右肩下がりの時代』をどう生きるか」:鷲田精一著(「潮」、2012/1)、3)「石油文明が終わる~3・11後、日本はどう備える」:石井吉徳他著、(”NPOもったいない学会”、2011/11)。

{固定観念、既成概念、既得権の放棄}   今の高齢者達の世代は、最高峰を目指した同志であった。戦後の日本の経済成長を、高品質・高効率・大量生産で担う戦士達であり、希望に満ちて大量消費を競ってきた。下山に際しては、固定観念を、既成概念、その価値観を捨て去る必要がある。経済成長率プラスの期待は止めなければならない。新陳代謝はゆっくりとゆったりと。「持続可能な発展」や「ゼロエミッション」のスローガンは無意味であることを悟ろう。

{最高峰に立ったとき} 我々山仲間は「山を征服した」との表現を使ったことは一度もない。頂上では「ありがとう」と山々に感謝し、「お陰さま」と仲間と握手をした。帰りも安全に降ろして下さいのお願いが込められている。日本人が皆で最高峰に立ったとき、我々は「お陰さま」と感謝しただろうか。今からでも遅くない。振り返り、感謝を捧げようではないか。

{リーダーの資質}   山を下るときの鉄則はグループをまとめ、落伍者を出さないことである。力量や経験の異なる混成部隊である。適度な休息を取り、食糧を分け合い、体を温め合うことが必要である。寒さが募る中では、眠らないことが必須である。サブリーダーの「しんがり」としての気配りは極めて重要である。そして、天候、地形などの環境変化を細心の注意と直感によって判断できる能力を持つリーダーの責任は更に重要である。財政再建には経済成長を期待する政治家が、実業家が多い。人材の枯渇では?  安倍内閣は、黒田日銀は大丈夫だろうか。日本経済に、世界経済にブレーキは付いているのだろうか。経済にフェイルセーフ機能は付いていないことは歴史が示している。

2-2)行く先は何処、どんなところ

{右肩下がりの下山の先は?}(No.298,7,2012)  「となりのトトロ」で宮崎駿の描いたサツキとメイの家のような暮らしか。それとも、もう少し昔の宮沢賢治が理想郷とした里山の「イーハトーブ」だろうか。もっと昔に戻り、武士も町民も風流を愛でた江戸時代の心の豊かさの中なのだろうか。何れにしても、凄まじい速さで大量のエネルギーを消費することは、エントロピー増大を加速するだけである。地球温暖化はその一つの現れである。皆で幸せとは何かを考えよう。⑦
 
{人口密度、50人/km2}(No.238,7,2007)  膨張は何時までも続かないことを示すイースター島の歴史。太平洋の孤島、モアイ像倒し戦争の島。最盛期の人口は1万人超えと想像されている。⑧ 

{切り詰めて生きる}(No.201,6,2004)   植物(樹木)の寿命は1000年程、動物の寿命は100年程と一桁も異なるのは何故。「動けない」ではなく、「動かない」戦略。無駄を省く生き方。⑨
{八重咲き}(No.251,8,2008)     メンデル以前に劣性遺伝の法則を熟知していた江戸時代の人々。町民も商人も武士も身分・階級を問わず盆栽の小宇宙を愛でた。⑩

{この暑さは地球温暖化の影響?}(No.241,10,2007)     「人類が最も優れた生き物、万物の霊長である。」と同じように、「昔の生活は悲惨であり、現代の生活がより豊かである。」は間違った認識である。と宮沢賢治は断言しているように思える。イーハトーブは岩手のことである。⑪

{『エントロピー』では読んで貰えないか?}(No.248,5,2008)    「いろはにほへと ちりぬるを」のように元には戻れない世界に住んでいることを理解しなければならない。⑫

{サツキとメイの家} (No.215,8,2005)   蚊帳の中から「今、庭をトトロが通ったよ」と言うメイ、そんなもの居るわけないよとは云わないサツキとお父さん。戦後の子供時代を思い出す生活空間が広がっている。東京郊外、所沢市付近と想定されるが、今でもトトロは暮らしているだろうか。⑬

{キューバを見たい}(No.211,4,2005)   「グローバリゼーションは持続可能だろうか。」のカストロの演説。将来の人類社会の在り方、地球を愛しむ生き方を示唆しているように思える。⑭

{人間社会もメタボでなければ}(No.302,11,212)     「メタボリズム」とは同化作用と異化作用のバランスが保たれている代謝作用のことである。生命だけではなく、社会も都市も地域も、あらゆるシステムはみな同じである。⑮

{産業振興計画}    橋本県政の始まった20年前から、県勢浮揚策を進めてきたが、低下傾向を最小に留める効果は認められる。そして、尾崎県政になり、「本県経済に重くのしかかる『積年の課題』」お解決に向けて、平成20年度に策定された産業振興計画の基本は県外市場に打って出る「地産外商」である。さらに今年度に追加されたのは「移住促進により、活力を高める」である。

