高知県メタンハイドレート開発研究会

土佐湾沖の海底にあるメタンハイドレートを掘り出す国家プロジェクトを、高知県に誘致する開発研究会を立ち上げました

6月11日、鈴木朝夫理事長の土佐技術交流プラザ通常総会特別講演(第1部)

2013-06-18 | 講演などの資料

6月11日、鈴木朝夫理事長の土佐技術交流プラザ通常総会特別講演(第1部)

(平成25年度、土佐技術交流プラザ通常総会特別講演、(2013/6/11)、於:高知サンライズホテル)

メタンハイドレートの可能性とは

                                     鈴木 朝夫(高知工科大学・東京工業大学名誉教授)

4月26日(金)に資源エネルギー庁から出された「海洋基本計画」が閣議決定された。これによると「平成30年代後半(2023~28年)に民間が主導する商業化プロジェクトが開始されるよう、国際情勢をにらみつつ技術開発を進める。」となっている。
   5月18日(土)のNHK週間ニュース深読み「注目の海洋エネルギー」を見た人も多いと思う。  地球深部探査船「ちきゅう」が愛知・三重沖での試験掘削に大成功した後、佐渡沖に移動して  いると報じていた。浮体式洋上風力発電の可能性にも触れていた。
    第1部では、メタンハイドレートを中心に各種エネルギーの世界的な事情を述べ、宝の海の話  を進める。第2部では省エネや新エネでは済まされない地球の未来の姿を思い描きながら、子  供・孫達のためには何を成すべきか、過疎化が進む高知だからの可能性を探ることにしたい。

第1部 メタンハイドレート、地熱エネルギー、再生可能エネルギー
1-1)エネルギー資源の種類は

{エネルギー資源は大きく2種類}
 1) 蓄積エネルギー・枯渇性エネルギー(貯蓄・資産として相続した資金):石炭、石油、天然ガ   ス、メタンハイドレート、シェールオイル(ガス)などの化石燃料、(核エネルギー)、(地熱    エネルギー)・・・・・・・・・遊んで食えば山も尽きる、いつまでもあると思うな親と金。
 2) 再生可能エネルギー・自然エネルギー(給与や売上で獲得した所得):バイオマス、水力(小      水力)、風力、波力、潮汐力、海流、温度差、太陽光、太陽熱・・・稼ぎに追いつく貧乏なし。 3)  その他として エネルギー貯蔵(当座預金・運転資金)・・・・・・・備えあれば憂いなし。

{蓄積エネルギー資源の掘削法} 固体の石炭:固体を掘り出す。液体の石油:液体が湧き出る、液体を汲み出す。気体の天然ガス:気体が噴き出す、気体を吸い出す。固体のメタンハイドレート:固体を気体(メタン)と液体(水分子)に分離し、気体として地上に取り出す。石炭、石油、天然ガスの従来のエネルギー資源との大きな違いがここにある。

{ハイドレートの結晶構造は石鹸の泡}  包接化合物(クラスレート)の一種である。メタンハイドレートでは、水分子が水素結合で作る立体網目のカゴ毎に、メタン分子が収まっている。立体網目は、水分子が作る正五角形の面から成る正12面体(Sカゴ)が2個、正五角形12面と正六角形2面の計14面から成る14面体(Mカゴ)が6個の割合で形成されている。カゴの各面は両側の2つのカゴとの共有であり、従ってMカゴの正六角形は、接続している隣のMカゴの正六角形と共通になる。Mカゴは一線に連続していることになる。また各辺は3つのカゴの共有であり、頂点は4つのカゴの共有である。この立体構造は石鹸水の泡と良く似ている。①

{ハイドレートの結晶構造は立方体}  立方体単位胞の8つの頂点には正12面体のSカゴが位置するので、単位胞あたり1個に相当する。向きを変えた中心の1個と合わせてSカゴは2個である。14面体のMカゴは一直線に並ぶが、横に(X)、縦(Y)に、奥(Z)にと3方向に向いている。立方体の面には2個づつ配置されて計12個になるが、隣の面と共有するので、単位胞の所属は6個になる。これらのカゴの全てにメタン分子が入ればその数は合計で8個である。メタン分子1個は5.75個の水分子で囲まれている勘定になる。なお、MカゴにNbを、SカゴをSnにと置き換えれば、それは超伝導金属間化合物のNb3Snの結晶構造のA15構造になる。①

{メタンハイドレートの相安定性}  安定領域の温度・圧力の境界は、+10℃で76気圧、+4℃で50気圧、0℃で26気圧、-30℃で10気圧、-80℃で1気圧などである。言い換えれば、温度が低下すれば圧力は小さくても安定であり、圧力を高くすれば温度が高くても安定である。②

