《高嶋伸欣さん(琉球大学名誉教授)の分析資料》
◆ 最新の沖縄・八重山の教科書問題資料
高嶋伸欣です
八重山教科書問題で、文科省による竹富町への圧力がさらに強まりつつある中、その防波堤の役割りを果たしていると言える沖縄県教育委員会からの質問(照会)について、文科省が21日付で回答したことが、全国紙でも一斉に報道されました。
その報道の様子からは、県教委による文科省批判と読めることがらや妥協策などがすべて反論・否定されているように見えます。けれどもこの間、文科省側は自分の側の落ち度、矛盾点についてはすべて知らぬ振りを決め込んできていて、今回も同様の対応をしていることがわかります。
とは言え、文科省も教科書無償措置法と地方教育行政法という関連の2つの法律の矛盾を放置してきたことが露見してしまったのをそのままにはできず、昨年11月15日発表の「教科書改革実行プラン」に無償措置法の改正着手を盛り込まざるを得なくなっていました。
目立たないようにしてはいるものの、文科省が法の不備を認めた証拠ですし、ここまで文科省を追い込んだのは、竹富町や沖縄県が国の圧力に屈しなかったからこそのことです。
ところで、文科省はことを急ぎ、この無償措置法改正案作成のために中央教育審議会に対して、早速このための諮問をし、中教審の初等中等教育分科会は11月22日と12月16日の2回だけの審議で、文科省側が提示した案(共同採択の協議会を、その決定が各教育委員会に対して強制力を持つ、地方自治法にいう「管理執行協議会」と定める)を了承しています。
その2回目の議論のまとめが、「教科書採択の改善について(意見のまとめ)」として、12月26日付で文科省のHPで、公表されています。
その「意見のまとめ」では、「4.今後の検討課題について」の項に次のように指摘しています。
「例えば、採択のための教科書の研究は共同で行いつつ、採択自体はそれぞれの市町村教育委員会において行う、若しくは、市町村教育委員会の希望に応じて共同採択できるようにするなど、現行の共同採択制度と市町村教育委員会による単独採択とする制度との折衷的な方策も考えられる」と。
これは、極めて現実的で合理的な案です。小規模の市町村では教科書の比較検討資料を作る教員の数が足りないことがあるので、その資料作りは幾つかの自治体が共同でやりながら、採択はそれらの資料などに基づいて各教育委員会ごとに行うのであれば、事前の比較検討が不十分になる心配はありません。
ところが、今回の文科省の回答では、こうした意見が文科省の膝下の審議会から具体的に出されているにもかかわらず、竹富町の単独採択という構想では「十分な教科書の調査研究が可能であるか」「を踏まえれば、八重山地区は一つの採択地区として設定すべきものと考える」として、県教委の妥協策である竹富町の単独採択構想を拒否しています。
文科省は、あくまでも八重山地区協議会が多数決で決定した育鵬社版を竹富町は採択すべきだ、としているわけです。
けれども、上記のように文科省が「十分な教科書の調査研究」を重視する姿勢を示せば、ますます説得力を失うのは文科省自身です。
八重山地区の採択に向けた事前の教科書調査研究で育鵬社版は問題点が多いとして厳しい評価がされ、採択候補には含まれていなかったのを強引に採択したのこそ石垣市と与那国町の教育長たちで、「全部の教科書は読んでいない」と育鵬社を選んだ委員が発言していることも、報道されています。
文科省は、事前の教科書調査研究(比較資料作り)にこだわればこだわる程、自己矛盾に陥ることになります。
これも、率直に自らの責任を認めて地元との妥協策を協議しようとの姿勢を示さずに、力任せに圧倒しようという封建社会さながらの差別意識丸出しの手法をゴリ押ししているためです。
さらに、今回の「回答」では、竹富町の教育が平穏、正常に実施できていることよりも、「国が教科書を無償給付できない状態が継続していることが、教科書無償制度の根幹に関わる問題であると認識している」ので、何がなんでも竹富町を国の指示に従わせろ、と県教委に要求しています。
ここでも、国側が2つの法律の矛盾点を放置してきたことの責任については頬かむりです。
それに、2011年10月26日に中川正春文科大臣が、国ではなく竹富町が公費で教科書を購入して生徒に配る方法でも、無償制には反しないとの示唆を法制局から得ているとの国会答弁をしています。
法制局と安倍政権下の文科省の無償制の解釈には明らかに相違があります。
