■ 政党機関紙配布:最高裁判決 弁護団「大法廷」審理の声も
共産党機関紙配布を巡り国家公務員法違反に問われた2人の公務員に対する7日の最高裁判決は無罪と有罪に分かれた。
判決が公務員の政治活動の制限を緩和する解釈を示したことで、弁護団からは従来の最高裁判断の実質的見直しと評価する声がある一方、15人の最高裁裁判官が全員で憲法判断をする「大法廷」で審理した上で違憲判断をすべきだったとの批判も出た。【和田武士】
「無罪確定」。午後3時過ぎ、東京都千代田区の最高裁南門。法廷から飛び出してきた弁護士が、旧社会保険庁(現日本年金機構)の堀越明男准職員(59)の無罪を告げる垂れ幕を掲げると、約50人の支援者から歓声と拍手がわき起こった。
だが、その2分後。厚生労働省の宇治橋(うじばし)真一元課長補佐(64)に対する判決を知らせる垂れ幕には、有罪維持を意味する「不当判決」の文字が。支援者が拡声機で「有罪が確定するようです」と説明すると、周囲からため息が漏れた。
堀越准職員は「本当にありがとうございました」と涙ぐみ、宇治橋元補佐は「両方無罪にすると(公務員の政治活動の幅広い制約を最高裁が認めた74年の)『猿払(さるふつ)判決』の見直しが必要で、両方有罪にすれば社会的な批判を受ける。だから有罪と無罪に分けた」と批判した。
2人は同日夕、弁護団と改めて東京都内で記者会見した。堀越准職員は「自分のビラまきは正当と認められたが一方は有罪。納得できない」。さらに「(ビラまきが悪いのなら)その場で注意するのが警察の役割。尾行したり写真撮影をした私に対する捜査こそ違法だ」と憤った。
一方、宇治橋元補佐は「一体、どういう人が何をやったら犯罪なのか分からない」と、判決のあいまいさを批判。自身を「管理職的」とされたことについて「私は管理職ではないし、厚労省には『管理職的』という言葉もない。実態を無視して有罪としたのは許せない」と語気を強めた。
弁護団事務局長の加藤健次弁護士は「最高裁はこれまで同種事件をことごとく有罪としてきた。猿払判決の実質的変更だ」と評価する一方、「それならば大法廷に回付して、今の時代に合った正しい憲法判断をしてほしかった」と述べた。
政党機関紙やビラの戸別配布は04~05年、猿払判決から約30年ぶりに起訴が相次いだ。国家公務員法違反では最高裁判決が有罪と無罪に分かれたが、住居侵入罪は2事件とも有罪が確定している。
『毎日新聞』(2012年12月07日 21時26分)
http://mainichi.jp/select/news/20121208k0000m040067000c.html
■ <政党機関紙配布>最高裁判決 規制強化主張に一定のくぎ
国家公務員の政治的行為を制限する規定の合憲性が争われた7日の最高裁判決は、従来の解釈より制限を緩和する判断を示した。大阪市などで公務員の政治的行為に対する規制強化の動きが進み、衆院選でも自民党や日本維新の会が規制強化を主張しているが、判決はこうした動きに一定のくぎを刺したと言える。
維新の橋下徹代表代行が市長を務める大阪市は7月、市職員の政治活動を一律規制する条例を成立させた。橋下氏は当初、罰則規定も検討したが、政府が違法との見解を示したため断念。違反には懲戒処分を科すこととなった。松井一郎幹事長が知事の大阪府議会にも同様の条例案が議員提案されている。
8月には自民とみんな、たちあがれ日本(当時)の3党が、地方公務員の政治活動に罰則を設ける地方公務員法改正案を議員提案(衆院解散で廃案)。自民は衆院選の政権公約にも地方公務員への罰則規定新設を掲げた。自民党などには、民主党の支持団体である自治労をけん制する狙いもある。自民党幹部は「公務員が機関紙の配布など、特定政党のために政治活動をするのはよくない」と話す。
しかし、日本が制度設計で参考にした米国法は93年の改正で勤務時間外の政治活動を原則自由化している。また、今回の事件の弁護団によると、英米独仏4カ国では規制違反に対する罰則はないという。