{自己保存効果}  ハイドレートが安定に存在できない常温・常圧であっても、メタンを放出して残された水は氷結して表面を覆う。これは、メタンと水に分離する反応が吸熱であることによる。この氷が保護被膜の作用をして反応を遅らせ、常温でも比較的安定である。しかし、このことがメタン採掘に際して抗井を氷結閉塞させる可能性を孕んでいる。
                            
{固体・液体・気体}  一般に、物質に圧力を加えれば、体積は小さくなる。そして、気体は固体
に変化(相転移)し、体積を減少させていく。物質の温度を下げれば、体積は縮小する。気体は液体に、液体は固体に相転移し、その時は発熱を伴なって温度を一定に保とうとするかのように振舞う。自然界では、外界からの変動を、自分自身を変化させて緩和しようとしている。

{エネルギー利得率、EPR}   EPR=(出力エネルギー)/(入力エネルギー)である。採掘・精製・保管・輸送などの生産に必要な入力エネルギーと利用出来る出力エネルギーの比がEPRである。ある文献では、石油火力は7.9、石炭火力が6.5、液化天然ガス火力2,4、風力3.9、地熱6.8、原子力は17.4などとなっているが、計算の根拠が不明である。計算基準を決められないのでは。

{メタンハイドレートからのメタン回収法}   「加熱法(温水圧入)」、「加熱法(抗井加熱)」、「減圧法」、「分解促進剤注入法」、「ゲスト分子置換法」などが考えられてきた。温度を上げれば、体積の増える方向の水とメタンの分離に向かう。圧力を解放すれば、同じく体積の増える方向に向かう。加熱法は、メタンの分離が吸熱反応だから、際限なく加熱し続ける必要が出てくる。

{減圧法によるメタン回収} 日本のMH21開発計画では減圧法が採用されている。ハイドレート堆積層に水平抗を堀り、発生する水を汲み上げて圧力を低下させ、これにより発生するメタンを吸い上げる。この分解は吸熱反応であり、周囲の温度を低下させる方向に動く。しかし堆積層の周囲の地熱により溶解が進み、圧力低下を持続させる。問題は減圧効果の範囲と持続時間にある。生産性障害になるのは、氷の生成であり、自己保存性が裏目になる。温水圧入や抗井加熱などの加熱法との併用の試みもある。出砂も問題であり、海底や地上に堆積粒子汚泥を取り出すことになる。

{活力は土佐沖の海底より出づ}(No.280、1(2011))      加熱法の一形態の「その場局所加熱法」と名付けられる県内企業が提案した面白いアイデアをメタンハイドレートのユニークな掘削法である。豊臣秀吉が戦略とした現地調達法そのままと言っても良い。③

 

1-2)日本は昔からの資源大国(黄金の国ジパング)

{金銀鉱石の産出}   江戸時代には金は佐渡金山、銀は石見銀山が有名だった。現在、鹿児島県の菱刈鉱山の金の推定埋蔵量は250t、金鉱石は250g/tと高品位である。普通は数g/tである。

{平成24年の漢字は「金」}(No.305、2(2013))  「黄金の国ジパング」を取り上げている。日本の金に関連した話、高知の金の話を知っていますか。④

{塩の道は丹生(韮生)の道では?}(No.279、12(2010))    水銀を産出した土佐を取り上げている。塩は帰り荷だったのでは。行き荷は水銀、樟脳。絵金は赤岡での「岩絵の具」に惚れたのか。⑤
{生命と文明の源、水と鉄に例外の性質}(No.242,11,(2007)) 液体(水)よりも固体(氷)の方が軽いのは異例である。低温相のbcc鉄よりも高温相のfcc鉄の方が密度が高いのも異例である。⑥

{海底鉱物資源}  200カイリ経済水域内で採れる鉱物資源は多い。リチウムを含む泥火山を始めとして、熱水鉱床、マンガン団塊、コバルトリッチ・クラストなど鉱物資源は様々である。

{リチウム電池}  リチウム(Li)は最も軽い金属である。日本は有数のリチウム産出国になる可能性を秘めている。エネルギー蓄積の役割を演じる金属リチウムを資源として持てることは国際能性を秘めている。エネルギー蓄積の役割を演じる金属リチウムを資源として持てることは国際戦略上で極めて有利である。二次電池に必要なコバルト資源も直ぐそこの海底に眠っている。

{地熱発電}  日本列島は火山の島、温泉の国、地熱は固有の熱資源であり、自然エネルギーである。地熱発電は天候に左右されないので、稼働率は極めて高く、何れの再生可能エネルギーとも比較にならない。しかし、地熱資源の多くは国立公園内にあり、導入促進には法的措置や規制緩和が不可欠である。また、地域や温泉事業者との調整が重要である。高温岩体発電、バイナリー発電など方式は様々である。

