<教科書採択結果についての私見①>
◆ 山川版歴史の採択が中高一貫校にほぼ限定されている意味
皆さま 高嶋伸欣です
中学校用教科書の採択状況が私立学校を除いて概略判明してきているところで、幾つか気になる事柄が浮かんできています。今後の取り組みに向けた議論の素材にしていただければと思い、順次、提起させていただきます。
今回は、新規参入の山川出版歴史教科書(以下「山川版」)が、中高一貫校では多少目立つもののその他では、ほとんど採択されていない点です。
「山川版」は一般の公立中学向きとはみなされて採択されない一方で、都立一貫校10校が育鵬社版をやめたものの8校が新規参入の同書採択で足並みを揃えたところに注目しています。
山川版はPR資料で高校の現行版『詳説日本史』との連携ぶりを強調していましたので、中学校教科書の採択の場で大学入試対策を露骨に意識させるところまで、営業上の配慮を重視するようになったのかと、受け止めていました。
もともと『詳説日本史』は、暗記偏重の「大学共通第1次学力試験(1979~89年、通称「共通1次試験」、現・大学入学共通テスト)」の実施で一気に採択率を高め、君臨してきたのですが、同テストは『詳説日本史』の執筆者たちを中心とした問題作成態勢でスタートしたものでした。
また80年代末に高校「社会科」を「地歴科」と「公民科」に解体したきっかけは、必修を「現代社会」から「世界史」に変更するように求めた『詳説世界史』執筆者たち東大グループの画策でした。
それを口実にして「社会科」解体に踏み切るように、中曽根首相が高石邦男文部次官を官邸に呼びつけて厳命し、強行させた経過が判明しています。
*当時、教育課程審議会では、「次期も従来通り」という方針がすでに決まっていたため、担当の文部省高校教育課長が方針変更に抵抗しますが、10月という時期外れの人事異動で横浜国大事務局長に飛ばされ、文科省内は一気に沈黙します。
高石次官は次の総選挙で中曽根派から立候補する準備が進み、文科省も全省を挙げて支援態勢作りの最中でした。
ただしその後、支援態勢の弱点である資金難の様子を知ったリクルート社の江副浩正社長が値上がり確実なリクルートコスモス社未公開株を高石氏に贈賄したリクルート事件で有罪判決を受け、高石氏は失脚します。
『詳説世界史』の執筆者たち東大グループが「世界史」必修を主張したのは、選択科目であるために、『詳説世界史』の需要・採択数が大幅に減少し、東大卒業生も「世界史」教員の就職口が減少したままで困っているからだなどと、当時言われていました。
ともあれ、「世界史」の必修化が強引に決定され、『詳説世界史』も『詳説日本史』ともども採択で安泰の状況が、継続されてきたことになります。
そこに起きたのが今回の大幅な「地歴科」のカリキュラム・学習指導要領の変更による「歴史総合」の創設、それに学力観の見直しによる大学共通入試の「暗記偏重」から「判断力重視」への方針転換です。
このままでは『詳説日本史・世界史』離れは必至です。
そこで「歴史総合」の定着ぶりや大学入試改革ももたついて落ち着くのには時間がかかりそうなのでその様子眺めの期間に向けて、少しでも『詳説日本史・世界史』の高採択率状況の維持をめざして、中学歴史教科書への新規参入を図った、という経営戦略が読みとれるというわけです。
この経営戦略は、中高一貫校での「山川版」採択状況をみると、的中したように見えます。
ここまでは、企業である教科書会社のそれぞれの事情に基づく経営戦略の範囲内のこととして、許容される事柄です。
けれども、教育内容にかかわる事柄の部分については、育鵬社版の場合と同様に傍観はしていられません。
「山川版」の問題点は、下記のメールや添付の拙稿等で指摘したように、『詳説日本史・世界史』同様に、知識の羅列・押し付け型、お説教型で、生徒が資料や説明文などからあれこれ推測し、想定したことを交換しあって、一人で教科書を見ていただけでは見つけられない行間の深い意味の発見、「抜け駆けでない協働の宝探し」である授業・学習のための主たる教材として制作されているように見えないことです。
学校教育法は「義務教育の目標」の第1項に「公正な判断力の育成」を掲げ、「学習指導要領」も「思考力の向上」を求めています。
