▼ 「個々の信念より公共の利益が優先」
~"君が代"不起立教諭の再雇用拒否、東京高裁が不当判決
卒業式の”君が代”斉唱時の不起立で、定年退職後の再雇用を拒否された元都立高校教諭が起こした裁判で、東京高裁(原田敏章裁判長)は10月15日、都に賠償金211万円(再雇用した場合の報酬1年分など)の支払いを命じた東京地裁判決(渡邉弘裁判長。『週刊金曜日』09年1月30日号「アンテナ」欄参照)を取り消し、元教諭の請求を全て棄却する不当判決を出した。
「報告集会」 《撮影:平田 泉》
長年人権教育に取り組んできた申谷(さるや)雄二さん(62)は04年3月、都立南葛飾高校定時制(南葛定)卒業式の不起立で都教育委員会から戒告処分を受け、その後、転勤先の高校では起立し、06年10月に定年退職後の再雇用を申請したが、07年1月に不合格にされた。
地裁判決は、起立強制の校長の職務命令の違法性を認めず、また再雇用不合格の取り消しと採用義務付けの請求も退けたが、「都教委は職務命令違反を過大視し、裁量権の逸脱、濫用がある」として、原告一部勝利の判決を出していた。
しかし高裁判決は、(1)職務命令発出の根拠となる都教委の10・23通達の内容(起立強制)や目的(”国旗国歌”尊重の態度を育てる)は不当ではない、(2)教諭の心情と信念において苦痛で受け入れ難くても、個々の教諭が自己の心情や信念のみに従って行動したのでは、学校教育(特に学校全体で行う儀式等の行事)は成り立たず、公共の利益にも反する(【注】参照)、(3)生徒や父兄(ママ)、来賓も参加した厳粛な雰囲気の中で行われるべき卒業式での不起立は影響力の大きい重い非違行為だ、などの”理由”で、「都教委による不採用は、裁量権の逸脱、濫用とまではいえない」と断じた。
判決後の報告集会では、この(2)の「公共の利益」について、「私たちの自由や権利の行使に、『公益及び公の秩序に反しないようにする責務』を課そうとする自民党の”新憲法草案”(05年10月)と同じ発想だ」と、原田裁判長の大日本帝国憲法志向を批判する意見が出た。また、南葛定の卒業生は「全員右へ習え、というのは民主主義ではない。権力の力は大きく、皆が力を合わせ闘っていこう」と発言した。
また06年度の再雇用選考で、申谷さんより重い減給や停職の被処分者が合格・採用されている事実との”整合性”を、判決が「本件のような職務命令違反でないから」という一言で済ませていることには、津田玄児弁護士が「校長や都教委への『反抗』は、交通事故での処分より重いという。とんでもない」と批判し、同種の訴訟を闘う木川恭(きかわきょう)さんは「裁判長は机上の空論で判決を書いている」と述べた。
申谷さんと弁護団は「最高裁に上告する」と明言。この他の同種訴訟での東京地裁判決は、1件が申谷さんと同じ一部勝訴、もう1件は敗訴と判断が分かれており、これらの高裁判決への取り組み強化も求められる。
【注】高裁判決は「都立高教諭という職業を選択した以上、自己の心情や信念を後退させることを余儀なくされることは当然に甘受すべきだ」とまで言い切っている。
~"君が代"不起立教諭の再雇用拒否、東京高裁が不当判決
永野厚男(教育ライター)
卒業式の”君が代”斉唱時の不起立で、定年退職後の再雇用を拒否された元都立高校教諭が起こした裁判で、東京高裁(原田敏章裁判長)は10月15日、都に賠償金211万円(再雇用した場合の報酬1年分など)の支払いを命じた東京地裁判決(渡邉弘裁判長。『週刊金曜日』09年1月30日号「アンテナ」欄参照)を取り消し、元教諭の請求を全て棄却する不当判決を出した。
「報告集会」 《撮影:平田 泉》
長年人権教育に取り組んできた申谷(さるや)雄二さん(62)は04年3月、都立南葛飾高校定時制(南葛定)卒業式の不起立で都教育委員会から戒告処分を受け、その後、転勤先の高校では起立し、06年10月に定年退職後の再雇用を申請したが、07年1月に不合格にされた。
地裁判決は、起立強制の校長の職務命令の違法性を認めず、また再雇用不合格の取り消しと採用義務付けの請求も退けたが、「都教委は職務命令違反を過大視し、裁量権の逸脱、濫用がある」として、原告一部勝利の判決を出していた。
しかし高裁判決は、(1)職務命令発出の根拠となる都教委の10・23通達の内容(起立強制)や目的(”国旗国歌”尊重の態度を育てる)は不当ではない、(2)教諭の心情と信念において苦痛で受け入れ難くても、個々の教諭が自己の心情や信念のみに従って行動したのでは、学校教育(特に学校全体で行う儀式等の行事)は成り立たず、公共の利益にも反する(【注】参照)、(3)生徒や父兄(ママ)、来賓も参加した厳粛な雰囲気の中で行われるべき卒業式での不起立は影響力の大きい重い非違行為だ、などの”理由”で、「都教委による不採用は、裁量権の逸脱、濫用とまではいえない」と断じた。
判決後の報告集会では、この(2)の「公共の利益」について、「私たちの自由や権利の行使に、『公益及び公の秩序に反しないようにする責務』を課そうとする自民党の”新憲法草案”(05年10月)と同じ発想だ」と、原田裁判長の大日本帝国憲法志向を批判する意見が出た。また、南葛定の卒業生は「全員右へ習え、というのは民主主義ではない。権力の力は大きく、皆が力を合わせ闘っていこう」と発言した。
また06年度の再雇用選考で、申谷さんより重い減給や停職の被処分者が合格・採用されている事実との”整合性”を、判決が「本件のような職務命令違反でないから」という一言で済ませていることには、津田玄児弁護士が「校長や都教委への『反抗』は、交通事故での処分より重いという。とんでもない」と批判し、同種の訴訟を闘う木川恭(きかわきょう)さんは「裁判長は机上の空論で判決を書いている」と述べた。
申谷さんと弁護団は「最高裁に上告する」と明言。この他の同種訴訟での東京地裁判決は、1件が申谷さんと同じ一部勝訴、もう1件は敗訴と判断が分かれており、これらの高裁判決への取り組み強化も求められる。
【注】高裁判決は「都立高教諭という職業を選択した以上、自己の心情や信念を後退させることを余儀なくされることは当然に甘受すべきだ」とまで言い切っている。
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