{エネルギー貯蔵(ストレージ)} 多数の発電電源間の系統安定性の確保。ダム貯水(揚水発電)、燃料電池(水素エネルギー)、二次電池(水素電池、リチウム電池)、超電導、フライホイールなど。

{電気自動車}  夜間電力での蓄熱は現在多くの家庭で実用化されている。同じように、自家用自動車が動ける蓄電装置として夜間に使われる。再生可能エネルギー発電とともに、スマートハウスの重要な構成要素となる。

{地球温暖化への影響}   CO2の20倍もの温室効果があり、5500万年前の生物の大量絶滅の原因とも言われているメタンである。これは46億年にわたる地球のダイナミックな営みの中での物語である。議論になるのは、掘り出して燃焼させることと、自然放出との比較になる。メタンはCO2の排出量の差から、代替エネルギー源として期待できる。

 

1-3)スマートグリッドとビッグデータ

{スマートグリッドとは}  他種類のエネルギーの供給側とニーズの多様性を示す需要側の相互連携を高度に知能化した情報通信技術で制御する送配電網である。従来の大型発電所からだけの電力供給を行う発送電網ではない。家庭やオフィスや事業所などの小口電力を消費する需要側にも、多様な発電機能を備え、地域で必要な電力を消費地で生産するような、地産地消の仕組みを備えていることも特徴である。

{インターネット・プロトコール、IPv4とIPv6}  アドレスは幾つあればよいか。現在のIPv4は 2の32乗(=約42億)個である。地球上の人口よりも少ない。IPv6では 2の128乗(= 約340澗)個である。340澗個とは340兆の1兆倍の1兆倍のアドレスになる。IPv4を石油缶の体積とすれば、IPv6は太陽を越える大きさになる。

{ビッグデータ} FacebookやGoogleに代表されるような巨大な情報を取り扱える時代に入っている。初音ミクやコンプリートガチャの巨大さを想像して欲しい。複雑な巨大システムの制御が可能な時代である。欠陥を皆無にすることはできない。低確率巨大事故の候補の1つである。

{ベキ分布と巨大事故}   ベキ分布の具体例を示せば、乾燥したビスケットを床に落としたとき、壊れた破片の大きさの分布である。小さな破片(粉)は無数、非常に大きな欠片(かけら)も混ざっています。巨大地震や巨大事故は確率は低くても必ず発生することを示している。「アクシデント、事故と文明」はポール・ヴォリオの著書で、ここで彼は「文明は事故を発明する」と述べている。

 

1-4)日本の、土佐の、メタンハイドレート開発に向けての現状


{メタンハイドレートの開発研究}  日本のメタンハイドレートの調査研究は2001年に始まっている。資源エネルギー庁から業務委託を受けて、(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構、(独)産業技術総合研究所、(財)エンジニアリング振興協会の3者が「メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアム(MH21研究コンソーシアム)を組織し、「フェーズ1」の活動に入った。

{MH21フェーズ1}    日本周辺海域の賦存状況や賦存量調査を目的として、東海沖から熊野灘に掛けての東部南海トラフ海域で物理探査や試錐を行った。また、カナダの凍土で陸上産出試験を行った。ここでは基本的に減圧法を採用している。2001~2008年。

{MH21フェーズ2}   研究開発の第2段階に相当する2010年からは海洋産出試験の実施に向けた事前調査や設備検討などの準備段階に入る。2012年後半から東部南海トラフ上の渥美半島沖で1000mの海底から300m掘削し、メタン採取を行う予定である。また、東部南海トラフ以外の海域の調査、長期生産性や生産障害の解決、経済的・効率的な産出技術の確立が目標となっている(2009~2015)。商業的産出が目的の「フェーズ3」に移行する予定である。(2016~2018)。

{地の利、高知}   滑走路2500mの高知龍馬空港・拡張の余地を残す高知新港(FAZ)・これらを結ぶ高速高知道、そして香南市・香美市・南国市・高知市・いの町が位置する香長平野は広い。これらは生産設備・試験設備・備蓄基地などの各種施設の立地条件を充分に満足するものである。今は、海洋研究開発機構所属の地球深部探査船「ちきゅう」の寄港が出来ることが素晴らしいことである。正に「活力は土佐沖の海底より出づ」である。

