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驚きの特殊能力、「社会的距離」をとって感染を防ぐ動物たち~自ら“死のフェロモン”を発するミツバチも、だが人間も負けていない

2020年03月30日 | スクラップ

 

 

 

チンパンジーは病気をもっていることが明らかな仲間を攻撃し、群れから追放する。

(PHOTOGRAPH BY MICHAEL NICHOLS, NAT GEO IMAGE COLLECTION)

 

 

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が深刻になるなか、多くの人々が他者との接触を避けたり、自宅にとどまったりすることを余儀なくされている。米国でも、感染の拡大を減速させるため、人と人とが「社会的距離」をとるようにという指針が発表されている。

 

 しかし、感染症が当たり前の自然界では、「社会的距離」をとる戦略はとりたてて新しい概念ではない。事実、いくつかの社会的な種は、病原体に感染した仲間をコミュニティーから追放する。(参考記事:「新型コロナ、ことごとくパニックに陥る理由と対策」)

 

 それは決して簡単なことではない、と自然保護団体ザ・ネイチャー・コンサーバンシーの首席研究員ジョセフ・キーセッカー氏は言う。感染症にかかった個体は必ずしも「見てわかりやすい」わけではないからだ。

 

 しかし、動物たちのなかには、特殊な感覚によって特定の病気を発見し、病気にならないように行動を変えるものがいる。しかも、明らかな症状が現れる前に気付ける場合すらある。

 

 例えば、ミツバチは病気の個体を容赦なく追い払う。(参考記事:「ミツバチの病気、マルハナバチにも蔓延」)

 

 ミツバチの場合、アメリカ腐蛆病(ふそびょう)のような細菌性疾患は特に破壊的で、コロニーの幼虫が感染すると体内から液化してしまう。「アメリカ腐蛆病はその名の通り、幼虫が腐る病気です。死亡した幼虫は茶色く糸を引き、ひどい悪臭を放ちます」と、米ノースカロライナ州立大学昆虫学植物病理学部の博士研究員アリソン・マカフィー氏は説明する。

 

 氏の研究によれば、感染した幼虫は、オレイン酸、ベータオシメンといった“死のフェロモン”を放出するという。成虫たちはそのにおいに気付くと、文字通り、病気の個体を巣から放り出すとマカフィー氏は話す。

 

 この進化的適応によって、コロニーの健康が守られているため、養蜂家や研究者は数十年にわたり、この行動が受け継がれるよう品種改良を行ってきた。現在の米国を飛び回っているのは、品種改良された「衛生的」なミツバチだ。(参考記事:「ケニアのミツバチ、致死病原体に負けず」)

 

 

 

■ポリオにかかったチンパンジーの悲劇

 

 霊長類学者のジェーン・グドール氏は1966年、タンザニアのゴンベ国立公園でチンパンジーを研究していたとき、ポリオ(小児まひ)になったマクレガーという個体を観察した。感染力の強いポリオウイルスによる感染症だ。(参考記事:「ジェーン・グドール チンパンジーを見つめた50年」)

 

 仲間たちはマクレガーを攻撃し、群れから追放した。あるとき、体の一部がまひしたマクレガーが、樹上でグルーミングしている仲間たちに近付いた。マクレガーは社会的接触を求め、あいさつしようと手を伸ばした。しかし、仲間たちは立ち去り、振り返ることすらなかった。

 

 グドール氏は1971年に出版した著書『森の隣人―チンパンジーと私』のなかで、「年老いたチンパンジー(マクレガー)は2分間にわたり、じっと彼らを見つめていました」と振り返っている。

 

 1985年、氏は米国のサン・センチネル紙の取材に対し、「このような悲劇に対する反応は、現代の人間社会とそれほど変わりません」と述べた。

 

 グドール氏は研究の過程で、ポリオに感染し追放されたチンパンジーの事例をほかにも記録している。ただし、感染した個体が再び群れに迎え入れられたケースもあると補足している。(参考記事:「ジェーン・グドールの功績を振り返る」)

 

 人間と同様、チンパンジーは視覚に頼る生き物だ。ポリオに感染した個体が汚名を着せられるのは、外見が損なわれることへの恐怖と嫌悪が原因だと示唆する研究もある。恐怖や嫌悪という感情はそれ自体、奇形を催す病気を回避する戦略の一部だ。

 

 

 

フリントは、ジェーンがゴンベに来て最初に生まれた赤ちゃん。チンパンジーの成長過程を知り、

直接触れ合える貴重な存在となった。現在は、野生の個体にさわるのは適切ではないとされている。

HUGO VAN LAWICK, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE

 

 


■アメリカイセエビは感染力が生じる前に避けられる

 

 すべての動物が病気の仲間を攻撃するわけではない。病気をうつされないよう、ただ避けるだけの場合もある。

 

 キーセッカー氏が1990年代後半にウシガエルのオタマジャクシの研究を開始する前、野生の群れにおける病気の拡大を予測するモデルは、感染した個体との接触は偶然によるものだと仮定していた。

 

 つまり、病気に感染する確率はどの個体も同じということだ。

 

「しかし、間違いなく、動物はもっと賢い生き物です」とキーセッカー氏は言う。

 

 キーセッカー氏の実験では、オタマジャクシは致命的なカンジダ菌への感染を見抜けただけでなく、健康な個体は感染した個体を積極的に避けていた。オタマジャクシはミツバチと同様、化学的な信号によって病気の個体を判断する。

 

 社会的な動物であるアメリカイセエビも、病気の仲間を避ける。しかも、まだ病気をうつす段階にない個体まで判別できる。(参考記事:「【動画】巨大イセエビを捕獲、重さ6キロ超」)

 

 アメリカイセエビに感染するある致死性のウイルスが、病気をうつすようになるまでの期間は通常約8週間だ。だが、病気の個体は早ければ感染の4週間後には避けることができる。病気の個体から放出される特定の化学物質を嗅ぎ分けられるようになるためだ。

 

 

 

■寄生虫のいないパートナー求む

 

 多くの種は繁殖の際、健康な相手を選択する。

 

 例えば、ハツカネズミのメスは、パートナーの候補が病気に感染していないかどうかをにおいで判断できる。カナダ、ウェスタンオンタリオ大学の研究チームによれば、オスの尿から寄生虫に感染しているにおいがした場合、メスは別の健康なオスに乗り換える可能性が高いという。(参考記事:「寄生虫もつ仲間を糞のにおいで選別、マンドリル」)

 

 グッピーのオスもお相手から同様の探りを入れられる。グッピーのメスは圧倒的に、寄生虫のいないパートナーを好む。ひれをたたむ、体の色が薄いといった視覚的なヒントと、感染した皮膚から放出される化学物質を手掛かりに、メスは病気のオスを遠ざける。

 

 このように、様々な動物に社会的距離戦略があるわけだが、重要なことが1つある。動物は私たちと異なり、「自宅にとどまれば、感染率が下がる」ことに気付いていないと、キーセッカー氏は説明する。「私たち人にはその能力があります。そこが大きな違いです」 
 

 


文=SYDNEY COMBS/訳=米井香織NATIONAL GEOGRAPHIC  2020.03.27

 

 

 

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