ウインダー Winderは前回取り上げた歴史旅行の本*で、17世紀のフランス(正確にはロレーヌ公国)の有名画家として、ラ・トゥールについて記すとともに、ロレーヌ生まれながらイタリアで画家としての人生を終えた風景画家 クロード・ジェリ(ロラン) Claude Gellée ( Lorrain, ca.1600~1682)も取り上げている。
*Simon Winder, LOTHARINGIA: A Personal History of France, Germany and the Countries In Between, 2019, p.257
ロレーヌ生まれだが・・・・・
クロード・ジュリ(ロラン)は、生まれは現代のフランス、ロレーヌ、ラ・トゥールが工房を持ったリュネヴィルの南西に位置するシャマーニュの町に生まれた。貧困な家庭環境だったが画業修業のためイタリアを訪れてから、画業生活のほとんどをローマなどイタリアで過ごし、終世故郷に帰ることはなかった。しかし、画家がロレーヌを愛していたこともあって、ロレーヌのクロード・ロラン ’Le Lorrain’として知られていた。
ヴィンダーは17世紀フランス画壇の3大巨匠とされるラ・トゥール、プッサン、クロード・ロランの中で、プッサン(ノルマンディ生まれ)、ロラン(ロレーヌ生まれ)の二人は一応フランス(文化圏)生まれではあるが、画家としての活動はほとんどイタリアであったという点で、直ちにフランスの巨匠と考えるのは一寸おかしいとしている。この点はブログ筆者も以前に指摘したことだが、フランス美術界とすれば、フランスの栄光誇示という点ではフランス人画家として考えたいのだろう。
風景画好きなイギリス人
クロード・ロラン『シルビアの雄鹿を撃ったアスカニウスのいる風景』Landscape with Ascanius shooting the Stag of Sylvia、油彩、カンヴァス
アシュモリアン美術館、オックスフォード大学
その点はともかく、ウインダーはオックスフォード大学のアシュモリアン美術館所蔵のクロード・ロランの歴史風景画の作品『シルビアの雄鹿を撃ったアスカニウスのいる風景』Landscape with Ascanius shooting the Stag of Sylvia をめぐり、夫妻の間で評価が別れた逸話を記している。ロランは神話を主題とした風景画家で名声を確立した画家だが、風景画のジャンルは長年低い位置づけに甘んじてきた。そのため、評価がかなり別れることがある。ブログ筆者は、風景画は比較的好きだが、特にイギリス人、男性が好む人が多いという印象を持っていた。イギリス滞在時、ロイヤルアカデミーでの風景画の展覧会で、見ている人のほとんど全てが男性という場面に出会ったこともあった。
この作品、アシュモリアン美術館で見た時、クロード・ロランの影響を受けたと言われる古典的風景画の作品として大変美しいと思ったが、イギリス人の好きな多くの風景画の中に含めると埋没しかねないとも感じた。
コンスタブル展
他方、コロナ禍の下、各地の美術展などが次々と中止されてきた中で、東京の三菱一号館美術館で本年2月20日から『テート美術館所蔵 コンスタブル展』が開催されることになった。コンスタブル (あるいはカンスタブル) John Constable (1776~1837)は、ブログ筆者にとってはかなり懐かしい思いがする画家である。このブログでも「コンスタブルの世界」「牧歌は聞こえない:イギリス労働」など何度か記したことがある。
コンスタブル展
他方、コロナ禍の下、各地の美術展などが次々と中止されてきた中で、東京の三菱一号館美術館で本年2月20日から『テート美術館所蔵 コンスタブル展』が開催されることになった。コンスタブル (あるいはカンスタブル) John Constable (1776~1837)は、ブログ筆者にとってはかなり懐かしい思いがする画家である。このブログでも「コンスタブルの世界」「牧歌は聞こえない:イギリス労働」など何度か記したことがある。
ジョン・コンスタブル『ベルゴート・ハウス』
John Constable, East Bergholt House, c.1809,
Turner Collection: John Constable: Nature And Nostalgia
Oil paint on canvas
Turner Collection: John Constable: Nature And Nostalgia
Oil paint on canvas
Presented by Miss Isabel Constable 1887
筆者はかつてケンブリッジ大学に滞在中に、暇ができると自ら車を運転して何度もコンスタブルが描いたイーストアングリア、さらに北東部イングランドといわれる地域を訪れたことがあった。西はケンブリッジから東は提携校 University of Essexのあるコルチェスターをカヴァー、北はキングス・リンからノーリッジをカヴァーする地域で、風景ばかりでなく、ピューリタン運動などイギリス史の上でも、重要な地域である。
コンスタブルはクロード・ロランのことを「世界が今まで目にした最も完璧な風景画家」だと述べ、クロードの風景では「全てが美しく-全てが愛らしく-全てが心地よく安らかで心が温まる」と絶賛している。クロード・ロランの他、コンスタブルが影響を受けたと思われる画家としては、 トーマス・ゲインズバラ, ピーター ・ポウル・ルーベンス,アンニバレ・カラッチ、ジェイコブ・ライスデイルなどが挙げられることが多い。
さらに、コンスタブルはターナーと全く同時代の画家であり、ジャンルも重なる部分が多かった。二人の画風の特色、ライヴァル関係は美術史的にも極めて興味深い。
コンスタブルはサフォーク州イーストバーゴルドの裕福な製粉業者の家庭に生まれたが、生家は19世紀中頃に取り壊された。ただ生家の前面部分(上掲作品左上の館)だけは画家の作品 East Bergholt Houseから知ることができる。
コンスタブルの作品制作の対象となった地域は East Bergholt, Dedham Vale, など、彼の家の近隣地域が多く、今では「コンスタブルの国・故郷」“Constable Country”として知られている。この点については、次回にしよう。
さらに、コンスタブルはターナーと全く同時代の画家であり、ジャンルも重なる部分が多かった。二人の画風の特色、ライヴァル関係は美術史的にも極めて興味深い。
コンスタブルはサフォーク州イーストバーゴルドの裕福な製粉業者の家庭に生まれたが、生家は19世紀中頃に取り壊された。ただ生家の前面部分(上掲作品左上の館)だけは画家の作品 East Bergholt Houseから知ることができる。
コンスタブルの作品制作の対象となった地域は East Bergholt, Dedham Vale, など、彼の家の近隣地域が多く、今では「コンスタブルの国・故郷」“Constable Country”として知られている。この点については、次回にしよう。