{海の利、土佐}   土佐湾沖の南海トラフのメタンハイドレートとそれに伴うリチウムの回収だけではなく、200海里の排他的経済水域内には各種の有望な海底鉱物資源の存在する可能性が高い。Ni、Co、Ptなどを含むコバルトリッチ・クラスト、Ni、Cu、Mnなどを含むマンガン団塊、そしてAu、Ag、Zn、Pb、Cuなどを含む熱水性鉱床である。

{人の利、龍馬}  高知には知の利がある。海洋研究開発機構(高知コア研究所)、高知大学、高知工科大学、県立高知大学、高知県産業技術委員会他がある。県内企業からの掘削に関する特許が認可された。付随した関連特許が山のように出てくるであろう。様々な関連するベンチャー企業も生まれてくるだろう。第二の龍馬たちに、第二の弥太郎たちに期待したい。

{NPO21世紀構想委員会とは}   真の科学技術創造立国を確立するため、研究テーマを掲げて討論する場として1997年にスタートした。会員はベンチャー企業、行政官庁、大学、マスコミの4極から参加している。会員数は約100人である。理事長は馬場錬成氏(東京理科大学大学院 知財財産戦略専攻 教授、元読売新聞論説委員)である。


{メタンハイドレート実用化研究委員会}  NPO21世紀構想委員会に所属する会員の特許出願の支援を行ってきた渡邉望捻氏(イオン特許事務所弁理士)らの要請により、すなわち国家プロジェクトとして取り上げるべきとの観点から、表記の委員会を設置した。2010年7月27日に馬場錬成氏を先頭に、平朝彦氏((独)海洋研究開発機構 理事、現理事長、元高知大学教授)に委員長就任をお願いした。
 2010年12月6日には、第2回のメタンハイドレート実用化研究委員会が開かれた。この委員会をべースにして、「メタンハイドレート国際戦略部会(仮称)」、「メタンハイドレート技術専門委員会(仮称)」を、そして高知県ベースで「高知県メタンハイドレート開発研究会」を設置することが決まった。仕事の手始めは内閣府へ「国際戦略総合特区」の申請書、「メタンハイドレート実用化研究から資源大国へ」を提出することであった。この申請は内閣府の制度に馴染まなかったが、考え方は引き継がれ、推進していくことが了承された。
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{高知県メタンハイドレート開発研究会}  2011/7/18(海の日)に、平朝彦氏、臼井朗氏(高知大学教授)、木川栄一氏をお招きして記念講演会を開催し、高知県での研究会を発足させる運びになった。
 2012/2/16には、木川栄一氏(海洋研究開発機構・高知コア研究所所長から海底資源研究プロジェクトのリーダーに栄転)に海洋資源の講演を頂いた。
 2012/7/7には、設立一周年を記念して、木下正高氏(海洋研究開発機構・高知コア研究所所長)から活動の現況を、また門馬義雄氏(高知工科大学名誉教授)より「環境とエネルギーから見た50年後の地球」と題する講演を頂いた。
 昨年(2012/10/31)にグランキューブ大阪で開催された「計測展2012 OSAKA、計測と制御で創る未来の地球」で鈴木が招待講演を行った。タイトルは「新エネルギー資源の使い方~メタンハイドレート、地熱発電、そしてストレージ」である。
 昨年の末には、洲本商工会議所から十数名の視察を受け入れた。海洋開発機構・高知コア研究所の視察を中心にして、高知県の海洋開発に関連する意気込みの説明を行った。
 2013/3/9にはミニ講演会とし、「海底資源をめぐる最新情報(JAMSTECの海底資源研究)」題する木川栄一氏のお話を頂いた。    
  5月26日(日)のKUTVの「夢の扉+NEXT DOOR」で、{世界初成功!次世代エネルギー「メタンハイドレート」海洋産出!、 ~日本をエネルギー自給国に!、海面下1300m、男たちの12年の闘い~}の放映があった。ご覧の方も多いと思う。

{講演会のご案内(高知県メタンハイドレート開発研究会主催)}
  来る7月25日(木)、高知会館において、午後2:00~4:00に、講演会を開く予定である。
 講演1は(仮題)「メタンハイドレート開発の状況と今後の見通し」と題し、経済産業省・資源エネルギー庁・燃料部石油・天然ガス課課長補佐 上条剛氏に、
 講演2は(仮題)「高知市新エネルギービジョン」と土佐湾沖のメタンハイドレート」と題し、高知市副市長 中嶋重光氏にお願いしている。
 今回の画期的な講演会を契機に、県下のできるだけ多くの市町村の行政や議会事務局に、講演会などの情報提供をできるよう連絡網の確保を検討している。

{投資詐欺}     各種の新エネルギー・新資源に関する美味しそうな話が増えてくる。要注意!!

 

6月11日、鈴木朝夫理事長の土佐技術交流プラザ通常総会特別講演(第2部)

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