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米国労働運動 : アマゾンでの敗北と今後

2021年05月02日 | 歴史

【解説】先月報道したアマゾン社での組織化はバイデン大統領の後押しがあったにもかかわらず失敗した。その敗北が明らかになった5日後にレイバーノーツ誌が掲載した記事を翻訳した。まだ敗北の原因・経過を分析した記事にはなっていないが、労働運動の大きな流れの中で占める位置を明らかにしている。(レイバーネット国際部 山崎精一) *毎月1日前後に「レイバーノーツ」誌の最新記事を紹介します。
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アマゾンでの敗北と今後

 4月14日 ジョー・デマニュエルホール(レイバーノーツ・スタッフでオルグ)

 注目を集めたアラバマ州のアマゾン社での組合承認選挙の敗北から、全米の労働組合活動家は何を学べるだろうか?

 全国労働関係局は4月9日、バーミンガム市近郊のベッセマーにあるアマゾン社の発送センターで働く労働者が、小売・卸売・百貨店労働組合RWDSUへの加入に反対票を投じたと、発表した。投票結果は「反対」71%、「賛成」29%だったが、会社側が異議を唱えたために数えられなかった多数の投票を考慮すると、実際の投票率は60対40に近かった可能性がある。

●何を学ぶべきか?

 組合組織化への期待は大きかった。この組織化キャンペーンはマスコミに大きく取り上げられ、ホワイトハウスまでもが支持していた。とはいえ、今回の敗北は大方の労働組合にとって驚きではなかった。アマゾン社は世界で最大企業のひとつであり、米国の労働法の下では組織化が難しいことは知れわたっているからである。

 公の場で組合支持を発言する職場の労働者が少なかったことなど、組織化キャンペーンには心配な点もあった。長年にわたる組合活動の勝利と敗北の経験から、会社側の反対を克服するためには何が必要かということについて、知恵が蓄積されているからである。 特に、アマゾンでの組織化にはこれからも何度も挑戦することになるだろうから、今回の敗北の理由を知ることは我々の助けになるだろう。

 特定の状況下で特定の戦略がどのように有効だったかを、労働組合が学ぶ機会を無駄にするわけにはいかない。そのためには、直接関わった人たち、一般組合員、役員、スタッフが誠実に反省する必要がある。そのような兆しが見えてきたことは喜ばしい。

●敵対的な労働組合法

 アマゾン社は、多くの経営者と同じように、従業員を強制的に集会に参加させて、反組合宣伝を行った。アマゾン社は、郵便局の協力を得て、会社の敷地内に投票用紙を投函するための郵便箱を設置した。しかし、これは監視とみなされる可能性があり、違法なため、再投票が命じられる可能性がある。

 この郵便箱の設置を除いては、残念ながらこれらの反組合攻撃はすべてありふれたものである。組合組織化ではよくあることだし、アマゾン社は他の場所でもよくやっていることだが、脅迫したり、懲戒したり、解雇したりした、というような事実はまだ明らかになっていない。しかし、労働者はどこでもそうであるように、解雇や懲戒処分を恐れて組合支持を明らかにするのを恐れていた。

 現在議会で審議中の組織化保護法PRO(Protect the Right to Organize)があれば、アマゾン社のこのような行為を阻止することができるだろう。従業員を強制的に集会に参加させることは禁止されるだろう。アマゾン社は、交渉単位の決定において発言権を持たないだろう。(組合は、投票開始のわずか数週間前になって、想定していた従業員数の約4倍の数の従業員がいることを知らされた。) 組合の支持者を懲戒処分にしたり、脅迫したり、解雇したりといったよくある違反行為には、重い罰則が科せられることになる。また、組織化保護法では、最初の労働協約について仲裁プロセスを設けることにより、経営側が協約交渉をいつまでも引き伸ばさないようにすることができる。

●我々次第

 組織化保護法があれば、今回の投票の結果を変えられただろうか?それは分からない。発送センターの労働者たちが恐れることなく、立ち上がり、リーダーとして全面に立つことができただろうか? そうかもしれない。

 組織化保護法は、組合承認選挙の前後で状況を変える。選挙や最初の労働協約を勝ち取ることが容易になり、より強力な組合を作るための余地が生まれることは間違いない。労働組合は、労働者に意味のある組織化の権利を与えるこのような法案を求めて徹底的に闘うべきである。

