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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

差別、憎悪の対象を攻撃「ヘイトクライム」相模原障害者施設殺傷事件

2016年10月06日 | 平和憲法
 ◆ 相模原障害者施設 殺傷事件を考える (週刊新社会)
   ~特殊なケースではない 社会背景、人権軽視の空気
精神科医 立教大教授 香山リカ

 ◆ 明確な意図ある
 相模原市の障害者施設に男性が夜半に忍び込み、入居者の19人が刃物で刺されて殺害され、多数が重軽陽を負うという衝撃的な事件が起きたのは、7月26日のことであった。自分で出頭して逮捕されたのは、施設の元職員の20代男性であった。
 この事件の後、いくつかのメディアから「彼の精神の異常性について分析してほしい」という依頼があったが、私は「これは精神医学の領域の話ではないのではないか」と答えた。なぜならこの事件は、加害者の男性の個人の異常性だけで理解すべき問題ではないからだ。
 また、職員としての処遇に不満を持ち、その恨みによる犯行ではないか、という声もあったがそうとは言えない。だとしたら、狙われるのは施設の管理者や職員であるはずだからだ。
 さらに、これを「無差別大量殺人事件」と表現したメディアもあったが、それは間違いだ。自暴自棄になった人間が起こすことの多い無差別殺人とは違い、今回は明らかに重症度の高い障害者のみを狙っている
 男性はこの2月に、衆議院議長あてに「私の目標は重複障害者の方が家庭内での生活、及び社会的活動が極めて困難な場合、保護者の同意を得て安楽死できる世界です」とつづった書状をわたそうとしていたことが明らかになった。
 その理由は「理由は世界経済の活性化、本格的な第三次世界大戦を未然に防ぐことができるかもしれないから」だとし、「障害者は不幸を作ることしかできません」と断定的な言葉が続く。そして、今回の犯行の予告とも言える殺害計画が具体的につづられていた。
 もちろん常軌を逸した内容であり、文体にもある種の高揚感が滲み出ているが、支離滅裂で解読不能というわけではない。幻聴や妄想などの精神病理的症状も読み取れない。
 つまりこの男性には「障害者は無価値、抹殺した方がよい」という明確な意図に基づく犯行と考えるべきだ。
 ◆ 優生思想の一種
 このように、社会的マイノリティーを本人には変えることのできない属性(今回なら心身障害があること)だけで差別、憎悪の対象として攻撃する犯罪を、海外では「ヘイトクライム」と呼ぶ。
 これまで日本では、親族や地域住民などを大量に殺害したケースや無差別通り魔殺人などはあったが、「障害を有する者」など特定の属性を持ったマイノリティーを狙いうちにして無差別に殺害する「ヘイトクライム」は、わずかにホームレスを連続して襲う事件があったくらいなのではないか。
 容疑者が抱いていた価値観は、これまで歴史の中で何度となく出現してきた「優生思想」の一種だと考えられる。
 それを最も悪い形で実行したのは言うまでもなくナチスであるが、その時代、ユダヤ人だけではなく「T4作戦」の名のもとに、20万人ともいわれる精神、身体の障害を持つ人たちがガス室で虐殺されている
 そのときには、一流の医学者や臨床医らも「ドイツ社会を健全なものとするため、障害者を苦痛から救済するために」と確信を持ち、こぞってこのおぞましい作戦に協力したと言われている。
 ◆ 二度とあっては
 それにしても、なぜ現代を生きるこの男性は、突然、優生思想に染まり、差別や排除の意識を強め、ついにそれを実行するに至ったのだろうか。
 今後、精神鑑定も行われると思われるが、先述したように、いま公開されている情報からは私は彼に何らかの重篤な精神疾患があったとは考えていない。
 むしろ気になるのは、彼がどんなメディアに接触して、そこでどんな人や言論に影響を受けてきたかということだ。
 実際にネットの社会ではいま、排外主義や差別主義が横行しつつあり、今回の事件の後にも加害者の行動や思想を肯定したり賞賛したりする声が見られた。
 今後の裁判では、この男性をごく特殊なケースと片づけることなく、彼を生んだ社会背景や人権を軽視するいまの空気についてもぜひ迫ってほしいと考えている。
 奪われた命は戻ってこないが、神奈川の施設で懸命に日々を生きてきた当事者、それを見守ってきた家族、支えてきた職員の無念さを思うと胸が詰まる。
 二度とこのようなヘイトクライムが日本で起きないことをいまは願うばかりである。
『週刊新社会』(2016年9月27日)

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