事件の当事者となった共産党の市田忠義書記局長は7日、東京都内で記者団に対し、判決を評価したうえで、「国家公務員といえども表現の自由は守られるべきだ。政治活動を規制する国家公務員法と人事院規則は極めて不当だ」と語った。【石川淳一、佐藤丈一】
◇制限対象を限定的に解釈
政治活動は国民の表現の一形態で、憲法はその自由を保障する。国家公務員の自由が制限されるのは、国民への奉仕者が政治的に偏向しては中立確保が危ぶまれるからだとされる。だが、国民の政治意識が変化する中、公務外での私的な政治活動がどれほど現実的な危険を及ぼすのか。小法廷はこの視点から、40年近く前の保守・革新対立時代に出た判例をとらえ直した。
74年の猿払(さるふつ)事件大法廷判決は、政治的行為を一律に厳しく制約していると解釈されてきた。国家公務員の政治活動が放任されれば(1)政治的中立性を損なう(2)所属組織(職場)の運営に党派的偏向を招く(3)行政組織に深刻な政治対立を醸成する--などの危険性が拡大する可能性を指摘。管理職であるか否かを問わず、制限を正当とした。
今回の判決は、政治的行為を新たに定義し、制限対象を限定的に解釈。猿払事件を「労働団体の活動」、今回の2事件を「一公務員の活動」とみて事件の性質を差別化した。須藤正彦裁判官は無罪意見の中で、国民の政治意識の変化に触れ、規制の範囲や手段の見直しを提案した。
猿払判決は長く、憲法学者を中心に「公務員を締め付けた」と疑問視されてきた。今回の判決に対しても「明確に違憲判断をすべきだった」との批判がある。だが、合憲の枠内で実質的な判例変更を行ったことで、無制限な摘発はほぼ禁じられた。国公法の規定は残るが「一律に処罰可能」との解釈ができなくなる以上、捜査機関は抑制的にならざるを得ない。【石川淳一】
(毎日新聞) - Yahoo!ニュース 12月7日(金)21時22分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121207-00000088-mai-soci
■ 国家公務員 政治活動を一部拡大 「赤旗」配布で最高裁初判断
休日に共産党機関紙「赤旗」を配ったとして国家公務員法違反(政治的行為の制限)の罪に問われ、二審で無罪と有罪に分かれた二人の元国家公務員の上告審判決で、最高裁第二小法廷(千葉勝美裁判長)は七日、検察側、被告側の上告をいずれも棄却した。
同法が禁止する政治活動について「政治的な中立性を損なう恐れが実質的に認められるものに限る」との初判断を示した。公務員の政治活動の範囲を広げる判決。
元社会保険庁職員の堀越明男被告(59)の無罪と、元厚生労働省課長補佐の宇治橋真一被告(64)の罰金十万円の有罪が確定する。
判決は「表現の自由は、民主主義を基礎付ける重要な権利である」と位置付け、政治的行為の禁止は、行政の中立的運営のためにやむをえない範囲にとどめるべきだと指摘。具体的には、管理職か、勤務時間内か、職場の施設を利用したかなどを総合的に考慮し判断すべきだとした。
その上で、堀越被告については「管理職でない公務員によって、職務と全く無関係に行われた」と判断。一方、宇治橋被告は「職員に影響を及ぼすことのできる地位にあった」と結論付けた。
裁判官四人のうち須藤正彦裁判官は、一般職の国家公務員による勤務外の行為は制限の対象外だとして、宇治橋被告も無罪とする反対意見を述べた。
国家公務員の政治活動の禁止規定は、郵便局員の政党ポスター掲示が罪に問われた「猿払(さるふつ)事件」の最高裁大法廷判決(一九七四年)が合憲とし、同種事件の判断基準とされてきた。検察側は堀越被告の二審の無罪判決について判例違反を主張したが、今回の判決は「事案が異なる」と退けた。
一、二審判決によると、堀越被告は二〇〇三年十~十一月、東京都内のマンションに赤旗号外を配布、宇治橋被告は〇五年九月、都内の警視庁職員官舎に赤旗号外を配った。
『東京新聞』社会(TOKYO Web)2012年12月8日 07時08分
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2012120890070847.html