「是正要求」などという法的権限を行使する時に、法規の解釈や運用で便宜的恣意的なことがされればそれは職権濫用で、違法行為であるとした東京高裁の1993・10・20判決(第3次家永教科書裁判、川上裁判長)に国側は反論できず、1997年8月29日の最高裁判決で国側敗訴が確定した前例に照らしても、文科省の今回の回答は無理押しです。
文科省の背後で政治的圧力を加えている自民党のタカ派文教族も、事態の膠着状態にあせりだしたのか、馬脚を表し始めています。
文科省政務官を解任されて自民党内で無冠の状態にある義家弘介議員が『教育再生』の最新号(2014年1月号)で、「教科書改革実行プラン」の作成プロジェクトチームに自分もいたと強調した上で、無償措置法の改正の意図を次のように説明しているのです。
「例えば、沖縄県の場合、これだけ中国側から侵犯を繰り返されているわけで、沖縄では、領土について明記した教科書を採択したい地区が本来のはずです。そういう地域の当たり前の発想が、教科書採択の地域の基準やプロセスの中に入らないのは、そもそもおかしい」と。
義家議員は2011年9月8日の3市町の教育委員全員協議の最中に、玉津石垣市教育長にFAXを送りつけて以来、事態を混乱させてきた元凶の一人です。その義家氏の本心が、領土問題の記述でお気に入りの育鵬社版を採択させることにあったのだ、とこれで分かります。
さらに、今回の「改革実行プラン」の目的もそこにあることを、早くも明らかにしてくれたことになります。
国会での追及に好材料をわざわざ提供しているのも『教育再生』が、教育再生実行会議の委員でもある八木秀次氏が責任者の民間団体「日本教育再生機構」の機関誌なので、気を許したのかもしれません。
義家氏は、もともと目配りが不足して、不用意な言動の多い人です。官僚による歯止めがなくなったので、これからもいろいろと「有意義な」発言、情報を提供してもらえそうです。彼の選挙区(神奈川16区、厚木市・伊勢原市など)での情報なども要チェックです。
(文責:高嶋伸欣)
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◆ 八重山教科書:文科省、竹富分割認めず
沖縄タイムス2014年1月22日
八重山地区内で異なる中学校公民教科書が使われている問題で文部科学省は21日、東京書籍版を使う竹富町と育鵬社版の石垣市、与那国町で採択地区の分割を検討したいとした県教育委員会の提案に「現行の教科書無償措置法では、同一の郡に属する町村を分割して採択地区の設定を行うことはできない」と回答した。
「竹富町の教育機会均等は阻害されていない」とする県教委の見解に対して文科省は「無償措置法に基づく国の無償給付によらなければ、制度上児童生徒に教科書が無償給付されることは担保されない」として従来同様、竹富町教委が「違法状態」であると指摘。
文科省は昨年10月、県教委に対して同町教委に同一の教科書を使うよう是正を指示しているが、県教委が判断を先送りしていることについて「指示から3カ月以上経過した現在でも、いまだ行われていないことは遺憾」として是正要求するよう重ねて求めた。
諸見里明県教育長は文科省の回答について「県教育委員会で内容をしっかり議論して、今後の対応を慎重に決めたい」と述べた。
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◆ 八重山教科書 竹富の分離否定 県教委へ回答
琉球新報2014年1月22日
【東京】八重山教科書採択問題で、県教育委員会(宮城奈々委員長)が文部科学省に採択地区の分割について見解を求めたことに対し、文科省は21日、「十分に教科書の調査研究が可能かなどを踏まえれば、八重山地区は一つの地区として設定すべきだ」と回答し、県教委の分割方針を否定した。その上で「速やかに竹富町に対する是正の要求を行ってほしい」とあらためて求めた。
文科省の「採択地区の設定単位を『市町村』に柔軟化する」とした教科書改革実行プランと今回の指導が矛盾するとの指摘については「市町村合併の進行によるもので、ご指摘の目的を有していない」として、統一の教科書を採択できないことを理由に採択地区を分割することは不可とした。
また、2013年10月の是正要求の指示から3カ月以上経過していることを挙げ「大変遺憾だ」と指摘。県教委に対し「国が教科書を無償給付できない状態が継続していることは、制度の根幹に関わる問題だ」との認識を示した。
◆ 最新の沖縄・八重山の教科書問題資料
