鈴木朝夫の「ぷらっとウオーク」

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鈴木朝夫の「ぷらっとウオーク」・・・法的安定性の知るところを記せ

2015-12-15 | 「ぷらっとウオーク」 2012年~2015年

法的安定性の知るところを記せ        

                                     情報プラットフォーム、No.339、12月号、2015、掲載

 朝日新聞(電子版)が7月27日に報じた記事によれば、磯崎陽輔総理大臣補佐官が大分市内の講演で、安保法案や安全保障環境をめぐって「考えないといけ ないのは、我が国を守るために必要な措置かどうかで、法的安定性は関係ない」、そして「必要最小限度の自衛権行使のみを認めるという憲法解釈は変 えていない」と語ったとしている。法治国家の下では、当然のこととして、深く考えることのない概念だった。夏休みの宿題の積もりで、様々に調べた 結果のレポートである。皆様方の厳しい採点をお願いしたい。

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 タイトル:法的安定性と具体的妥当性        

 提出者氏名:鈴木朝夫  

 記入欄:法律や規則は、社会の、国民の合意の下で皆で創り上げたものであり、文章(条文)で書かれている。また、法律や規則は可能な限り例外を産み出さないように作られている。しかし人間社会は複雑であり、地域・住民・伝統・信仰が異なり、また時の流れと共に社会も変化していく。さらに 言語での表現では単純に規定できないことも多く、また文章にも、そして単語にも、不安定性と不確定性が残される。だから「例外のない規則はない」 の格言もできるのである。不文律の道徳では更に不確実性が増え、誤用も出てくる。

  将棋や囲碁では、ルールの安定性が問題になることはない。スポーツ競技でも、厳密にルールが定められ、審判員の権限が絶対であり、規則的な安 定性が保たれている。競技場の立地条件などの特異性はその場だけの例外として規定される。

  名判決とされる大岡裁き「三方一両損」には具体的妥当性が見当たらない。大岡越前守はその都度一両の出費となる。落語の世界での話である。浦 島太郎の話を読んだ孫の疑問点は「亀を助けたのに,何故お爺さんにされたの?」である。乙姫様と時間を忘れて遊び過ぎたことが道徳に反すると説明 しても、4歳の子供には妥当性が見付けられない。

  刑事ドラマ型のストーリーでは、事実を明らかにしようとする捜査の主人公と世の中の混乱を最小限に留めたいとする権威主義側、あるいは利権を 死守しようとする既得権益側の脇役陣に分かれるていることが普通である。そして紆余曲折の後に、正義を実現しようとする主役側の勝ちで終わるので ある。

  時代と共に変化する例は「盗電」であり、「電気は財物と見なす」としてに窃盗罪が適用された。「情報窃盗」は技術の進歩によって具体的妥当性 が計られた直近の例である。

 法的安定性というのは秩序の維持のために必須であり、正義と公平を旨とする正当性と納得のいく結論を意味する目的合理性という具体的な妥当性が重要である。ある文献によれば「法的安定性の要請と具体的妥当性の必然とのどちらを重視すべきかは、法の領域によっても異なり、行政法の領域では一般的に は前者が強調され、民法などでは一般的に後者が強調される」とある。

  法学部出身の父から「憲法のような基本法で予め決められているのがドイツ法、判例により築き上げていくのが英米法」と何度も聞かされていた。 そして「日本ではその両者の併用である」と言っていたのを思い出す。六法全書に加えて、沢山の判例集の収まっている書斎の書棚を見ながら、必要な 事例を探し出すことは大変な仕事だと思った。いずれにしても、約束事の規範性を失い、空洞化してしまうことがないように見守る必要がある。

 杓子定規でもなく、朝令暮改でもなく、人情的に過ぎず、俯瞰的立場で、一般的確実性(法的安定性)と具体的妥当性の調和の取れた社会が望ましいのである。刑罰は「目には目を」の応報刑が基本にあるが、更正・社会復帰を目指す「教育刑」が重要である。

 

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