共産党機関紙配布を巡り国家公務員法違反に問われた2人の公務員に対する7日の最高裁判決は無罪と有罪に分かれた。
判決が公務員の政治活動の制限を緩和する解釈を示したことで、弁護団からは従来の最高裁判断の実質的見直しと評価する声がある一方、15人の最高裁裁判官が全員で憲法判断をする「大法廷」で審理した上で違憲判断をすべきだったとの批判も出た。【和田武士】
「無罪確定」。午後3時過ぎ、東京都千代田区の最高裁南門。法廷から飛び出してきた弁護士が、旧社会保険庁(現日本年金機構)の堀越明男准職員(59)の無罪を告げる垂れ幕を掲げると、約50人の支援者から歓声と拍手がわき起こった。
だが、その2分後。厚生労働省の宇治橋(うじばし)真一元課長補佐(64)に対する判決を知らせる垂れ幕には、有罪維持を意味する「不当判決」の文字が。支援者が拡声機で「有罪が確定するようです」と説明すると、周囲からため息が漏れた。
堀越准職員は「本当にありがとうございました」と涙ぐみ、宇治橋元補佐は「両方無罪にすると(公務員の政治活動の幅広い制約を最高裁が認めた74年の)『猿払(さるふつ)判決』の見直しが必要で、両方有罪にすれば社会的な批判を受ける。だから有罪と無罪に分けた」と批判した。
2人は同日夕、弁護団と改めて東京都内で記者会見した。堀越准職員は「自分のビラまきは正当と認められたが一方は有罪。納得できない」。さらに「(ビラまきが悪いのなら)その場で注意するのが警察の役割。尾行したり写真撮影をした私に対する捜査こそ違法だ」と憤った。
一方、宇治橋元補佐は「一体、どういう人が何をやったら犯罪なのか分からない」と、判決のあいまいさを批判。自身を「管理職的」とされたことについて「私は管理職ではないし、厚労省には『管理職的』という言葉もない。実態を無視して有罪としたのは許せない」と語気を強めた。
弁護団事務局長の加藤健次弁護士は「最高裁はこれまで同種事件をことごとく有罪としてきた。猿払判決の実質的変更だ」と評価する一方、「それならば大法廷に回付して、今の時代に合った正しい憲法判断をしてほしかった」と述べた。
政党機関紙やビラの戸別配布は04~05年、猿払判決から約30年ぶりに起訴が相次いだ。国家公務員法違反では最高裁判決が有罪と無罪に分かれたが、住居侵入罪は2事件とも有罪が確定している。
『毎日新聞』(2012年12月07日 21時26分)
http://mainichi.jp/select/news/20121208k0000m040067000c.html
■ <政党機関紙配布>最高裁判決 規制強化主張に一定のくぎ
国家公務員の政治的行為を制限する規定の合憲性が争われた7日の最高裁判決は、従来の解釈より制限を緩和する判断を示した。大阪市などで公務員の政治的行為に対する規制強化の動きが進み、衆院選でも自民党や日本維新の会が規制強化を主張しているが、判決はこうした動きに一定のくぎを刺したと言える。
維新の橋下徹代表代行が市長を務める大阪市は7月、市職員の政治活動を一律規制する条例を成立させた。橋下氏は当初、罰則規定も検討したが、政府が違法との見解を示したため断念。違反には懲戒処分を科すこととなった。松井一郎幹事長が知事の大阪府議会にも同様の条例案が議員提案されている。
8月には自民とみんな、たちあがれ日本(当時)の3党が、地方公務員の政治活動に罰則を設ける地方公務員法改正案を議員提案(衆院解散で廃案)。自民は衆院選の政権公約にも地方公務員への罰則規定新設を掲げた。自民党などには、民主党の支持団体である自治労をけん制する狙いもある。自民党幹部は「公務員が機関紙の配布など、特定政党のために政治活動をするのはよくない」と話す。
しかし、日本が制度設計で参考にした米国法は93年の改正で勤務時間外の政治活動を原則自由化している。また、今回の事件の弁護団によると、英米独仏4カ国では規制違反に対する罰則はないという。
事件の当事者となった共産党の市田忠義書記局長は7日、東京都内で記者団に対し、判決を評価したうえで、「国家公務員といえども表現の自由は守られるべきだ。政治活動を規制する国家公務員法と人事院規則は極めて不当だ」と語った。【石川淳一、佐藤丈一】
