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社説:少年調書引用 強制捜査まで必要なのか

2007年09月17日 | スクラップ
 奈良県で母子3人が死亡した放火事件を題材にした本に、長男の供述調書などが引用された問題が大きく波紋を広げている。奈良地検は刑法の秘密漏示の疑いで、調書を提供したとされる精神鑑定医と著者の強制捜査に乗り出した。父親の告訴を受けたものだが、表現の自由をめぐって影響は極めて大きく、強制捜査という選択が妥当だったのか、疑問が募る。

 少年は殺人などの非行事実で奈良家裁の少年審判を受け、広汎性発達障害との精神鑑定結果に基づいて、殺人などの非行事実で中等少年院送致となった。

 問題の本は、少年の供述調書や鑑定書をそっくり引用して、父親との精神的な葛藤(かっとう)などを詳しく記述している。著者は「少年の肉声から真実を伝えたかった」と説明している。

 少年法は、非行少年の更生の観点から、本人が特定されるような記事や写真の掲載を禁じるなどの保護規定を設けている。このため審判は非公開で行われ、事件の経緯や背景となった家庭環境などが十分に明らかになっているとは言えない。

 こうした制約に対し、できるだけ情報を公開して社会で共有し、同種事件の再発防止に生かすべきだという意見が強まっている。被害者の家族に対しては、長崎県佐世保市の小学生が校内で同級生に殺害された事件などで、情報公開がされるようになった。 

 もちろん、取材・報道する場合は、情報の内容や方法を吟味し、センセーショナリズムに陥らないよう自戒しなければならないのは当然だ。公表によって少年の更生が妨げられたり家族のプライバシーが失われる不利益と、事実を知らせることの公益性とのバランスも十分に検討されねばならない。

 著者は、固有名詞を削除するなどして「どこの家族かわからないようにした」と主張する。だが、一方的に家族のプライバシーを暴露したことには抵抗感が強いし、情報源が容易に推定されるような引用方法にも反省点はある。出版社も公表の社会的意義についての説明をさらに行う必要がある。

 今回は、長勢甚遠前法相が「司法秩序、少年法への挑戦だ」と調査を指示し、家裁や法務局が著者や出版社に抗議、謝罪勧告を繰り返してきた。

 そのうえでの強制捜査は、ひとつの事件という枠を超えて、取材活動や情報提供を萎縮(いしゅく)させる恐れがある。それによって、表現や報道の自由が侵されることを懸念する

 日本ペンクラブはこの事件に関して、先に「人権侵害があれば、当事者間の話し合いや訴訟による判断を待つべきで、公権力が判断し、流通・販売を阻害することがあってはならない」との声明を出している。

 国民に保障された権利にかかわる重大な問題である。捜査当局はこうした主張や世論の動向をどこまで考慮したのか。公権力の行使は慎重に、極力限定的に行われるべきだ。




毎日新聞 2007年9月15日 東京朝刊
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