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指導者に対北朝鮮積極外交を望む=西岡省二

2009年06月24日 | スクラップ



 「北朝鮮」と聞いて、我々は核兵器開発の軍拡路線、日本人拉致などの国家犯罪を思い浮かべる。憶測が飛び交う中、国営放送が攻撃的な調子で日本をののしる。人々は「不気味な独裁国家の暴走」に強い不安と嫌悪を抱く。最後は「ならず者国家にカネを払い国交を結んで何が国益か」との結論に傾く。

 原因の大半は、危機感を高めて隣国を揺さぶる北朝鮮側にある。だが我々の側も、憶測に引きずられ、過剰な警戒心を抱いていないか。

 最高指導者・金正日(キム・ジョンイル)総書記の後継者は三男正雲(ジョンウン)氏でほぼ固まったようだ。ただ後継問題も含め北朝鮮の核心に迫る情報は限られ、そこにたどり着くのは容易ではない。

 金総書記の重病説が急浮上した昨年9月、韓国の報道機関が政府高官発言を伝えた。「自力で歯を磨ける健康状態」。この発言をどう受け止めるべきか、随分悩んだ。「総書記は驚異の回復をみせている」「情報は真実で、平壌の韓国側協力者は既に消された」「単なる推測」。専門家が読み解いてみせたが、真相は今もって不明だ。

 北京で北朝鮮取材を担当して4年が過ぎた。中国入りする北朝鮮の政府関係者や経済人らから情報収集する。北朝鮮の官製報道を読み込み、他国の見方と突き合わせる。時に、信頼できる二つの取材源から正反対の情報が出る。

 閉鎖国家・北朝鮮の核心情報は外交活動上の要請で伏せられる。核・ミサイル・拉致・麻薬・偽札絡みの未確認情報が錯綜(さくそう)するが、日本政府は真偽の判断を明かせない。そして憶測が独り歩きする。

 改めて、北朝鮮情勢をどう理解するか考えてみたい。

 北朝鮮にも家族だんらんがある。おやつをめぐる兄弟げんかもある。北東アジアの地図を逆さにして「わが国を左側から圧迫する日本こそ脅威だ」と訴える人もいる。すべてが脅威なのではない。

 異なるのは国の仕組みと価値観なのだ。金総書記に権力が集中し、高級幹部さえ自由に意見を言えない。人々は「総書記への忠誠の証しとなるか」を尺度に行動する。違法行為も、国を守ることを理由に正当化されると聞く。

 つまり、個人の感情は理解できても国の意思が読めない。そこに憶測が入り込み、疑心暗鬼になる。私もそうだ。すべては北朝鮮の実像に迫ることから始まると思う。

 そこで、日本の指導者にお願いしたい。蛮勇をふるって再び平壌に行ってほしい。金総書記に会い、核開発や拉致問題の真意をただしてほしい。総書記の動作や肉声がありのまま伝えられれば、重病説や暴走論の検証もできる。

 その際に日朝平壌宣言を補完する新たな共同宣言を目指すのはどうか。交渉を仕切り直し、日朝間に漂う重苦しくよどんだ空気を入れ替える必要がある。「対話と圧力」でも、圧力先行型の外交一辺倒では展望を見いだせない。

 確かに道のりは険しい。北朝鮮側が途方もない見返りを要求するだろう。多くの政治家は日朝交渉の壮絶な歴史の前に足踏みするだろう。だからこそ、一致団結した世論の後押しが必要だ。国民が「外交で世界に貢献する日本」という理想をはっきり描いて政治を動かし、過酷な水面下の折衝に臨む外交官に力を与えるのだ。拉致問題の解決にとっても不可欠だと思う。

 97年春、拉致被害者家族会の発足前に、横田めぐみさんの父滋さん(76)からこんな言葉を幾度も聞いた。「子を救うのは親の義務で、費用も当然親が負担する」。滋さんは自力で北朝鮮に立ち向かおうとしていた。しかし、この話を伝えたある外務省関係者は「国際情勢が動いてこそ解決に乗り出せる」と言い、思考を止めた。この無責任な論理は今も時々耳にする。

 国際社会の目は非常に厳しい。北朝鮮の核問題を協議する6カ国協議参加国の外交官の多くが口癖のように話す。

 「日本はカネやモノの力で北朝鮮を取り込み、それを影響力に変えるべきだ。米国や中国、韓国に対する発言力も相対的に高められる」

 拉致問題で進展がないのを理由に北朝鮮支援に応じない日本への不満が背景にある。無論、日本の資金力だけをあてにしたご都合主義には賛同できない。だが、隣国をめぐる危機なのに、主体的に動けない日本の現状を憂える声は重く受け止めるべきだ。

 オバマ米政権が北朝鮮に対するテロ支援国家再指定を示唆する一方、北朝鮮は米国人記者2人に労働教化12年の判決を下した。6カ国協議がこう着する中、核・ミサイル実験を続ける北朝鮮の扱いに世界が苦慮している。北朝鮮を遠巻きにして「中国に期待」と繰り返すようでは、国際社会での日本の存在感はどんどん薄れてしまう。今こそ、日本は積極外交に乗り出し、北朝鮮を国際社会に引っ張り出すべきだ。(中国総局)


 

毎日新聞 2009年6月24日 0時01分


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