劇場彷徨人・高橋彩子の備忘録

演劇、ダンスなどパフォーミングアーツを中心にフリーランスでライター、編集者をしている高橋彩子の備忘録的ブログです。

5月文楽公演一部&第二部

2010-05-20 00:00:03 | 観劇
5月文楽公演一部&二部@国立劇場小劇場



それなりに長いこと文楽を観続けているから必然といえば必然だが、
このところ過ぎゆく歳月を思い知らされている。つまり、才能が衰え、あるいは消え、
そして新しい才能が育つのを目の当たりにしているのだ。

■人形遣い

今月は(も)勘十郎が群を抜いていた。彼の有望性は衆目の一致するところながら、
『祇園祭礼信仰記』では、師匠の蓑助を彷彿とさせるしっとりとした雪姫を遣い、
『新版歌祭文』油屋の段&蔵場の段では憎々しく滑稽な小助を現代的な笑いの感性で表現。
その巧みさ、動きの幅広さに改めて舌を巻いた。
玉女も和生も清十郎も好きだが、勘十郎なくして人形遣いの未来は語れないだろう。

とはいえ、稀代の遣い手である蓑助も、まだまだ健在だ。
『新版歌祭文』野崎村の段では、おきゃんなおみつ役で卓越した技芸を披露して気を吐いた。
おみつが自分の許嫁である久松と恋仲になったお染に意地悪をする姿もいじらしく、
恋しい久松のために念入りに身支度をする場面では、
化粧紙を顔にペタンと貼り付けるさまや、
合わせ鏡で自分の姿をくまなく念入りに確認する様子が大いに微笑を誘った。
また、文雀も『碁太平記白石噺』で愛らしい田舎娘おのぶを好演していた。

■太夫

このところ住大夫、綱大夫に衰えが見えてきて寂しい(それでも存在感はあるのだが・・・)。
声ひとつで作品世界を描き出す優れた太夫は、一朝一夕には生まれない。
文楽の展望を考える上で不安なのはやっぱりここだろうかと、舞台を観て思った。

しかしながら『碁太平記白石噺』新吉原揚屋の段の嶋大夫は味わい深く、
おのぶから傾城宮城野、貫録ある惣六親分までの語り分けも見事だった。
浅草雷門の段の千歳大夫も多くの役を音色豊かに語り、コミカルな場面を生き生きと再現。
そして咲大夫が語る『新版歌祭文』油屋の段は緊迫感に満ち、場面全体を引き締めていた。

■三味線

『祇園祭礼信仰記』爪先鼠の段で少しくぐもった柔らかい音色を聴かせた寛治、
金閣寺の段でクリアな音を響かせた清治といったベテランの手つきに見惚れる。
最近、三味線を使う手の美しさに、いよいよ魅せられている私だ。

若手では清四郎が、『団子売』の連三味線の中の立三味線を、
気合い十分といった居ずまいで務めていたのも印象的だった。
期待の燕三は今回は、たっぷりとした咲大夫の語りを丁寧に支えていた。
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先日、ひょんなことから(?)、父に湯島の鰻屋へ連れて行ってもらった。
テーブルの向こうで鯉が泳いでいる不思議なお店。ふっくらした鰻は美味!

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