中学「社会科」教科書と同時に高校「地歴科」教科書も発行している教科書会社はほかに複数ありますが、それらの社の中学「社会科」教科書は「山川版」ほど暗記・押し付け型ではありません。
「教科書が歴史嫌いを作っている」という批判が強く意識されているように見えます。
「つくる会」系教科書が暗記・押し付け型で、採択を増やしかけたためか、他社本も揺らいだ気配がありましたが、「抜け駆けでない協働の宝探し」としての学習を強く意図した「学び舎」本の登場で、その気配は消えてきているように見えます。
それだけに、都立一貫校8校は暗記偏重・押し付け型で替わることのない「育鵬社版」から「山川版」に乗り換え、いよいよ中学1年生から大学入試対応態勢に組み込んみつつあるようで気になります。
次の採択では、他府県の公立一貫校がどうするか、目が離せません。
公立の中高一貫校だけでなく、私立の中高一貫校でも「山川版」を採択するところと「学び舎」本の採択を続けるところに分かれている様子です。
中には「学び舎」本から「山川版」に変更した私立校もあるようです。現場の教員の皆さんも、迷っているということでしょうか。
長くなるので、この件はここまでにしますが、教科書本文の太字表記についても、生徒は眼にした途端に「テストに出る暗記項目」という強迫観念が条件反射で沸き上がり、判断力・思考力育成の機会を奪われて”歴史嫌い”に追い込まれていると、多くの教員の皆さんから聞かされています。
けれども、教育委員などの中には「太字表記が多くあって、要点が読み取り易くて良い」と評価する向きも少なくないようです。教科書の比較検討について、どのような観点が必須とされるべきか。
採択の手続きだけでなくこうした点についても、教委に問題提起をする必要を感じます。
教科書会社についても、各社が個々の決断で太字表記を取りやめるのは難しいと思われます。文科省による指導か教科書協会による業界全体の申し合わせ等を求める働きかけも、考えてみたいです。
以上 高嶋の私見です ご参考までに
◆ 山川版歴史の採択が中高一貫校にほぼ限定されている意味
皆さま 高嶋伸欣です
中学校用教科書の採択状況が私立学校を除いて概略判明してきているところで、幾つか気になる事柄が浮かんできています。今後の取り組みに向けた議論の素材にしていただければと思い、順次、提起させていただきます。
今回は、新規参入の山川出版歴史教科書(以下「山川版」)が、中高一貫校では多少目立つもののその他では、ほとんど採択されていない点です。
「山川版」は一般の公立中学向きとはみなされて採択されない一方で、都立一貫校10校が育鵬社版をやめたものの8校が新規参入の同書採択で足並みを揃えたところに注目しています。
山川版はPR資料で高校の現行版『詳説日本史』との連携ぶりを強調していましたので、中学校教科書の採択の場で大学入試対策を露骨に意識させるところまで、営業上の配慮を重視するようになったのかと、受け止めていました。
もともと『詳説日本史』は、暗記偏重の「大学共通第1次学力試験(1979~89年、通称「共通1次試験」、現・大学入学共通テスト)」の実施で一気に採択率を高め、君臨してきたのですが、同テストは『詳説日本史』の執筆者たちを中心とした問題作成態勢でスタートしたものでした。
また80年代末に高校「社会科」を「地歴科」と「公民科」に解体したきっかけは、必修を「現代社会」から「世界史」に変更するように求めた『詳説世界史』執筆者たち東大グループの画策でした。
それを口実にして「社会科」解体に踏み切るように、中曽根首相が高石邦男文部次官を官邸に呼びつけて厳命し、強行させた経過が判明しています。
*当時、教育課程審議会では、「次期も従来通り」という方針がすでに決まっていたため、担当の文部省高校教育課長が方針変更に抵抗しますが、10月という時期外れの人事異動で横浜国大事務局長に飛ばされ、文科省内は一気に沈黙します。
高石次官は次の総選挙で中曽根派から立候補する準備が進み、文科省も全省を挙げて支援態勢作りの最中でした。
ただしその後、支援態勢の弱点である資金難の様子を知ったリクルート社の江副浩正社長が値上がり確実なリクルートコスモス社未公開株を高石氏に贈賄したリクルート事件で有罪判決を受け、高石氏は失脚します。