 しかし、依然として、職場の力を構築するために広範な労働者を結集させる、強力で民主的な組織を構築する必要がある。労働者が加入したくなるような労働組合を作る必要がある。組織化保護法にはそれはできない、それは我々労働者に掛かっている。

●一つ闘いに過ぎない

 この敗北は、確かに後退である。しかし、アマゾン社で組織化できるかどうかのテストに失敗したと理解すべきではない。アメリカの労働組合運動の歴史には、大きな勝利の前の敗北、そして勝利の最中の敗北に満ちている。

 確かに、大きな敗北を喫すると、労働者が組織化を進める意欲を失ってしまうことがある。賢く、徹底して、常に勝利を目指して闘わなければならない。

 しかし、この組合承認選挙が持つ大きな歴史的意義について、メディアの熱狂に巻き込まれてはいけない。もし、マスコミの報道に流されてしまっていれば、労働運動はとっくの昔に終わっていただろう。

 組織化には、選挙戦の最中には気が付かないような波及効果がある。その波及効果は、ポジティブなものもあれば、ネガティブなものもあり、その中間のものもある。それを予測するのは難しい。 今回の損失は、失望の波を引き起こすかもしれないが、他の施設で働くアマゾンの従業員との会話から判断すると、それほど大きな影響はないようだ。いずれにしても、多くの労働者がより良い労働条件を求めて戦い、職場の様々な抑圧と闘いたいと思っていることは確かである。

 多くの労働者が労働組合を望んでいる。アマゾン社で働く多くの労働者が組合を望んでいる。今回、会社が勝ったからといって、その気持ちが変わることはない。

●長い目で見よう

 アマゾンのような巨大企業を相手にした労働組合の戦いは、何十年もかかり、さまざまなことを試し、組織化、再組織化、再再組織化を繰り返す。

 1930年代と1940年代の大規模な組織化活動に参加したオルガナイザーのオーラルヒストリーを集めた素晴らしい本『Rank and File』の中で、シカゴの精肉加工工場で働くステラ・ノヴィッキは、第一次世界大戦直後に鉄鋼や食肉加工での組織化活動やストライキに失敗したことが、数十年後の勝利につながった、と語っている。

 精肉加工工場の労働者が組合承認を勝ち取ったのは、1904年のストライキ失敗から40年後、1921~22年のストライキの失敗から20年後、そしてノヴィッキが組織化を始めてから約10年後の第二次世界大戦中のことだった。

 郵政労働者の団体交渉を合法化するきっかけとなった1970年の米国郵政公社の山猫ストは、郵政労働者の前身である郵政労働組合APWUの結成から65年後のことだった。郵政労組は何十年も前から存在していたが、その多くはロビー活動や福利厚生のための組織であった。しかし、公民権運動、政治的期待の高まり、労働環境の悪化などが重なり、全国規模のストライキにつながった。

 最近では、ノースカロライナ州ターヒールにあるスミスフィールド社の食肉加工工場場で働く何千人もの労働者が、16年の歳月と3回の選挙を経て組合承認を勝ち取った。労働者たちは、労働組合法違反、人種差別、経営側の激しい脅迫などと闘い、最終的に、全米で最も組織率の低い州の一つで大規模な組合承認選挙に勝った。

 草の根労働組織のアマゾニアンズ・ユナイテッド(注)からチームスターズ労組のような巨額の資金を持つ全国労組までが、アマゾン社で組合を作ろうと長期的な闘いに取り組んでいるので期待できる。アマゾンがどのように運営され、どこが脆弱なのかを理解するために時間をかけており、すぐに組合承認選挙に打って出ずに長期的に組織化する方法を模索している。

 レイバーノーツは『職場を変える秘密のレシピ 47』という本の中で、こう述べている、「どんな大きな勝利でも、その前には一連の敗北があったことがわかる。勝つまでは負け続けるのだ」。

*注 : シカゴなど各地のアマゾン社の倉庫などで組織化を行っている団体。労働組合が組織化できない中でも、コロナ禍下の労働者の命と健康を守るための闘いを展開している。

 

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