速弾き

「暗い曲が弾きたい」

これが今度の発表会、Ａちゃんの希望する曲だった。

暗い曲…？

じっくりどっしり暗い曲というのもＡちゃんのイメージに合わないので、
短調だけれど、パワーの感じられるもの、
流れを感じられる曲をチョイスしてみた。

真面目なＡちゃん、しっかり練習してくれていたけれど、
今日のＡちゃんの演奏は一味何かが違う。
何かどこかをかけ違えたような印象。
これは…、ええ～～と…

Ａちゃん、あなた、お家でこの曲、超高速で弾いてない？

「え…」

と取り繕おうとするＡちゃん。

無駄です。ちゃんと分かるんだから。
先生の前だけで、カッチリテンポで弾いたって、
普段の練習が見えちゃうんだから！！

「うそ～～」

と焦るＡちゃん。

分かりますよ。毎週聴いてるんだから！！
お家で速弾きして、発表会本番だけカッチリテンポで…
なんて考えちゃダメよ。
曲の雰囲気も壊れちゃうし、
チャラっと弾いていたのなんて、
すぐにバレちゃうのよ。

すっかり観念したＡちゃん。
今度はじっくり、しっかりしたテンポで弾いてくれた。

それからもう一曲。
今度はＡちゃんの得意な歌う曲。
Ａちゃんの歌声は、軽くて力みがなくて透明感のあるいい声。
歌声とピアノの音って密接な関係があると思う私。
そしてそれをそのまま行くＡちゃん。
力みのない透明感のあるいいピアノの音を鳴らす。
キレイな音で踊るように表現するＡちゃん。
こちらはとってもいい雰囲気。

ここから先は、Ａちゃんらしさをしっかり見つけて
演奏してもらえたらうれしいな