高嶋伸欣です
八重山教科書問題で、文科省による竹富町への圧力がさらに強まりつつある中、その防波堤の役割りを果たしていると言える沖縄県教育委員会からの質問(照会)について、文科省が21日付で回答したことが、全国紙でも一斉に報道されました。
その報道の様子からは、県教委による文科省批判と読めることがらや妥協策などがすべて反論・否定されているように見えます。けれどもこの間、文科省側は自分の側の落ち度、矛盾点についてはすべて知らぬ振りを決め込んできていて、今回も同様の対応をしていることがわかります。
とは言え、文科省も教科書無償措置法と地方教育行政法という関連の2つの法律の矛盾を放置してきたことが露見してしまったのをそのままにはできず、昨年11月15日発表の「教科書改革実行プラン」に無償措置法の改正着手を盛り込まざるを得なくなっていました。
目立たないようにしてはいるものの、文科省が法の不備を認めた証拠ですし、ここまで文科省を追い込んだのは、竹富町や沖縄県が国の圧力に屈しなかったからこそのことです。
ところで、文科省はことを急ぎ、この無償措置法改正案作成のために中央教育審議会に対して、早速このための諮問をし、中教審の初等中等教育分科会は11月22日と12月16日の2回だけの審議で、文科省側が提示した案(共同採択の協議会を、その決定が各教育委員会に対して強制力を持つ、地方自治法にいう「管理執行協議会」と定める)を了承しています。
その2回目の議論のまとめが、「教科書採択の改善について(意見のまとめ)」として、12月26日付で文科省のHPで、公表されています。
その「意見のまとめ」では、「4.今後の検討課題について」の項に次のように指摘しています。
「例えば、採択のための教科書の研究は共同で行いつつ、採択自体はそれぞれの市町村教育委員会において行う、若しくは、市町村教育委員会の希望に応じて共同採択できるようにするなど、現行の共同採択制度と市町村教育委員会による単独採択とする制度との折衷的な方策も考えられる」と。
これは、極めて現実的で合理的な案です。小規模の市町村では教科書の比較検討資料を作る教員の数が足りないことがあるので、その資料作りは幾つかの自治体が共同でやりながら、採択はそれらの資料などに基づいて各教育委員会ごとに行うのであれば、事前の比較検討が不十分になる心配はありません。
ところが、今回の文科省の回答では、こうした意見が文科省の膝下の審議会から具体的に出されているにもかかわらず、竹富町の単独採択という構想では「十分な教科書の調査研究が可能であるか」「を踏まえれば、八重山地区は一つの採択地区として設定すべきものと考える」として、県教委の妥協策である竹富町の単独採択構想を拒否しています。
文科省は、あくまでも八重山地区協議会が多数決で決定した育鵬社版を竹富町は採択すべきだ、としているわけです。
けれども、上記のように文科省が「十分な教科書の調査研究」を重視する姿勢を示せば、ますます説得力を失うのは文科省自身です。
八重山地区の採択に向けた事前の教科書調査研究で育鵬社版は問題点が多いとして厳しい評価がされ、採択候補には含まれていなかったのを強引に採択したのこそ石垣市と与那国町の教育長たちで、「全部の教科書は読んでいない」と育鵬社を選んだ委員が発言していることも、報道されています。
文科省は、事前の教科書調査研究(比較資料作り)にこだわればこだわる程、自己矛盾に陥ることになります。
これも、率直に自らの責任を認めて地元との妥協策を協議しようとの姿勢を示さずに、力任せに圧倒しようという封建社会さながらの差別意識丸出しの手法をゴリ押ししているためです。
さらに、今回の「回答」では、竹富町の教育が平穏、正常に実施できていることよりも、「国が教科書を無償給付できない状態が継続していることが、教科書無償制度の根幹に関わる問題であると認識している」ので、何がなんでも竹富町を国の指示に従わせろ、と県教委に要求しています。
ここでも、国側が2つの法律の矛盾点を放置してきたことの責任については頬かむりです。
それに、2011年10月26日に中川正春文科大臣が、国ではなく竹富町が公費で教科書を購入して生徒に配る方法でも、無償制には反しないとの示唆を法制局から得ているとの国会答弁をしています。
法制局と安倍政権下の文科省の無償制の解釈には明らかに相違があります。
