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クラスター・オスロ・プロセスと日本=澤田克己

2008年06月17日 | スクラップ

 不発弾による民間人被害が絶えないクラスター爆弾。その禁止条約を5月末に採択した軍縮交渉「オスロ・プロセス」を、昨年2月のスタート時点から取材してきた。私はその間、「軍縮は日本外交にとって重要だ」という「建前」と、「クラスター爆弾を捨てたくない」という「本音」に揺れ、適切な対応を打ち出せない日本政府の姿勢に憤りを感じてきた。こんな外交姿勢では、国際社会での日本の存在感はますます薄れていくだろう。

 条約を採択したダブリン会議最終日。「採択に賛同する」という福田康夫首相の政治決断に、会議場に驚きが広がった。「ファンタスティック(素晴らしい)」。日本の条約参加の一報に、議長を務めたアイルランドのオキャリ大使はそう話した。だがその言葉には、「想像できなかった」という含みがあった。

 日本はそれまで非公式に「中国とロシア、北朝鮮に囲まれる(日本の)特殊な安全保障環境」を力説し、保有の必要性を訴えてきたからだ。日本保有のクラスター爆弾には、不発率が高く民間人の被害が多い「旧型」と、不発率を低めた「改良型」がある。採択当日に石破茂防衛相が「今あるクラスターも遊びや冗談で持っているわけじゃない」と言い放ったのは、本当は「旧型」の保有すら続けたいという本音を露呈したものだろう。

 一連の会議での日本の姿勢はあいまいさを極めた。プロセス最初のオスロ会議(昨年2月)では、参加49カ国中46カ国が「08年中に禁止条約を作る」というオスロ宣言に署名したが、日本は態度を留保し、署名しなかった。2回目のリマ会議(昨年5月)では、日本は直前になり出席を決定。だがそこでも態度を鮮明にせず「今後も会議に参加していく」としただけだった。

 「日本はなぜ宣言支持を打ち出せないのか」。当時、ある非政府組織(NGO)のメンバーはあきれた表情で私に語った。これ以降、オスロ宣言への日本の態度を私に尋ねる会議関係者はいなくなった。

 その後、欧州のある外交官は私に「交渉では、日本は影響力を全く持っていない」と発言し日本を突き放した。一方、別の外交官は、「廃棄が嫌なら(日本は)参加しなければいい」と何回も話した。どちらの言葉にも返す言葉がなかった。

 なぜ日本はオスロ・プロセスに参加したのか。参加国の多くは、「旧型」や「改良型」などの種類にかかわらずすべてを禁止すべきだ、とする全面禁止派である一方、部分禁止派の欧州主要国も当初から「旧型は即時廃棄すべきだ」と主張していた。規制に消極的な米中露や韓国は参加自体を見送った。「旧型」も守りたい日本が参加すれば孤立するのは、最初から明白だった。

 プロセスも半ばにさしかかったころ、外務省の担当者に疑問をぶつけると、こんな答えが返ってきた。

 「軍縮交渉に参加しないなどと言ったら、東京で強い批判が出る」

 この発言の背景に、「軍縮は日本外交の柱」という「建前」があるのは間違いない。また、別の担当者は、オスロ会議の前に、この会議に参加する理由として「単なる情報収集(が目的)だ」とすら話していた。どちらにしても、真剣な交渉姿勢とは縁遠い言葉だった。

 日本のクラスター爆弾必要論の根拠は、敵が海岸線に押し寄せてくる「着上陸侵攻」という冷戦時代のシナリオに沿っている。しかし04年の防衛大綱は、こうした本格的侵略が起こる可能性は低いと判断している。むしろ冷戦終結後の脅威として、北朝鮮の核のような大量破壊兵器の拡散と、国際的なテロ組織の活動を指摘する。大綱を見れば、時代の変化を日本も理解していることが分かる。

 それにもかかわらず、首相の政治決断が下されるまで日本は、冷戦時代の兵器であるクラスター爆弾を守ろうときゅうきゅうとしていた。その姿は、時代の変化に実際の行動がついていけていないことを示していると思う。オスロ・プロセスは、NGOも大きな役割を担うようになった冷戦終結後の「新外交」の場だった。だが日本は、職業外交官だけを相手にすればよかった旧来型の外交スタイルから抜け出していないように見えた。

 グローバル化した現在の国際社会は安全保障、経済などさまざまな面での変化の早さが目立つ。世界は間断なく動いている。意思決定の遅れは、致命的なマイナスとなる。変化から取り残されないためにも、「建前」や「慣例」といった内向きの論理に閉じこもるのは、もうやめるべきだ。





毎日新聞 2008年6月17日 0時20分

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