2-3) 生き甲斐とは、幸せとは

{生き甲斐と幸せ}
  成長戦略を基本に置くことはナンセンスであることは既に述べた。地域も、企業も、国家も、人類社会も。過疎化・少子化・高齢化社会に対して、少子化時代の若者・子供達を元気に。情報化時代を皆が楽しめる仕組みに。ふれ合う機会の創出。好奇心を失わず、感性を豊かにする教育に。人の、地域の、人類の、地球の役に立つ工夫と努力が稔る社会に。このようなことを皆で考えよう。専門家に任せるのは止めよう。
  日本近海に高い可能性を持つメタンハイドレートは次の登山を計画するためのものではない。含み資産の地熱エネルギーの使い道も同じである。有用な海底資源も同じである。儲けたと思い込んで一気に使うべきものではない。軟着陸のために与えられた資源として感謝しながら、ゆっくりと使うべきである。切り札は無闇に使うものではない。                    

{安全保障} 国産のエネルギー資源、鉱物資源があることは極めて有利である。安全保障上だけではなく、外交交渉の切り札として有効である。
  国の行う壮大なプロジェクトに対して、高知県の民・産・官を挙げての受け皿は整った。この動きを隣接する沿岸地域だけではなく、県内全域にも伝え、あらゆる分野の県内企業の協力も得て、広く連携を図って行くことになる。

{風が吹けば桶屋が儲かる}    発想の転換が必要である。他の都道府県が絶対に行わない取って置き方法でユニークな高知にする思い切った一つの提案をしてみる。(No.310,7,2013投稿予定)


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 高知に関わって20年、「日本にない大学」を創ることから「高知を元気にする」ことまでが頭に住み着いている。大学院の「起業家養成コース」を理解して貰うのは大変であった。「工科系の大学に何故文系のコースが必要か」の問いに答える必要があった。専門領域で就職する従来型に加えて、ベンチャー気風の醸成が必要である。経営感覚のある技術者、技術を熟知した経営者の必要性を力説した。学長に代わり、門真市を何度も訪れた。副社長の水野博之さんに起業家コースの学科長就任をお願いするためである。
 情報系学科に3Dのスタジオを所属させたが、演劇や造形の学科に発展させる思いが込められていた。大量生産ではない、デザイン性の高い商品は、成熟した漫画文化を持つ高知に相応しいと感じていた。京都精華大学のマンガ学科の牧野圭一さんに相談していた。
 高知県の県別統計は極端で面白い。日銀の元高知支店長衛藤公洋氏によれば、高知県の農業の生産性が全国一、地場の中小企業の中核を成す個人企業収益の占める割合が全国一と指摘している。換言すれば、農業も企業も高知県では零細であり、ささやかに商いをしている様子が分かる。ユニークな技術を持つ建設業が多いことも特筆に値する。災害復旧時には上流側からも修復できる強みを発揮できる。仕事を皆で分け合う工夫が必要である。
 ここで「風が吹けば桶屋が儲かる」に倣って、高知に関わる因果関係を無理矢理に作り出して見る。そして、「困ったことだ」ではなく、その対応を考えて見よう。
 「能ある男は県外に出て戻らない 残った男は能が悪く 鰹のたたきを肴に酒ばかり議論ばかり 有能な女は県外に出る機会が少なく地元に残る 結婚しても出産しても退職しない  女の収入は高くなる  朝食は喫茶店で 身嗜みが大切で美容院へ ストレス解消でパチンコ屋通いも 共働きが多ければ家族団欒も減少する 教育環境が悪くなり学力・体力が低下し非行も多い 子宝に恵まれれば 呑兵衛の旦那とは離婚する  豊かな自然は企業誘致の切り札とはならず 地場産業も立ち上がらない 県内の求人数も増えない 高知工科大は県外流出を4年間猶予しただけ 今では女も県外に出る 同時進行で少子化・高齢化・晩婚化で急速な人口減 過疎化は市内の商店街をも限界集落に導いている」
  これらの統計結果を連鎖と見なして、一ヶ所を断ち切ることを考えて見る。公費を直接に投入する従来型の各種の活性化支援とは全く異なる発想である。「夫に妻と同等の産休・育休を義務づけ、出産にも立ち会うことを必然とする。」の条件である。利点とともに派生する不具合とそれらの対応策を考え、システムを造る思考実験を皆で進めるのである。
 日常的に複数の担当者によるタイム・シェアリングが行われていなければならない。これで「係が休暇中ですので」の言い訳もなくなる。家庭団欒の機会が増えることは、老若男女を問わず、人生観を大きく変えることになる。イケメンがイクメン(育メン)に変身し、ダンチュウ(男厨)がジョチュウに近づいてくるだろう。ハチキン度はそのままに変わらず、イゴッソウ度は低下すると思われる。「男女共同参画」を冠した部署の役割は変化するだろう。県民性の様がわりを予想することも面白い。県の産業振興計画に掲げられている「移住」に大きく寄与する可能性も高い。まずは、ワークショップや討論会を行うことである。不具合・不都合を予測しながら、個々に潰していく作業が意識改革を促すことになる。
 