「是正要求」などという法的権限を行使する時に、法規の解釈や運用で便宜的恣意的なことがされればそれは職権濫用で、違法行為であるとした東京高裁の1993・10・20判決(第3次家永教科書裁判、川上裁判長)に国側は反論できず、1997年8月29日の最高裁判決で国側敗訴が確定した前例に照らしても、文科省の今回の回答は無理押しです。
文科省の背後で政治的圧力を加えている自民党のタカ派文教族も、事態の膠着状態にあせりだしたのか、馬脚を表し始めています。
文科省政務官を解任されて自民党内で無冠の状態にある義家弘介議員が『教育再生』の最新号(2014年1月号)で、「教科書改革実行プラン」の作成プロジェクトチームに自分もいたと強調した上で、無償措置法の改正の意図を次のように説明しているのです。
「例えば、沖縄県の場合、これだけ中国側から侵犯を繰り返されているわけで、沖縄では、領土について明記した教科書を採択したい地区が本来のはずです。そういう地域の当たり前の発想が、教科書採択の地域の基準やプロセスの中に入らないのは、そもそもおかしい」と。
義家議員は2011年9月8日の3市町の教育委員全員協議の最中に、玉津石垣市教育長にFAXを送りつけて以来、事態を混乱させてきた元凶の一人です。その義家氏の本心が、領土問題の記述でお気に入りの育鵬社版を採択させることにあったのだ、とこれで分かります。
さらに、今回の「改革実行プラン」の目的もそこにあることを、早くも明らかにしてくれたことになります。
国会での追及に好材料をわざわざ提供しているのも『教育再生』が、教育再生実行会議の委員でもある八木秀次氏が責任者の民間団体「日本教育再生機構」の機関誌なので、気を許したのかもしれません。
義家氏は、もともと目配りが不足して、不用意な言動の多い人です。官僚による歯止めがなくなったので、これからもいろいろと「有意義な」発言、情報を提供してもらえそうです。彼の選挙区(神奈川16区、厚木市・伊勢原市など)での情報なども要チェックです。
(文責:高嶋伸欣)
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◆ 八重山教科書:文科省、竹富分割認めず
沖縄タイムス2014年1月22日
八重山地区内で異なる中学校公民教科書が使われている問題で文部科学省は21日、東京書籍版を使う竹富町と育鵬社版の石垣市、与那国町で採択地区の分割を検討したいとした県教育委員会の提案に「現行の教科書無償措置法では、同一の郡に属する町村を分割して採択地区の設定を行うことはできない」と回答した。
「竹富町の教育機会均等は阻害されていない」とする県教委の見解に対して文科省は「無償措置法に基づく国の無償給付によらなければ、制度上児童生徒に教科書が無償給付されることは担保されない」として従来同様、竹富町教委が「違法状態」であると指摘。
文科省は昨年10月、県教委に対して同町教委に同一の教科書を使うよう是正を指示しているが、県教委が判断を先送りしていることについて「指示から3カ月以上経過した現在でも、いまだ行われていないことは遺憾」として是正要求するよう重ねて求めた。
諸見里明県教育長は文科省の回答について「県教育委員会で内容をしっかり議論して、今後の対応を慎重に決めたい」と述べた。
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◆ 八重山教科書 竹富の分離否定 県教委へ回答
琉球新報2014年1月22日
【東京】八重山教科書採択問題で、県教育委員会(宮城奈々委員長)が文部科学省に採択地区の分割について見解を求めたことに対し、文科省は21日、「十分に教科書の調査研究が可能かなどを踏まえれば、八重山地区は一つの地区として設定すべきだ」と回答し、県教委の分割方針を否定した。その上で「速やかに竹富町に対する是正の要求を行ってほしい」とあらためて求めた。
文科省の「採択地区の設定単位を『市町村』に柔軟化する」とした教科書改革実行プランと今回の指導が矛盾するとの指摘については「市町村合併の進行によるもので、ご指摘の目的を有していない」として、統一の教科書を採択できないことを理由に採択地区を分割することは不可とした。
また、2013年10月の是正要求の指示から3カ月以上経過していることを挙げ「大変遺憾だ」と指摘。県教委に対し「国が教科書を無償給付できない状態が継続していることは、制度の根幹に関わる問題だ」との認識を示した。
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