『詳説世界史』の執筆者たち東大グループが「世界史」必修を主張したのは、選択科目であるために、『詳説世界史』の需要・採択数が大幅に減少し、東大卒業生も「世界史」教員の就職口が減少したままで困っているからだなどと、当時言われていました。
ともあれ、「世界史」の必修化が強引に決定され、『詳説世界史』も『詳説日本史』ともども採択で安泰の状況が、継続されてきたことになります。
そこに起きたのが今回の大幅な「地歴科」のカリキュラム・学習指導要領の変更による「歴史総合」の創設、それに学力観の見直しによる大学共通入試の「暗記偏重」から「判断力重視」への方針転換です。
このままでは『詳説日本史・世界史』離れは必至です。
そこで「歴史総合」の定着ぶりや大学入試改革ももたついて落ち着くのには時間がかかりそうなのでその様子眺めの期間に向けて、少しでも『詳説日本史・世界史』の高採択率状況の維持をめざして、中学歴史教科書への新規参入を図った、という経営戦略が読みとれるというわけです。
この経営戦略は、中高一貫校での「山川版」採択状況をみると、的中したように見えます。
ここまでは、企業である教科書会社のそれぞれの事情に基づく経営戦略の範囲内のこととして、許容される事柄です。
けれども、教育内容にかかわる事柄の部分については、育鵬社版の場合と同様に傍観はしていられません。
「山川版」の問題点は、下記のメールや添付の拙稿等で指摘したように、『詳説日本史・世界史』同様に、知識の羅列・押し付け型、お説教型で、生徒が資料や説明文などからあれこれ推測し、想定したことを交換しあって、一人で教科書を見ていただけでは見つけられない行間の深い意味の発見、「抜け駆けでない協働の宝探し」である授業・学習のための主たる教材として制作されているように見えないことです。
学校教育法は「義務教育の目標」の第1項に「公正な判断力の育成」を掲げ、「学習指導要領」も「思考力の向上」を求めています。
中学「社会科」教科書と同時に高校「地歴科」教科書も発行している教科書会社はほかに複数ありますが、それらの社の中学「社会科」教科書は「山川版」ほど暗記・押し付け型ではありません。
「教科書が歴史嫌いを作っている」という批判が強く意識されているように見えます。
「つくる会」系教科書が暗記・押し付け型で、採択を増やしかけたためか、他社本も揺らいだ気配がありましたが、「抜け駆けでない協働の宝探し」としての学習を強く意図した「学び舎」本の登場で、その気配は消えてきているように見えます。
それだけに、都立一貫校8校は暗記偏重・押し付け型で替わることのない「育鵬社版」から「山川版」に乗り換え、いよいよ中学1年生から大学入試対応態勢に組み込んみつつあるようで気になります。
次の採択では、他府県の公立一貫校がどうするか、目が離せません。
公立の中高一貫校だけでなく、私立の中高一貫校でも「山川版」を採択するところと「学び舎」本の採択を続けるところに分かれている様子です。
中には「学び舎」本から「山川版」に変更した私立校もあるようです。現場の教員の皆さんも、迷っているということでしょうか。
長くなるので、この件はここまでにしますが、教科書本文の太字表記についても、生徒は眼にした途端に「テストに出る暗記項目」という強迫観念が条件反射で沸き上がり、判断力・思考力育成の機会を奪われて”歴史嫌い”に追い込まれていると、多くの教員の皆さんから聞かされています。
けれども、教育委員などの中には「太字表記が多くあって、要点が読み取り易くて良い」と評価する向きも少なくないようです。教科書の比較検討について、どのような観点が必須とされるべきか。
採択の手続きだけでなくこうした点についても、教委に問題提起をする必要を感じます。
教科書会社についても、各社が個々の決断で太字表記を取りやめるのは難しいと思われます。文科省による指導か教科書協会による業界全体の申し合わせ等を求める働きかけも、考えてみたいです。
以上 高嶋の私見です ご参考までに
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