{めだか}(No.177,6(1002)  落語の中に見る昔の高知。⑯

 

6月11日、鈴木朝夫理事長の土佐技術交流プラザ通常総会特別講演(第1部)

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鈴木朝夫の「ぷらっとウオーク」 ・・・名作の旅、鬼平犯科帳、羅生門、破獄

2013-06-12 | 「ぷらっとウオーク」 2012年~2015年

名作の旅、鬼平犯科帳、羅生門、破獄

                                                        情報プラットフォーム、No.309、6月号、2013、

 

  暴力対策室の刑事さんに「委員長は池波正太郎の『鬼平犯科帳』を読んだことありますか。」と聞かれた。

この頃、高知県警で捜査費の使い方が大問題となり、 報告を受けるだけといっても良いほどの県公安委員会が、大忙しになっていた。

鬼平犯科帳の文庫本を次々と借りてきた。組織の中で取り込んだ「狗 (いぬ)」や秘かに送り込んだ「密偵」を使って、内偵を進めることは鬼平の必須条件である。

刑事さんは、私に使途を明らかに出来ない捜査費も時に は必要であることを伝えたかったのである。

 取材に来た若い新聞記者から「県監査委員会が出した監査報告に従って、何故、県警は弁済を始めないのか。あれには真実が記載されている。」と質問を受け た。

私は「個人を特定しない条件での面接調査にそれなりの意義は認めるが、弁済となれば警察官各人の納得が必要である。それがなければ今後の士気にも影響する。県警による自前の調査が必要である」と答えた。

さらに「物事に一方的な判断は禁物である。真実や真相とは何か。真実は本当に存在す るのか。芥川龍之介の「藪の中」を読んでから、「羅生門」を見てからでなければ、今後は君と会わないよ。」と言ったことを覚えている。

 先日、企画プロダクションから、吉村昭の「破獄」を採り上げたいので取材協力を頂きたいとの依頼があった。そして、BSフジで放映された「名作を旅してみれば~鬼平犯科帳」の情報が添えられていた。

文学の名作を取りあげるこのシリーズは「旅人が小説の主人公の目で風景を眺め、作家の目線で何かを 感じ、何かを発見する、ちょっと不思議な旅番組である。」と謳っている。

吉村昭の「破獄」は脱獄を繰り返したSさんの実話が元であり、仮釈放にい たる過程で父の鈴木英三郎が大きくが関わっていた。

  正月の2日に子供を連れて実家へ行くのが常だった。今から50年ほど前である。Sさんも1年間の無事を伝えに毎年来ていた。

時間を掛けた巧みな心理操作、北海道での2年間の逃亡中の越冬生活などを、炬燵に当たりながら質問を重ね、録音をさせて頂いた。なお、本誌のNo.202、7(2004) 破獄には、破獄を読んだ娘の視点を記してある。

 対談をして下さる赤川蓮さんとの本番前の雑談の中で、「鬼平」に続く企画は芥川龍之介の「羅生門」と知り、関連の深さに驚いた。これは芥川がどのような意図で創作したか議論が多い作品である。

各人の主観的な言い分だけで構成し、真の真相を読者に託したとも考えられる。一方で、多様な読みがあり、 真相は藪の中であることを示したとも言える。

 三つの名作、「羅生門」、「鬼平犯科帳」そして「破獄」が、同じ企画の中で順次採り上げられ、我が家の居間で話題になったことに不思議な因縁を感じる。

これらに共通する点はその時代背景である。長引く応仁の乱、飢饉や天変地異が続く平安時代末期が「羅生門」である。田沼意次が失脚し、松平定信に よる寛政の改革が始まり、長谷川平蔵が火付盗賊改の長官となったときが「鬼平犯科帳」である。浅間山大噴火、大飢饉、打ち壊しが頻発し、世情が不 穏になっていた。

  「破獄」は、脱獄を4回も繰り返すSさんの衰えることを知らない闘争心もさることながら、戦時統制の時代、そして戦後の疲弊した混乱の時代の 産物かも知れない。

父はSさんの係累が全て亡くなられたことを確かめた時点で吉村氏にテープをお貸ししている。この中で「破獄」だけは、ノンフィ クションであり、吉村昭によるドキュメンタリーである。

なお、4月24日(水)にBSフジで放映された。 

 

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鈴木朝夫 s-tomoo@diary.ocn.ne.jp

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