◇制限対象を限定的に解釈
政治活動は国民の表現の一形態で、憲法はその自由を保障する。国家公務員の自由が制限されるのは、国民への奉仕者が政治的に偏向しては中立確保が危ぶまれるからだとされる。だが、国民の政治意識が変化する中、公務外での私的な政治活動がどれほど現実的な危険を及ぼすのか。小法廷はこの視点から、40年近く前の保守・革新対立時代に出た判例をとらえ直した。
74年の猿払(さるふつ)事件大法廷判決は、政治的行為を一律に厳しく制約していると解釈されてきた。国家公務員の政治活動が放任されれば(1)政治的中立性を損なう(2)所属組織(職場)の運営に党派的偏向を招く(3)行政組織に深刻な政治対立を醸成する--などの危険性が拡大する可能性を指摘。管理職であるか否かを問わず、制限を正当とした。
今回の判決は、政治的行為を新たに定義し、制限対象を限定的に解釈。猿払事件を「労働団体の活動」、今回の2事件を「一公務員の活動」とみて事件の性質を差別化した。須藤正彦裁判官は無罪意見の中で、国民の政治意識の変化に触れ、規制の範囲や手段の見直しを提案した。
猿払判決は長く、憲法学者を中心に「公務員を締め付けた」と疑問視されてきた。今回の判決に対しても「明確に違憲判断をすべきだった」との批判がある。だが、合憲の枠内で実質的な判例変更を行ったことで、無制限な摘発はほぼ禁じられた。国公法の規定は残るが「一律に処罰可能」との解釈ができなくなる以上、捜査機関は抑制的にならざるを得ない。【石川淳一】
(毎日新聞) - Yahoo!ニュース 12月7日(金)21時22分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121207-00000088-mai-soci
■ 国家公務員 政治活動を一部拡大 「赤旗」配布で最高裁初判断
休日に共産党機関紙「赤旗」を配ったとして国家公務員法違反(政治的行為の制限)の罪に問われ、二審で無罪と有罪に分かれた二人の元国家公務員の上告審判決で、最高裁第二小法廷(千葉勝美裁判長)は七日、検察側、被告側の上告をいずれも棄却した。
同法が禁止する政治活動について「政治的な中立性を損なう恐れが実質的に認められるものに限る」との初判断を示した。公務員の政治活動の範囲を広げる判決。
元社会保険庁職員の堀越明男被告(59)の無罪と、元厚生労働省課長補佐の宇治橋真一被告(64)の罰金十万円の有罪が確定する。
判決は「表現の自由は、民主主義を基礎付ける重要な権利である」と位置付け、政治的行為の禁止は、行政の中立的運営のためにやむをえない範囲にとどめるべきだと指摘。具体的には、管理職か、勤務時間内か、職場の施設を利用したかなどを総合的に考慮し判断すべきだとした。
その上で、堀越被告については「管理職でない公務員によって、職務と全く無関係に行われた」と判断。一方、宇治橋被告は「職員に影響を及ぼすことのできる地位にあった」と結論付けた。
裁判官四人のうち須藤正彦裁判官は、一般職の国家公務員による勤務外の行為は制限の対象外だとして、宇治橋被告も無罪とする反対意見を述べた。
国家公務員の政治活動の禁止規定は、郵便局員の政党ポスター掲示が罪に問われた「猿払(さるふつ)事件」の最高裁大法廷判決(一九七四年)が合憲とし、同種事件の判断基準とされてきた。検察側は堀越被告の二審の無罪判決について判例違反を主張したが、今回の判決は「事案が異なる」と退けた。
一、二審判決によると、堀越被告は二〇〇三年十~十一月、東京都内のマンションに赤旗号外を配布、宇治橋被告は〇五年九月、都内の警視庁職員官舎に赤旗号外を配った。
『東京新聞』社会(TOKYO Web)2012年12月8日 07時08分
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2012120890070847.html
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